何処までもやせたくて(83)寝過ごしたせいで


時計を見たら、8時を少し回ったところ。
一瞬、ぼーっとしたあと、大変なことに気づいた。

どうしよう、彩華ちゃんのカテキョ、7時からの予定なのに。
どうしようもない、もう間に合わないよ。

ケータイを見ると、案の定、彩華ちゃんのお母さんからの着信が、いくつも入ってる。
あ、彩華ちゃんからのメール、もだ。
とにかく、謝罪の連絡をして、予定変更の相談とかしなくちゃ。
でも、何て言えばいいの。

気持ちを落ち着かせ、言葉を考えながら、
今朝からのことが頭の中をぐるぐるかけめぐった。

目が覚めたら、Eクンはもう起きていて・・・

というか、徹夜したみたいだったから、理由をきくと、
「急ぎのレポート、必死に仕上げてたんだよねー。
午前の講義に、提出しなきゃならないから」

そういう状況にもかかわらず、昨日、私を助けてくれたことに、大感激したっけ。

だから、せめてものお礼にと、朝食を作り、自分でもしっかり食べた。
元気にならなきゃ、なりたいって、今までにないほど強く思えたから。
実際、食べたことで元気になれたし、帰り道、いつもはつらい駅の階段も、
少しは楽に、昇り降りできた。

で、帰ってきて・・・
体重を計ったんだよね。

そう、あのへんからおかしくなったんだ。
絶対増えてるんだろうな、って思ってたら、
最低記録タイの、25.9キロ。

やばいというショックよりも、昨夜と今朝、食べずにいれば、
記録更新も可能だったのに・・・という後悔のほうが大きくて、
そういう自分に、ショックを受けた。
昨日、Eクンの家で感じたほどには、自分のこと、
やせすぎだとは思えなかったし。

だから、こんなんじゃいけないと思って、おそばを食べたんだっけ。
空腹感はまったくなかったけど、納豆サラダそば、みたいにして、
栄養重視で、頑張って食べた。

ところが、食べ終わって、ポコッと膨らんだお腹を見た途端、
食べるんじゃなかった、っていう後悔に襲われて・・・

カロリー消費のためにストレッチをしたり、部屋の掃除を始めたんだ。

そのうち、疲れてきて、全身がだるくなり、眠くて仕方なくなった。
よく考えたら、2日続けて外泊だったし、寝不足なのかなって。

それで、1時間くらい仮眠しようと、横になったら・・・

つまり、5時間以上も寝ちゃった、ってことか。

しょうがない、変に繕ったりせず、
「疲れていて寝過ごしました」って、正直に言おう。

前に、予定変更をお願いしたことはあったけど、すっぽかしたことはないから、
誠意をもって謝れば、何とか許してもらえるかもしれない。

勇気を奮い起こして、ケータイのボタンを押す。

・・・・・・あれ?

誰も出ない。
留守電になってる。

一瞬、気まずさから解放されたものの、それよりも、なぜ?っていう気持ち。
もしかして、カテキョ、別の日だったっけ。
だったら、ラッキーだけど、たしかに、今日のはずだ。

もう一度かけたものの、やっぱり、留守電。
そうだ、彩華ちゃんにメールしてみよう。

不安めいた心を抱えながら、メールを作成していると…
部屋の呼び鈴が、鳴った。
こんな時間に、誰だろ?

「あの…どなたですか」
「あ、部屋にいたの?
だったら、すぐに開けてちょうだい」

差し迫った口調に、一瞬たじろいだけど、声の主はすぐにわかった。

東京の伯母、だ。
ドアを開けると、そこには、彩華ちゃんもいる。

「先生・・・」
それだけ言って、泣き出す彩華ちゃん。

「とにかく、入るわよ」
有無を言わせぬ口調で、伯母が靴を脱いだ。

「彩華ちゃんは、どうする?
話はそんなに長くかからないと思うけど、車に戻って、
お母さんと待っててくれてもいいわよ」
「うん、そうしてもいいけど・・・私からも、お願いしたいから、
一緒にお話することにしていい?」

「話」って「お願い」って・・・
どうしよう、これから、何が始まるの?

不安めいた心、どころじゃない。
不安に押し潰されそうで、なんだか怖い。


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