何処までも痩せたくて(32)S先輩の嘘


サークルの合宿から帰ってきて、三日。

いろんなことがありすぎて、まだ整理ができていないのだけど、
整理するためにも、思い出してみる。

まず、行きのバスからして、気分は最悪だった。
バイトの徹夜明けで寝てなかったせいか、
テニスをするための筋力をつけるために、卵の黄身などのたんぱく質ばかりを食べたせいか、
胃の調子がおかしく、車酔いも手伝って、戻しちゃいそうな感じ。

でも、そんなことになったら、食べ吐きを疑ってる人たちが何を言い出すかわからない。
必死の思いで持ちこたえたものの、宿泊先の温泉旅館に着いた途端、
全身のだるさと、頭のふらつきで、テニスどころではなくなった。

そこで、この日の練習には参加せず、部屋で休むことに。
そのまま、眠り込んでしまった私が、目覚めたのは夜七時すぎ。
たぶん、他の人たちは夕食で盛り上がってるはずだ。

でも、旅館の豪勢な夕食なんて、絶対に食べたくない。
(だって、見るだけでも太りそうなんだもん・・・)

吐き気はもう治まってたけど、私はお風呂に行くことにした。
この流れなら食べずに済みそうだし、その分、ゆっくり半身浴でもすれば、やせられるから。

露天風呂には他に誰もいなくて、星空も独り占め。
このところの気苦労も、少し消える気がする。

でも、そんな平和な静寂は、けたたましい話し声によって破られた。
同じサークルの女の子たちが食後のひと風呂を浴びにきたのだと、
すぐに気づいた私は、奥のほうに移動。
そこは男風呂とつながっていて、カップルが混浴するための隠れスペースになっている。

ここであの人たちと顔を合わせるよりは、知らないカップルに出くわすほうがいいや。
で、願わくは、あの人たちが私に気づかず、出て行ってくれれば最高。

そんな気分でいる私の耳に、ひっかかる会話が飛び込んできた。

「あのガリ子、とうとう倒れたね」
「そりゃ、倒れるって。
歩けてるのが不思議っていうか。
脚とか、ウチらの腕くらいでしょ」

ガリ子、って・・・もしかして、私のこと?

「あそこまでやせると、気持ち悪いよね」
「そんなこと言っちゃって、あんた、同じクラスでけっこう仲いいんじゃなかった?」
「んなことないって。
仲よくするのは、テストのときだけ。
あの子、異常なくらい丁寧にノート取ってるからさー」
「ふーん、ガリガリでガリ勉なんて、サイテーじゃん(笑)」

聞くに堪えない会話だ。
私のおかげで助かったくせに、サイテーなのは、そっちじゃないの!

でも、せっかくだから、
この機会に本音を聞いてやろうじゃない、という興味も沸いてきて・・・

「だからさー、また、学年末のテストで世話になんなきゃならないから、
それまでは仲いいふりしとかないと」
「でも、その頃にはもう、この世にいなかったりしてね」
「やだぁー(笑)」

ちょっとー! 勝手に殺さないでくれる?
でも、ここまで嫌われてるとは。
ショックで、耳をふさぎたくなる。

そんな私の耳に、もっと聞きたくない想定外の言葉が・・・

「けどさー、合宿によく来れたよねー。
S先輩に振られたばかりなんでしょ」
「あー、そうらしいよね。私なら、サークルもやめちゃってるよー」


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?