何処までもやせたくて(30)邪魔者は消えて!
テスト期間は誰にも邪魔されず、ダイエットに専念できたから、
体重がけっこう落ちた。
31.9キロ。
記録更新。
あと2キロ落とせば、20キロ台!
なのに、彼(=S先輩)とのデートでたくさん食べさせられ、
33.2まで戻ってしまった。
もう、イヤ!
前よりやせたはずの私を見て、そろそろ見放してくれると思ったのに、
「なんか、こないだよりやつれた感じだけど、大丈夫?
テストも終わったことだし、頑張って太ろうね」
太ろうね、って言葉を聞くだけで、私の心の中は大パニック。
彼はなかなか、私を太らせることをあきらめてくれない。
つらいよ。
それでなくても・・・
あの悪夢のような夜のせいで、彼のことがさらに疎ましくなっているのに。
じつはあのあと、生理が来ていない。
高校のときにダイエットした経験から、そろそろ止まる頃だと思っていたし、
やせた証しなら、むしろ喜ばしいことなのだけど・・・
エッチしたのはまぎれもない事実。
しかも、彼は避妊具を使ってなかった。
まさかとは感じながらも、数日前、妊娠検査薬で確かめてみることに。
結果は大丈夫だったものの、なんでこんなことしなくちゃいけないんだろうって、涙が出て。
正直いって、この人とつきあっていても、いいことなんか何もない。
彼だって、生理もなくなるほどやせて、食事もエッチも大嫌いな女の子とつきあってても、
何もいいことないでしょ。
だから、私のほうから、関係を断つことにした。
もうすぐ、東京の伯母とも会わなきゃならないし。
私がダイエットしてることについて、伯母をうまく納得させないと、
実家の親に報告されてしまうから。
面倒な関係は、少ないほうがいい。
そう思って、彼に手紙を書いた。
今までのお礼と、お付き合いを終わりにしたいというお願いと。
なるべく彼が不快にならないよう、自分がいかにいたらない恋人だったかを、
いろいろ綴っていくうち、涙が止まらなくなって・・・
そう、私はダメな子なんだ。
自分にはもったいないような人に好きになってもらったのに、
楽しませるどころか、わずらわしい思いばかりさせたあげく、
自分から、別れようとしているなんて。
「今の私、ダイエットしか、頭の中にないんです。
太るなんて、絶対ムリ。
先輩がいいと思ってくれる体型にはなれっこないし、
一緒に食事をしても、うんざりさせるだけですよね。
だから、私のこと、見放して下さい。
先輩には、もっとふさわしい女の人がいくらでもいるはずだから」
彼のことはひとことも悪く言ってないから、不快にはならないよね?
男性との交際自体、生まれて始めてだから、こんな別れ方でいいのかな、
なんて不安に思いつつ、なんとか書き終え、投函すると、少しホッとした。
これで、面倒な関係から、ひとつ、解放されるんだ・・・
数日後、彼から「会って話そう」というメールが来たけど、
会って気持ちがぐらつくのと、そこで何か食べさせられるのがイヤで、
「電話にして下さい」と、返した。
すぐに電話が来て、彼は考え直すようにいろいろ言ってきたけど、
私はただただ、泣きながら謝るばかり。
そのうち、彼もあきらめたみたいで・・・
「わかったから、最後にひとこと言わせてね」
と、お説教をひとしきり。
「キミのやってることって、もう、ダイエットじゃないから。
自分の体、ダメにしてるだけだからさ。
最近は、階段昇るのもきつそうだし、
歩いてて、かかとが痛くなるのも肉がなさすぎだからじゃない?
このままだと、学校にもいけなくなるし、下手したら、死んじゃうよ。
短い間でも付き合った者としては、そんなことになってほしくないし。
自分が危険なことやってること、気づかなきゃダメだよ!」
今までになく激しい語気だったけど、私は、これで終われるんだ、
という安堵の思いで、聞き流すだけ。
それより、彼が付け足したひとことに、少し憂鬱にさせられた。
「あ、そうそう、サークルまでやめるなんて、言わないでね。
プライベートとは別、だからさ。
振られた上に、自分のせいで部員が一人減るなんて、
踏んだり蹴ったりっていうか、副部長としては、責任問題だから(笑)
今度の合宿、ちゃんと参加するって、約束してくれる?」
そうだ、八月上旬に、三泊四日の合宿があるんだ・・・
「はい、行くつもりです・・・」
これ以上、話をややこしくしたくなくて、そう答えたものの、
正直いって、面倒くさい。
その頃には、もっとやせていたいけど、テニスをするには体力も必要だし。
合宿はとりあえず行くとして、先輩(もう、彼じゃない)とのほとぼりが冷めたら、
サークルもやめることにしよう。
恋もサークルも、ダイエットには邪魔だから。
伯母とのことも、いざとなれば無視すればいい。
それで、嫌われてしまったとしても、私には、ダイエットが残るから。
それで十分、だもの・・・
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