何処までもやせたくて(23)悪夢・・・のつづき


そして、朝。

ほとんど眠れなかった私は、ぐっすり寝てる彼を置いて、買い出しに出た。
せめてもの償いに、おいしい朝食を作ろう、と思い立って。

最初は、冷蔵庫の中にあるもので、と考えたのだけど、
普通の男の人が満足しそうな食事を作るには、
食材も調味料も、物足りない。
おかげで、かなりの出費になったものの、
ベーコンエッグとフレンチトーストの朝食を、彼は喜んで食べ始めた。

でも、その途中・・・
「キミは、食べないの?」
私のお皿を見ながら、彼がポツリ。

「えー、食べてますよー」
「いや、さっきから、レタスをちょっとつまんで、プチトマトを1、2個食べただけだよね」
「うーん、そんなにお腹すいてないし。それに、ほら、ダイエット中だから」

他の人はともかく、彼に対してなら、それで済むと思ってたのに。
返ってきた言葉は、他の人と同じ、いやむしろ、もっときついものだ。

「ダイエット、ダイエットって、そこまでやせても、まだやせたいの?
っていうか、絶対、やせすぎだよー。
前に、見えないとこに肉がついてる、とか言ってたから、
そんなもんかなって思ったりしてたけど、昨夜エッチしてみて、
むしろ、逆じゃないかって。
どこ触っても、骨だけなんだもん。
ぶっちゃけた話、これ以上やせられると、女の子としての魅力を感じなくなっちゃいそうだし」

一瞬、耳を疑う私。

「細ければ細いほどいい」って言ってたのに、あれは何だったの?
「本当に細いんだね」って、昨夜何度も言ってくれたのも、いい意味じゃなかったってこと?
この人だけは、やせたい私の味方だって信じてたのに。

黙り込んでいると、彼は言い過ぎたと感じたのか、
「ごめんね。傷つけたなら、謝るよ。
でも、まさかここまでやせちゃってるとは思わなかったから。
ショックっていうか、心配っていうか。
だから、もう、ダイエットはやめようよ。
で、今度、おいしいもの、食べに行こっ。
もうちょっと太ったほうが、絶対いいって。
もともと、スタイル、すごくいいんだから」

一生懸命、説得してくれてる。

でも、私はなぜか、うわの空。

そんなこと言ったって、太ったら嫌いになるに決まってる。
好きになってくれたのは、ある程度やせてからの、30キロ台の私なんだし。

そのうち、ふと気づいた。
待てよ・・・
これ以上やせたら、女の子としての魅力を感じなくなる、ってことは、
ああいうことをしたい気持ちもなくなるってこと、だよね。
そっか、もっとやせれば、ああいうことからも解放されるんだ・・・

「どうしたの。大丈夫? 
ホント、きついこと言ってごめん。
でも、逆ダイエット、頑張ってみようよ。
僕も、協力するから」

うわの空のまま「はい」と答える。
まるで、悪戯を叱られてるのに、次の遊びが気になって仕方ない子供みたいに。

もちろん、逆ダイエットなんてするつもりはないけど、
返事をしないと、話が終わりそうになかったから。

でも、返事だけでは許してもらえず、
フレンチトーストまで食べさせられるハメに。
彼に喜んでもらえるよう、砂糖もたっぷり使っちゃったから、
気持ち悪くなるほど、胃に重く感じる。

「おいしいもの、食べに行こっ」って、
こういうものまで食べなきゃいけないってことなのかな。

そんなの、困る。
なんとか防がなきゃ。

精一杯の笑顔で、彼を送り出したあと、すぐにシャワーを浴び、体重を計った。

34.9キロ。
やっぱり、増えてる。

次のデートまで、もう、何も口にしちゃいけない。
やせなきゃ。
もっとやせなきゃ。
絶対にやせなきゃ。
彼がいっそ、魅力を感じなくなるくらい。

もう二度と、悪夢を見ずに済むように。


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット


 

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