何処までもやせたくて(77)向かい風も追い風も


そのまま後ろに、自分の意思とは関係なく運ばれ、
足は着いたものの、バランスが保てない。

フラフラと数歩、後ずさりして、
電柱につかまり、やっとの思いで踏みとどまった。

何、これ?
そうか、風に、飛ばされたんだ・・・

少しひねったみたいで、足首に激痛。
それをかばいながら、足を前に出そうとするけど、
立ってるのがやっとで、前に進めない。

なんで、こんな向かい風なの。

タクシーを、使おうか。
でも、ファミレスのバイトやめてから、お金、どんどん減ってるし、
こんな近距離じゃ、運転手さんにイヤな顔されるよな。

ちょっとだけ逆方向に歩き、雨宿りできる場所を探そう。
それも、なるべく座れる店を。

今度は、追い風。
だけど、どんどん前に押されるから、やっぱり歩きづらい。
踏み出すたび、足首に激痛が走る。

歩いても歩いても、喫茶店らしきものは見当たらず、
座れそうな店は、ちょっと高級そうな中華料理屋ぐらいだ。

どうしよう。

あ、でも、ここなら、ウーロン茶とか、あるんじゃないかな。

店のドアを開けると、年配の女性の店員さんが、私を見て、
ギョッとした顔。
もう、そういう反応には慣れっこだけど、
ずぶ濡れだから、よけいに変に思われたのかな。

椅子に座ると、少し楽になった。
メニューを見ると「お飲み物」のところに、ウーロン茶、も書いてある。

「すみません。
あの・・・ウーロン茶だけでも、いいですか」
「あ、はい・・・それはもちろん、構いませんけど・・・」
「じゃあ、それでお願いします」

怪しむような、怖いものでも見るような店員さんの目つきが少し気になるけど、
もう、どうでもいいや。

運ばれてきた、熱いウーロン茶をすすると、生き返ったような気分。
そういえば、朝に水を飲んだだけだっけ。
ここ数日、過食衝動が起きてないのが、嬉しい。

その瞬間、我に返った。

どうしよう。
こんな店、入っちゃって、もし過食衝動が襲ってきたら・・・

後悔と恐怖。
さっきの雨みたいに、私の心を横殴りに叩きつけてくる。
でも、ひとりじゃもう、動く気力も体力もないよ。
なみちゃんが頼れない以上、相談できる相手はあの人しかいない。

暴風雨と足の痛みで、立ち往生してる状況だけ説明して、
「どうすればいいか、意見を聞かせて」と書き、
最後にひとこと、付け加えた。

「絶対、恵梨には内緒にしてね」

驚くほど、早く来たEクンの返信。
えっ!?

内容は、もっと驚くものだった。


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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