何処までもやせたくて(5)減る体重、増える自信


食べていいものだけを、食べていいだけ食べる、という生活を続けるうち、
あの頃の感覚が、甦ってきた。

高1の冬から、高2の夏にかけて、15キロ以上のダイエットに成功したあの頃の感覚。

「やせたね」と言われ、注目を浴びるスターのような気分はもちろん、
体重計の数字を減らして、記録を更新していくアスリートみたいな達成感や、
理想の体型をデザインできているという、アーティスティックな陶酔感、などなど。

そして何より、素晴らしく思えたのは、
自分で自分をコントロ-ルすることで得られる自信だ。

ダイエットすると言ってはすぐに挫折する友達を尻目に、
ひとりだけ、みんながびっくりするようなペースでやせていくことに、
私って、けっこうスゴイかも、と恍惚とした。

勉強もスポーツも、そこそこはできたものの、そこそこでしかなかったそれまでの私。
性格も、特別明るかったり、面白いわけじゃなく、中途半端に真面目だったから、
友達も少なかった。
美人でも、可愛くもないから、恋のほうも今ひとつ。
家では、活発で積極的な妹ばかりが目立って、私の居場所なんてない。

だから、ダイエットがうまくいき始めて、これだ、これしかない、って思った。

自分が決めたルール通りに、食べて、運動して、
そのうち、どんどんルールを厳しくしていって、
それでもクリアしながら、やせていく自分。

体重が減れば減るほど、自信が増え、自分のことを好きになれた。

ときには、自分より細い人を見て、嫉妬したりすることに、自己嫌悪することもあったけど、
自分がもっと頑張ってその人よりやせさえすれば、済む問題だったから。

空腹感に堪え、むしろ前より動けることが誇らしくて、
そのうち、空腹感もほとんどなくなった。
それでも、夏休みにはバイトもして、
「そんなに細いのに、一番働いてて、すごいね」
なんて、褒められてたっけ。

そう、あの頃の私の気分は、
スターやアスリートやアーティストのそれ以上に、
厳しい修行に堪え、自分を高めていく求道者の精神に近かったかもしれない。

だからこそ、新しい自分に、自信が持てたのだ。

そんな自信も、恍惚とした日々も、
入院して無理やり太らされたことで、すっかり消え去ってしまったけど。

ダイエットを再開して、あの頃の感覚が甦ってきたことで、
もう一度取り返せる気がしてきた。
いや、絶対に取り返さなくちゃいけない。

今の私は、どこから見ても、普通で平凡な存在。
新しい生活で自信を持っていくには、まず、やせることだ。

一番やせていた二年前の夏。
あの自分に戻れば、きっとうまくいく。

そして、できれば、あの自分を超えたい。


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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