何処までもやせたくて(24)働いてはいけない体重


バイトの休憩中、店長に呼ばれた。

「最近、やせたみたいだけど、体調、大丈夫?」
またしても、私の体型や体調の話だ。

めんどくさいなー、と思いながらも、
「全然、大丈夫ですよー。体調、どんどんよくなってるし。
あの・・・仕事もそれなりにしてるつもりですけど」

「うん、仕事ぶりには何の問題もないんだけど。
ただ、あまりにも細いから、お客さんとか、いろんな人から、心配する声が出てたりしてね。
キミの場合、週に二日も徹夜してもらってて、それもやせちゃった原因なのかなって」

その指摘は、当たらずとも遠からず、って感じ。
だって、むしろやせるために、徹夜のバイト入れてるんだもの。

「それにさ、キミがちゃんと食事してるとこ、ほとんど見てないんだよね。
他のコは、バイトの特権で、うちの料理、しょっちゅう食べてるのに」

痛いところを、突かれた。
ファミレスでバイトしてて、こんなこと言うのもなんだけど、
ここの料理、カロリーも脂肪も高すぎて、ちょっと食べられない。

「・・・・・・えーっと、私って、こってり系、苦手なんですよ。
でも、家ではしっかり食べてるし、だから、大丈夫です!」
めいっぱい、明るく元気に言ってみる。

「うん、わかった。でも、ホント、気をつけてね。
これ以上、細くなると、店の制服、着られるのがなくなっちゃうからさ」(笑)

最後は冗談まじりに、話を終わらせてくれた。

たしかに、今の私は、7号でもぶかぶかで、
ベルトも自前のを使わせてもらってる。
そういうところも、店長は気になるのかなー。

それにしても・・・
お客さんとかが心配してる、って、何?
私には、ちょっと違う気がする。
仕事中、耳に入ってくるひそひそ声は、もっと気分のよくないものだから。

「わー、あの子、ほっそーい。でもちょっと、やばくない?」
「ホントだー。お前の肉、少し分けてやれよ」
いちゃいちゃするためのネタにするカップル。
それはまあ聞き流せるとして。

「なんか、病的なやせ方だよね。拒食症じゃない?」
「拒食とは限んないよ。過食して、吐いてるのかも」
勝手に、病名をつけてくる人たち、もいる。

一番ショックだったのは、
「きもーい。あんなの見てたら、食欲なくなっちゃわねー?」
「だよねー。てか、あんな骸骨、雇うなよって」
ギャル風の高校生に、大声で言われたこと。

え、まさか・・・そこでふと、気づいた。

店長の言う「お客さんの声」って、心配じゃなくて、苦情なのでは。
だとしたら、店長は私のこと、やめさせたいのかもしれない。
だから、遠回しにああいうことを言ってきたんじゃ・・・

そのあとはもう、仕事をしていても、気が気じゃなくて。
同時に勤務を上がったなみちゃんに、相談してみた。

「私、休憩のとき、店長に呼ばれたでしょ。じつはあれ・・・」
いろいろ説明して「どう思う?」ときいたら、
なみちゃんは、明らかに戸惑い気味で。
でも、一大決心をしたみたいな感じで、口を開いた。

「店長さんが気にしてるのは、お客さんじゃなくて、別の人に言われた言葉だと思うんだ。
あのね、これは本人には言わないで、って釘を刺されたんだけど。
この前、ちょっと聞かれたんだよね」

店長はなみちゃんに、私の体重をたずねたらしい。

「こないだ、店長さんのお友達って人が来たの、覚えてる?
別のお店で、店長やってるっていう。
あの人が、
すごくやせてる子がいるけど、大丈夫なのか? 
って、言ってきたんだって。
その人のお店で、前に、倒れちゃった子がいて、大変だったらしくて。
なんかね、バイト中に意識がなくなって、救急車で運ばれて。
その子、26キロしかなかったんだって。
本社の人にも、なんで働かせてたんだ! みたいに言われたらしいんだけど。
だから、店長さんもますます心配になったみたいで、
30キロ切ってるようなら、ちょっと考えないと、
って、思ったみたいだよ」


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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