何処までもやせたくて(74)一生、会わないの?


目が覚めると、まわりは見慣れない風景。
あれ、ここ、どこだっけ。

・・・・・・そっか、なみちゃんの家だ。
昨日、上京する母と会うのがイヤで、逃げてきたんだっけ。

時計を見ると、6時50分。
なみちゃんは、7時過ぎに帰るって言ってたから、もうすぐだ。
喉が渇いてたから、持参したペットボトルの水を飲み、ベッドをキレイに整える。

そうだ、なみちゃんのために、スープでも作ってあげようかな。
冷蔵庫をあけ、食材を用意し、お湯を沸かしていると・・・
鍵をあける音がして、玄関のドアが開いた。

「あ、お帰りなさい。
疲れたでしょ?
今ね、スープ、作ろうとしてたんだ」
「それ、自分でも食べる気、ある?」

「えっ・・・いや、私は起きたばかりで、お腹すいてないから・・・」
「じゃあ、私も遠慮しとくね。
さっき、バイト先で、軽く食べてきたし。
それより、家にいられなくて、私の家に来た理由、聞かせてよ」

「あ、そうだね・・・でも、なみちゃんが寝てからでもいいよ。
徹夜明けで、眠いんじゃない?」
「そりゃ、眠いけど、先に理由、聞いとかないと、気になって、眠れないよー」(笑)

語尾をちょっと冗談っぽくしてるものの、その表情には、有無を言わせない雰囲気が。
どうしよう、事情を話すのは、できるだけ先送りしたいのに。

大きな瞳で、私の目を見つめるなみちゃん。

観念して、一部始終を話すことにした。

妹が上京して、やせすぎを指摘されたこと。
実家に、そのことがバレ、母親が抜き打ちで上京してきたこと。
会うのがイヤで、マンションを飛び出したこと・・・

なみちゃんは、黙って聞いてくれてるものの、好意的な空気は伝わってこない。

それでも、おそるおそる、
「あのね、だから、できれば、今日の夕方まで、ここにいさせてくれない?
夕方には、うちの母、あきらめて帰ると思うんだ。
お願い!
こんなこと、頼める相手、なみちゃんしかいないの」
と、私が言うと、
なみちゃんは、ため息をつき、意を決したように、
「悪いけど、それは無理だよ」
冷たく、言い放った。

「私が妹さんでも、ここまでやせてたら心配になるし、
私がお母さんでも、いてもたってもいられなくなると思うもの。
だって、今、体重、30キロもないでしょ。
じつは最近、摂食障害についての本をよく読むんだけど、
30キロを切ると、いつ倒れても、・・・ううん、いつ死んでも、おかしくないんだって。
自分の家族が、知らないうちにそんなことになっちゃったら、
悔やんでも悔やみきれないよ。
だからさ、お母さんに会ったほうがいいんじゃないかな。
会って、これからのこと、ちゃんと相談したほうがいいよ」

「でも・・・やっぱり、会いたくないんだ・・・」

「あのさ・・・」

なみちゃんの声が大きくなり、苛立ったような口調でひとこと。

「一生、会わないつもり?」
「えっ・・・・・・」

ドキリとしながら、思いをめぐらせてみる。
一生、会わない・・・か。
それも、いいかもしれないな。
でも、それってたぶん、不可能だよね。

不思議なことに、お願いを聞いてくれないなみちゃんへの怒りはない。
正義感が強いなみちゃんは、嘘が大嫌い。
そんな人に、私の嘘、手伝わせようとしたことが悪いんだから。
これ以上、なみちゃんを頼っちゃダメだ。

もう、ここにいちゃいけない。
すぐに、出ていかなきゃ。
昨日みたいに、街をブラブラしたり、図書館で時間を潰したりしてれば、
なんとかなるよね。

「ごめんね、迷惑かけて。
友達だからって、私の嘘の片棒担がせるなんて、サイテーだよね。
なみちゃん、嘘が大嫌いなのに。
とりあえず、今日はこれで帰ることにするわ。
母と会う決心、まだ、つかないけど、前向きに考えてみる。
ホント、嘘を手伝わせちゃって、ごめんなさい」

荷物をまとめ、立ち上がろうとすると、軽い立ちくらみ。
なみちゃんには気づかれなかったと思うけど、
ホント、体力なくなっちゃった。
こんなんで、大丈夫かな・・・
逃げ切るには、体力も必要なのに。

それでも、自らを奮い立たせ、玄関に向かって歩きかけた瞬間、

「待って!」

今まで聞いたことのないような、鬼気迫る声がした。

振り向くと、思い詰めた顔のなみちゃん。
大きな目には、涙さえあふれそうになってる。


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