何処までもやせたくて(61)シュークリームの誘惑


なんとか家に帰ったものの、ものすごい疲労感。
体中に錘をつけられたみたいに、全身が重くて仕方ない。
少し寝ようかな。
目覚ましを、妹が来る2時間前にセットして・・・

ところが、私を目覚めさせたのは、メールの着信音。
妹の恵梨からだ。

「寄りたかった雑貨屋が、臨時休業でさ。
そっちに着く時間、早まりそうだよー。
7時前には、行っちゃうかも」

もう、相変らず、勝手なんだから!
時計を見ると・・・あと1時間しかないじゃない。

あわてて、部屋の片付けをして、服を着替える。
Tシャツを2枚、トレーナーを2枚、その上にさっき買ったばかりの厚手のセーター。
パンツもダボっとした腰パンみたいなのを含め、3枚重ねて、はいた。
これで完全武装、ってことだよね。

顔色をよく見せるために、明るめのファンデーションを塗って、と。
鏡を見たら、かなり太って元気そうに見えるから、きっと大丈夫。
落ち着きを取り戻し、お茶を煎れるためのお湯を沸かし始めると・・・

部屋のチャイムが、鳴った。

「恵梨、だよね? 
今、開けるから、待ってて」

最近、やたらと重く感じるドアを押し開けると、見覚えのある顔。

でも、その顔は次の瞬間、ゆがんだようになり、
「・・・お姉ちゃん・・・だよね?」
予期してなかった言葉が、飛び出した。

「何、言ってんの! 私に決まってるでしょ」

ところが、恵梨、固まっちゃってる。

「・・・嘘つき・・・」
「えっ・・・!?」
「入院したときほどは、やせてないって、
体重、39キロぐらいあるって、
電話で言ってたけど、
どう見ても、あのときよりやせてるじゃない。
体重も・・・いったい、ホントは何キロなの?」

「いいから、中に入って。
今、お茶、煎れるから」

なんで、こんなにあっさり、見破られたんだろ。
完全武装したはずなのに。

「あのさ、やたら重ね着してるけど、かえって逆効果だよ。
お姉ちゃんの体、中身がないみたいだもん。
それに、顔が・・・。
前にやせたときは、まだなんとか見られたけど、今はひどいよ。
頬骨が飛び出して、肉が全然ついてなくて、しわも目立つし。
最初、見たとき、別人かと思った・・・」

そういえば、美容院でも「顔がほっそりしてる」って言われたっけ。
しまった、マスクでもしとけばよかったな。

「それに・・・あの貼り紙、何なの?」

妹が指差す方向には「もうちょっと食べて、いっぱい動く」っていう、
体力をつけながら、さらにやせるために、自分で書いたスローガン。
しまった、これも隠しとくべきたったんだ・・・

「・・・あ、これはね、
太るにしても、健康的にって意味で・・・
別にやせたいってわけじゃなくて・・・っていうか、
今はあんまり気にしてないんだけど・・・・・・」

すっかりしどろもどろになる私に、妹はあきれたような口調で、
「もう、何言われても、信じられないよ。
病院、行かなくていいの?
っていうか、入院したほうがいいんじゃない?
前に入院したとき、このままだと命の危険があるって言われたよね。
今はそれ以上なんだから、絶対、入院したほうが・・・」

「あ、病院には行ってるよ。
今のところ、入院の必要はないみたいだから・・・安心して!
とにかく、私が頑張って食べれば済むことだからさ」

前に、東京の伯母についたのと同じ嘘で、ここはごまかすしかない。
「・・・うん・・・それならいいけどさ・・・」

心からは納得してるようには、見えない妹に、
「それより、家に電話しなくていいの?
どーせ、Eクンとの待ち合わせ時間も早めたんでしょ」
イエ電の子機を、押し付けた。

「うん、とりあえず、電話するわ・・・」
「間違っても、私の体調について、今みたいなこと言わないでよ!
そんなことしたら、私も、アンタとEクンとこと、全部しゃべるからね」

困り果てた顔で、私を見る妹。


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット




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