何処までもやせたくて(60)病人? それとも・・・


「ねえねえ、あんたがいなかった間に、あのコ、来たよ。
ガリガリで、今にも折れそうなコ」
「それって、夏ぐらいに来て、ウエストが50ないとかって言ってたコのこと?」
「そうそう、何着てもサイズ合わないから、結局、何も買わずに帰ったんだよね」

「相変らず、折れそうだった?」
「相変らずも何も、もっとやせてたよー。
前は、顔とかモモのあたりとか、少しは肉あったじゃん。
それが、頬骨は浮き出てるわ、足は立ってるのが不思議なくらいで」

もしかして、私のこと?
たぶん、そうだよね・・・
でも、私がここにいること、気づいてないのかな。

「へぇ、そうなんだー。
で、もう、いなくなくなっちゃったの?
うん、私が別のお客、相手してるうちにね。
そりゃそうだよ、あれじゃ、買える服なんてありゃしないし」
「そっかー、見たかったなぁ。また、来るかな?」

「もう、見納めじゃない?
だって、あのまま行ったら、あと2、3ヶ月で骨だけになっちゃうよ。
年内、もたないんじゃね?」
「まっさかー(笑)」

どうして、そんなこと、言うの!
人の体型のこと、笑い話にして、楽しいの?

息苦しくなり、涙がこみあげてきて・・・
やばい。
ここで、倒れたり、泣いたりするわけにはいかない。

試着室のカーテンを開け、靴を履くと、
持っていた3着の服を、店員たちに押し付け、
「すみません。
大事な忘れ物、思い出しちゃって。
今日は、帰ります」

引きつった顔で唖然としている二人をチラ見して、店を出た。

そのまま、エスカレーター横の休憩コーナーに行き、
椅子にへたりこみながら、こらえきれずに、涙が。
病人扱いどころか、もうすぐ死ぬ人扱いだよ。
そんなに、今の私って、おかしい?
何も悪いことなんて、してないのに!

でも、どうしよう。
妹や、Gさんにも、そんなふうに思われたら・・・
知らない人にならいいけど、そうじゃない人にまで、おかしく思われるのはイヤ。
自分で感じてるより、私、やせてるのかな。
とりあえず、妹に会う前には、何か食べといたほうがいいのかな。

飲食店のフロアに行き、食べられそうなものを探す。
どれもこれも高カロリーで、私には重たすぎるものばかり。

ひと巡りして、あきらめかけたとき、
「おすすめ!
ヘルシー&低カロリー 
ヨーグルトソフト新登場!!」
という貼り紙が、目に入った。

あ、こういうのなら、大丈夫かも・・・

ひと口食べた瞬間、救われた気持ち。
甘酸っぱくて、爽やかな風味が、口の中にひろがる。
久しぶりの固形物、もっと久しぶりの甘いスイーツ。
体も、喜んでる感じだ。

おかげで、少し元気になり、今度は庶民的な服を扱ってるコーナーへ。
妹の目をごまかすために着る、厚手のダボダボなセーターを購入。
それから、パン屋に行き、明日の朝食用のパンとサラダを買うこともできた。

でも、ヨーグルトソフト効果も、そこまで。
帰ろうとして、駅の改札に向かおうとしたら、
足がガクガクして、たった3段の小階段を上がるのもやっと。
仕方がないので、タクシーを使うことに。
自宅まで、2千円強の出費は痛すぎるけど。

それより、こんな状態で、明日の遠出、大丈夫かな。
いや、その前に、妹の問題もある。

病人みたいに、見えちゃいけない。
元気、出さなきゃ。


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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