何処までもやせたくて(51)快感の泥沼


なぜやせたいのか、本当の強さって何なのか・・・

わからないまま、スレッドに書き込みをした。
最近のなみちゃんについて、意見を聞きたかったから。

やせたくないのに、何故やせちゃうのか。
食べたいのに、何故吐いちゃうのか。
「Nちゃん」というイニシャルにした以外は、可能な限り、正確に伝えたつもりだ。

「ありがとう。また来てくれて、嬉しいです。
でね、そのNちゃんって子のことだけど・・・
あくまで私の印象としては、摂食障害なんだと思うよ」

スレ主さんの言葉に、ドキリ。

「この病気って、ダイエットが原因だと思われがちだけど、実際はそうとばかりも言えなくて、
イジメとか、セクハラとかのストレスから、発病することも多いみたいだからさ。

Nちゃんの場合、もともと、やせすぎてることがコンプレックスで、
せっかく太ったのに、それが痴漢の対象になったことで、不安にさらされて。
自分がどんな体型でいればいいのか、パニックに陥ったんだと思うんだよね。

太らなきゃ、太るの怖い、やせなきゃ、やせたままじゃダメ・・・
そんな堂々巡りが続いてるんじゃないかな。

それに、すっごくいい子なんでしょ。
真面目で、頑張り屋で、いつも笑顔で、よく気がついて、
自分のことを犠牲にしても誰かのために尽くそうとする・・・
そういう子って、じつはものすごくストレス溜めてたりするから。
なんか、ウチら以上に、この病気にはまっちゃうタイプって気がするんだ」

私も、なみちゃんの性格には同じ危惧を抱いていたから、
瞬間、背筋が寒くなった。

「ただ、救いがあるとすれば、まだ、吐くことに苦痛しか感じてないところかな。

私も半年ぐらい、過食嘔吐の時期があったんだけど、なんか、だんだん、
吐くことが気持ちよくなっちゃうっていうか、ストレス発散になるっていうか。
そのうち、吐きやすいもの、吐き心地がいいものもわかってきて、
太らないために、というより、吐くのが楽しいから吐く、みたいな感覚も生じてきたんだよね。

手段の目的化、ってヤツ。
しかも、快感って、同じくらいの刺激だと慣れてきて、マンネリ化するから、
どんどん食べる量も、吐く量も増えてくし。
あれは、怖かった・・・
私は運よく引き返せたけどさ、拒食のほうがずっとマシだと思ったよ。

でも、拒食だって、同じかもしれない。
最初のうちは、やせるためっていう目的がはっきりしてるし、体重もどんどん減って、
自分をコントロールできてる自信も感じられて、ハイな気分でいられたりもするけど、
体重なんて、いつまでも減らし続けられるわけないしさ。
心も体も、思い通りにならなくなって、キープするのがやっとって感じになって。

あなたはまだ、拒食の快感が大きいみたいだからさ、今のうちになんとかしたほうがいいよ。拒食にせよ、過食嘔吐にせよ、快感には必ず落とし穴が待ってるから。
いや、落とし穴っていうより、泥沼だわ。
私なんて、どっぷりハマりきっちゃって、脱け出す気力も体力もないからさ。

あれ、わかったような口きいちゃって、ゴメンね。
また、来てくれると嬉しいです」

しばし、茫然。
またまた、教えられた気がする。

でも、彼女の言ってることで、違うことがひとつあるんだよな。

私、もう、拒食の快感より、苦痛のほうが大きいから。

過食衝動もあって、体重減らないし、これ以上減らすと、寝たきりになりそうだし。

洗面所に行き、下着だけになって、体重計に乗ってみる。
28.1キロ。
最低体重には及ばないけど、ダイエット前よりは20キロ近く減らせた。

でも・・・
自分の体を見ても、前よりよくなったとはあまり思えない。
肋骨や腰骨が多少出てるから、ちょっとはやせたんだろうけど、
腿は太いし、お腹がぽっこりしてるのが気になって仕方ない。
25キロまで落とせば、変わるかな。

だけど、もう無理っぽい。
さっきから、無性にお腹がすいてきて、我慢の限界にきてるから。
空腹の気持ちよさ、体重が減る嬉しさ、もっともっと味わいたいのに。
なんで、私の邪魔をするの!

快感の泥沼、私もどうやら、ハマってしまったみたい。


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット  



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