何処までもやせたくて(22)悪夢・・・のはじまり


「今夜、そっちに泊めてもらえないかな」

夜11時前に届いた、彼・・・S先輩からのメール。
友達と飲んでて、終電を逃しそうだから、
タクシーで行ける私の家に泊めてほしい、
という内容だった。

長く付き合ってる恋人同士なら、珍しいことではないかもしれないけど、
私達の場合は、まだ一ヶ月。
昼間に、家に来てもらったこともない。

だから、嬉しさより、困った気持ちが大きくて。
でも、困ってるのは彼のほうだから、断るわけにはいかない。

「わかりました。気をつけて」
と、メールして、準備にとりかかることに。

そのとき、ふと、別の不安がよぎった。

もしかして・・・求めて来られたら、どうしよう、って。

高校時代まで、恋愛禁止だった私は、S先輩以外の人と付き合ったことがない。
付き合ってる以上、いつかはそういうことも・・・とは思ってたけど、
こんなに早く、しかも突然、そうなるのはいやだ。

でも、これって完全な取り越し苦労で、彼は寝る場所を確保したいだけかも。
キスもまだだし、紳士的なほうだと思うから、こんな形ではそんなふうにしないはず。
だけど、親に内緒で、そういう経験をすることに、
ほんのちょっぴり、快感めいた気持ちもなくはないっていうか。
母は怒るだろうし、父はガッカリだろうな。

とはいえ、やっぱり、いやだ。

不安は、シャワーを浴びている間も高まるばかり。
いつもより、お腹がぽっこりしてる。
カテキョのバイトのとき、断りきれずにケーキを食べたせいかな。

どうしよう。彼は、細い子が好きなのに。

体重を計ったら、34.7キロ。
朝より、500グラムも増えてるし。

泣きそうになりながら、彼のために酔い醒ましの冷たいスープを作り、
彼のことを待つ。
何も起きないことを、心から祈りながら。

しかし・・・
祈りは通じず、不安は的中。

1時半ごろ、家に着いた彼は「シャワーを浴びたい」と言ったあと、
「突然すぎかもしれないけど、そのあとで、ちょっといい?」
それとなく、でもわかるように誘いかけてきた。

付き合ってる人を真夜中に家に入れた以上、うなずくしかない私。

それから起きたことは、あまりよく覚えていない。
でも、全然気持ちよくなんてなかったし、
ただただ、怖くて苦しくて、いけないことをしてるみたいで・・・

覚えているのは、彼が腕をつかんだり、腰のあたりを触ったりしながら、
「本当に細いんだね」
何度も言ってくれたことぐらい。

お腹のぽっこりが気になってたから、それには少しほっとしたけど、
とにかく早く終わって! って、
そんなことばかり、考えていた。

彼のことは好きなはずなのに。
突然なことをのぞけば、それなりに優しくしてくれてるはずなのに。
なぜ、苦痛や恐怖しか、感じないの?
せっかくの記念すべき夜に、そんな気持ちでいることが申し訳なくて。
経験不足で、臆病な自分が、いやでいやでたまらなくて。

なんとか終わってからも、その気分をひきずり続けた私は、
たった今起きた現実を認められずに、悶々としていた。

いっそ、これが夢ならいいのに。
悪夢なら、早く醒めてほしいよ。


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