何処までもやせたくて(13)他の子がやせるのは・・・


家庭教師のバイトが入った。

数日前、東京の伯母から電話が来て、
「知り合いのお嬢さんが、今度、高校受験なのだけど、
家で勉強を見てくれる人を探してて。
やってみる気、ないかしら?」
って。

自分にできるかな、って気もしたけど、すぐにやることにした。

今はいろんなことに挑戦したいし、買いたいものもある。
誰かを教えるってことにも、少し興味を感じたし。

じつのところ、伯母は、私がファミレスのバイト、
それも夜勤をやったりしてるのが不満みたいで、
その代わりになれば、という思惑もあったみたいだけど。

私は、両方やるつもり。
今は何でも頑張りたいし、暇な時間を作りたくないから。

で、昨日がその初日だった。

相手の子が、不良っぽかったりしたらどうしよう、なんて思ってたけど、
全然そんなことなくて、ひと安心。

生徒の彩華ちゃんは、素直で大人しくて、勉強への意欲はちょっと足りないけど、
志望校へは十分、合格圏内のようだから、成績は現状維持でもいいみたい。

初対面のわりには仲良く話せたし、このバイト、
けっこうおいしいかも、って思った。

ただ、ちょっと困ったことも。

彩華ちゃんは、少しぽっちゃりしてて、そのせいか、
私の体型と食生活に、すごく興味を示してきたのだ。

きっかけは、休憩時間に私が取った行動。
クッキーとコーヒーを振舞っていただいたのだけど、
「先生って、甘いものが嫌いなの?
少ししか食べないし、コーヒーもブラックだし」
と、言われた。
「んー、そうでもないんだけどねー。
カロリーとか気になるし、今、ダイエット中だから」
その言葉に、彼女が食いついてきて・・・

そこからは、怒涛の質問攻め。
勉強もこれぐらい熱心ならいいのに、って思うほど、いろいろ聞いてきた。

「どうして? そんなにやせてるのに。
ダイエットの必要なんて、全然ないですよー」
「前は何キロだったの? えー、その頃からやせてたんじゃないですかー」
「体脂肪率って、どうやって計るの? BMI? 何ですか、それ」
「甘いものって、やっぱり太るんだ。このクッキーとか、
何カロリーあるんだろ」

私にとってはけっこう得意分野だし、ちゃんと答えるものだから、
彩華ちゃんはすっかり感心してくれたみたいで・・・
「なんか、勉強よりもダイエットのやり方、教わりたくなっちゃった。
私も、先生の真似してれば、やせられるかなぁ」
なんて言葉まで飛び出して。

そのときの私の気持ちといえば・・・

「やせてる」って言われたことは嬉しかったけど、
真似されるのは困る、って感じ。
私は自分がやせたくて仕方ないくせに、
他の子がやせるのはイヤ、って思ってしまう。

高校時代にダイエットしたときも、母や妹に、
高カロリーの料理を作って食べさせてたりしてたし。
周りが太っていれば、自分がやせて見えるから、ってことなのか、
ミョーに安心できたりする。

でも、その一方で、そういう自分が大嫌いだったりもして。

だから、無邪気にうらやんで、聞いてきてるだけの彩華ちゃんに、
「今は育ち盛りなんだから、ダイエットなんて考えないほうがいいよー」
なんて、キレイごとを言って、
真似させないようにしてる自分に、辟易してしまった。

中3相手にライバル意識持つなんて、情けなさすぎ。

だけど・・・
他の子がやせるのは、やっぱりイヤ。
自分だけが、やせていたい。

もしかして、カテキョのバイトに来るたび、こんな気持ちになっちゃうのかな。
って考えると、少し苦痛だ。

そこでふと、思いついたこと。
そうだ、他の子が真似できないくらい、やせちゃえばいいんだ。

実際、体重を聞かれて、今の数字を言ったら、

「30キロ台なんて、ありえなーい。
私はせめて、一度でいいから、40キロ台になってみたいなぁ」

彩華ちゃんは言ってたし。

うんうん、40キロ台で満足してね。
成長期の子供が、過激なダイエットなんかしちゃダメだから。
なーんて。

私、やっぱり、困るんだ。
他の子がやせるのは・・・


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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