何処までもやせたくて(29)テスト期間の招かざる客


「すっごーい。こんな完璧なノート、初めて見た!
助かるわ~。ありがと、ね」

同級生のわざとらしい言葉に、愛想笑いで答える。
それにしても、わざわざバイト先にまで、ノートを借りに来るなんて、
あつかましいというか、切羽詰ってるというか。
自分には、とても真似できないし、したくもない、って思う。

大学は今、テスト期間。
日頃、講義をサボりがちな人たちが、ノート探しにあせりまくってる。
そこで、目をつけられたのが、私。
講義は一回も休んでないし、ノートもけっこう真面目にとってるほうだから、
「コピーさせて!」の集中攻撃を浴びることとなった。

バイト先のファミレスまで来た、この子で五人目。
べつに、仲がいいわけでもない。
まあ、昼食の誘いを断ってばかりの私には、仲のいい同級生なんて、いないんだけど。

高校時代も、ノートを貸すことは珍しくなかった。
でも、相手は仲のいい子に限られてたし、
あいさつぐらいしかしない子と、ノートの貸し借りするなんて、あり得なかったよ。

だいたい、ふだんサボっておきながら、こういうときだけ、
他人の力に頼って解決しよう、という態度が理解できない。
自分のことは自分でやる、っていう発想、ないのかな?
それに、私のノート使って、テストを乗り切ったところで、
本当の知識は身につかないのに。

そんなことを考えながら、愛想笑いを続けていたからか、
この子も私に、お愛想を言ってきた。

「この店の制服、チョーかわいい! スタイルいいから、チョー似合うねー」
不自然なほど「チョー」に力をこめた調子で。

でも、言われた内容ほど、嬉しさを感じない。
だって、この子、私がもっと体重あったときにさえ、
「なんで、お昼一緒に食べないのぉ。それ以上やせると、男の子に引かれるよー」
なんて、ずけずけと言ってきたことがあるもの。

デリカシーがないっていうか、要は中年のオバサンみたいな性格。
だから、自分の都合であつかましくノート借りに来たりできるんだ。

やっぱり、この子のことはちょっと好きになれない。
いっそ、ノート貸すの拒否しちゃえば、面白かったかも、という意地悪な考えがよぎる。

とはいえ、私も、ここで恩を売っておけば、これから付き合いやすくなるかな、なんて、
自分なりの計算をしていたりして。
大学くらいになると、ある意味、オバサン同士みたいな付き合いをするようになっちゃうのかも、
って、ふと気づいた。

とりあえず、お愛想にはお愛想で、ということで、
「それ、ホント~? 似合ってるといいんだけどぉー」
心のない返事をわざとらしくしながら、自分もオバサンになった気がして、イヤな感じ。

でも、もっとイヤなのは・・・
結局、相手に合わせてしまう、自分の八方美人なところだ。
いい子に思われたくて、嫌われたくなくて、
好感情を持っていない相手にも、イヤと言えない。
それが、あとですごくストレスになったりするのに。

同級生が帰ったあと、休憩時間に、愚痴ってみた。
もちろん、なみちゃんを相手に。

そしたら、
「私もおんなじだよー。
頼まれごと、絶対断れないもん。
ノートも利用されまくってるしさぁ」
同類がいたことに、少し安心しながら、
だからこそ、なみちゃんとは気が合うんだ、と思った。

でも、そろそろ変わりたい。
ダイエットして、少しは性格変わるかと思ってたのに、全然、だもの。
食べたくないものを拒否するように、付き合いたくない人も拒否できるようにならなきゃ。

それはそうと、なみちゃん、ちょっと太ったみたい。
私は前の、きゃしゃすぎる感じが好みだけど、今のほうが男の子受けする可愛さかもしれないな。
本人も「40キロ台になりたい」なんて言ってたし、納得の逆ダイエットだったりして。

それにしても、何キロ太ったんだろ?
前はたしか、37キロだったはずだけど、今は何キロなのかな?
無性に聞きたくなったけど・・・なんとか、思いとどまった。

そういうこと、気安く聞くのって、さっきの子と一緒で、オバサンみたいだもん。
心もカラダも、オバサンにはなりたくないから・・・


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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