何処までもやせたくて(27)恐怖のバイキング


伯母と会う約束をどうするか、決めかねたまま、別の憂鬱が襲ってきた。

彼との週末デート。
というより、私にとっては無理に食べさせられる苦行の時間。
平日の食事量を減らして調節しているものの、正直いって、うっとおしい。

でも、私がなかなか太らない(むしろ、少しやせた?)ことが、彼には不満みたいで。
「今度、ホテルのバイキングに行ってみない?」
なんて、提案をしてきた。

バイキング=食べ放題、ってことだから、もちろん、気が進まなかったけど・・・

ふと、思い直す。
もしかしたら、好都合かもしれない。
好きなもの、っていうか、カロリーの少ないものだけ食べることもできるはずだから。
と、すれば、せっかくの高級ホテルでのデート、めいっぱい楽しまなきゃ。

そうだ、あのワンピを着よう。
先月、バーゲンで買ったヤツ。
トップがキャミソールで、ボトムの丈もいい感じに短くて、すごく可愛い。

難点は、この手の露出が大きい服って、肩や腕がたくましく見えがちなことだけど・・・

体重を計ったら、33.1キロ。

二の腕をつかんだ感触とか、鎖骨の出方も悪くない。
彼の前では、こういうタイプの服を着たことないから、サプライズにもなるかな。

そのうち、気分も少しウキウキしてきて・・・
日焼け&冷房対策のジャケットをどれにするか、鏡の前で選びながら、
バイキングのシミュレーションをしてみる。

野菜中心にお皿をいっぱいにして、300キロカロリー以下に抑えて、
そうすれば、デザートを1個ぐらいは食べられるかも。
なーんて。

しかし・・・・・・
現実は甘くなかった。

天井が高くて、明るいトロピカルムードのホテルのレストラン。
料理さえなければ、素敵なのに。
大量の料理を見て、そのにおいを嗅ぐだけで、吐き気がしてきた。

それでも、計画通り、野菜やきのこ、海藻系でお皿をいっぱいにしながら、
たくさん食べてるふりを懸命にしてたのに、
「またそんな、カロリーのなさそうなものばかり、取ってきて・・・」

すぐにチェックが入った。
そして、炒飯やら、鳥の唐揚げやら、食べたくない料理をいろいろ運んでくる。

目の前に置かれた以上、箸をつけないわけにもいかず・・・

彼が時々いなくなる隙を見ては、
バッグの中にあらかじめ用意しておいたビニール袋に捨てたりしたけど、
ありえないほど食べてしまった。

しかも、嫌いになったはずの炒め物や揚げ物を、途中からおいしく感じ始めた自分がいて・・・
もしかして、過食の始まり?
そんな恐怖が襲ってきた瞬間も。

実際、一個のつもりだったデザートを、四個も食べてしまった。

「けっこう食べられたじゃない。バイキング、正解だったね」
食後のコーヒーを飲みながら、ゴキゲンな彼。

でも、私は後悔でいっぱい。
3キロぐらい太った気がして、肩や腕にもお肉がついたみたいで。
そういえば、今日の服について、彼は何も言ってくれてない。
どう思ってるんだろ?

レストランに着いて、ジャケットを脱いだとき、視線は感じたのだけど・・・

「ちょっとトイレ、行ってくるね」
彼が席を立ったので、戻ってきたら、聞いてみよう、そう思ったとき・・・

隣のテーブルから、声が聞こえてきた。

「ねえねえ、見て。拒食のコがいる」
「ホントだぁ。やっばーい」
「でもさー、なんで、拒食なのにバイキングに来てんの?」
「たぶん、あれだよ、いっぱい食べて吐く、ってやつじゃない」
「きったなーい。じゃあ、今から吐きに行くのかな」

同い年くらいの女の子二人組が、自分のことを言ってることはうすうすわかったけど、
わざと、聞こえていないふりをしてみる。
空になったコーヒーカップを口に運んだりして。

「なんかさ、キャミがガバガバじゃない。ありえないよねー」
「うんうん、腕とか、筋が見えちゃってるし。正直、きもーい」
「はっきり言って、こういう店、来てほしくないよー」
「だよねー。料理、まずくなっちゃう」

だんだん、腹が立ってきた。
アンタたちの感想なんて、聞きたくもない。
彼の感想も、まだ聞いていないのに。
ふたりとも、けっこうぽっちゃりしてるけど、バイキングなんて来てて大丈夫?
どーせ、ここまではやせられないでしょ。

そうだ、もし、今、聞こえていないふりをやめたら、あわてるだろうな。

と、考えて、二人のほうをにらんでやろうとしたら・・・


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?