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レモンカナリア

僕が いつも見ていた女の子

恥ずかしがりやの 女の子

何をたづねても 首を振ることしかしない子だ

いつも 神父さまの陰から 話相手を そっと見てるだけ


その母は 東洋人で、父は 欧米人

母は乳飲み子を残して 天に召され

父は 戦争で その命を落とした

そして、神父様が 引き取ることになった


大きな黒い瞳の 女の子

父の金髪を 引き継いだ

日本の言葉は 教会の中だけ 

日常生活は 神父様の国の言葉で 交わされた


日本の言葉は 分かっても、話すことは むつかしい

だから、首を 傾げたり縦や横にふって 意思を伝えた

僕が ずっと見ていたかった 女の子


カトリック教会のきびしい それでも 愛いっぱいに育てられた女の子

ある時、彼女に新しい両親が出来たという

僕が ずっとずっと見ていたかった 女の子


金色の巻き毛の下で 真っ黒な瞳がうるんでた

新しい両親に 連れられて

振り返り、振り返り手を振っていた女の子

その日のために 神父様が買ってくれた黄色い靴

ひらひら揺れる金色の巻き毛と黄色い靴


僕は さびしく手を振った

それは レモンカナリアが 

僕の手の平から 飛び立って行ったようだった



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