何処までもやせたくて(28)続・恐怖のバイキング


会話が、パタッと止まった。

彼が、戻ってきたからだ。
入れ替わりにトイレに行くつもりだったけど、やめることに。
吐きに行ったと思われるのは、シャクだもの。

二人の会話の最後のほうは、彼も聞こえてたみたいで、
お店を出たあと、
「大丈夫? いろいろ言われてたみたいだけど」
優しい言葉をかけてくれた。

「うん、大丈夫。全然気にしてないから」
笑顔で答える私。
でも、彼の口からは、想像もしない言葉が。

「いや、少しは気にしたほうがいいよ」

「えっ・・・」

きょとんとする私に、彼は重い口調になって、
「さっきの連中はサイテーだけどさ、同じこと、感じてる人はけっこういるんじゃないかな。
どう見ても、やせすぎなんだし。
今日の服も可愛いけど、もうちょっと太らないと、似合わないよ」

要は、ダメ出しってことだ。
お店で言ってくれなかった感想を、こんな形で聞くことになるなんて・・・

しかも、そのあとに待っていたのは、服へのダメ出しよりショックな言葉。

「街歩いててもさ、いろいろ言われるじゃない。
ひそひそ声で。
ああいうの、全然気にならないの?
俺はすっごく気になるんだけど・・・」

「気にはなりますよー」
自分でもよくわからないまま、話をこじれさせたくなくて、彼に合わせてみる。

「だったら、頑張って太ろうよ」

お説教を聞き流しながら、ひどく虚しい気持ちになってしまって。
彼は、今の私を連れて歩くのがイヤなんだ。
たしかに「きもーい」なんて言われるような女の子、イヤだろうけど。

でも、本当に好きなら、どんな体型でも愛せるでしょ。
結局、この人は私の外見を気に入ってくれただけで、中身は見てくれてない。
いろいろ言われるのがイヤで、太らせたいだけなんだよね。
別に私のこと、本気で心配してるわけでもないんだ・・・

「来週は会えないけど、その次の週はまた、さっきの店にしようか。
二週間、ちゃんと食べるんだよ。
ちょっと頑張れば、みんながうらやむ体型に戻れるはずだからさ」

彼の誘いに、テキトーに答えるうち、私のなかでひとつの結論が出た。

この人とは、別れよう。

でも、私から言い出すと、彼が傷つくかもしれない。
だから、もっとやせよう。
やせてやせて、彼があきれてしまうぐらいに。

20キロ台まで行っちゃえば、いくらなんでも、愛想つかしてくれるよね。
やせたい私にとっては、一石二鳥だ。

家に帰り、体重を計ったら、34.3キロ。

彼のせいで、1.2キロも太っちゃったけど、その分、減らし甲斐があると思えばいいや。

二週間で4キロ以上、どうやって落とそうか・・・
大変だけど、達成できない数字じゃない。

計画を練るうち、なんだか、ワクワクしてきた。


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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