何処までもやせたくて(33)続・S先輩の嘘


一瞬、耳を疑った。
お付き合いを断ったのは私からだったはずなのに。
これって、どういうこと?

「あのさ、私の友達がS先輩の友達と付き合ってるじゃない。
で、いろいろ聞いたんだけど、なんか、大変だったみたいだよー」
「大変、って?」
「自分からアタックしてきたくせに、いざ付き合いが始まると、
デートも二の次で、ダイエットにハマリまくりで」
「あれって、もう、ダイエットなんてレベルじゃないでしょ」
「うん。だから、先輩も心配して、ちゃんと食べるように言ったらしいんだけど。
全然、聞く耳持たない感じで、逆ギレするんだって。
最後はもう、先輩も疲れ果てて、逃げ出したみたいだよ。
頼むから、別れさせてくれ、って」

半分以上、事実とは違ってた。
たしかに、ダイエットのことでは先輩を振り回したかもしれないけど、
自分からアタックしたり、逆ギレした覚えはないし、
これ以上振り回したくなくて、私から終わりにしたんだもの。

いったい、どうして、そんな嘘をつくんだろ・・・

「先輩が言うには、今までいろんな子とつきあったけど、
あんな変な子、初めてだって」
「モテるんだから、何もあんな子とつきあわなくてもよかったのにねー」

ふと、気づいた。
先輩にとって、相手から別れを切り出されることなんて、滅多にないことじゃないか、と。
それも、私みたいな子から。
たぶん、私は先輩のプライドをズタズタにしちゃったんだ。
それで、まわりの人に嘘をついたんじゃないのかな・・・

そんな想像をするうち、やりきれない思いがこみあげてくる。
そして、涙も。
すすり泣きの音が聞こえないよう、嗚咽を我慢しながら、
この合宿が終わったら、絶対にサークルをやめる、って決めた。

人間関係って、なんでこんなに面倒なんだろ・・・

やっぱり、こんな嘘だらけな世界とは訣別して、ダイエットに専念しよう。
頑張れば頑張っただけ、結果が出るダイエットの世界は、
もっとシンプルで、私を裏切ったりしないから。

「そろそろ、出よっかー」
「うん、そっだね。
で、売店行ってアイス食べよー」
「さっき、あんなにボリュームたっぷりの夕食食べたのに。
絶対、太っちゃうよー」
「いいのいいの。
ガリ子みたいになるより、好きなもの食べて太ったほうが、全然、幸せだもん」
「だよねー。
うん、私も何か、デザート食べるとすっかぁ(笑)」

まるで、私に言い聞かせでもするようなやりとりを残し、お風呂から上がる気配の彼女たち。
もちろん、私が近くにいることを知ってたら、
偽善的なきれいごとしか言わないんだろうけど。

でも、あの人たちのほうが幸せだとは、全然思えない。
陰でこそこそ、人の悪口言って、食欲もコントロールできずに。
そんなだらしない人たちより、私のほうが、絶対、幸せだ。

彼女たちの気配が脱衣場からも消えるのを確認して、立ち上がろうとしたら、
あっ・・・
一瞬、立ちくらみがして、転びそうになった。
そのとき、変な足の着き方をしたせいで、かかとに激痛が・・・

でも、大丈夫。この程度は慣れっこだから。
湯船の外で、夜風に当たってればすぐに治るはず。
そうだ、気分が治まったら、もうしばらく半身浴していこう。

あの人たちみたいにならないよう、もっともっと頑張らなきゃ。


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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