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ひょんなことから、プチ同窓会

<お寺からの案内状>

3月に入り一週間が過ぎた頃 お寺の彼岸の案内状が届いた。 今年は3月17日彼岸の入り水曜日だ。 案内状には精進料理のお食事券がついていて 一軒に付き二枚送られてくる。いつもは娘と行くのだが、今年は娘の初彼岸なので一枚余る。 一人で行ってもいいけれど 同じなら誰か誘ってみようと 思いついたのが、以前にも誘ったことのある高校時代「音楽部」で一緒だったT子だった。T子なら 美容師学校の先生を定年退職して 悠々自適の毎日を送っているから…ということで、声を掛けたら二つ返事で「OK!」がきた。 

当日、10時半に お寺の正門前で待ち合わせることになっていた。 が、私はお墓の掃除もあるというので 早い目に家を出た。早く出過ぎたのか、お寺に9時半に着いてしまったので、私は彼女にメールをした「お墓の掃除で早く着いたので、龍翔寺まで来てくれへん? よろしく!」そして 私は お墓の掃除にとりかかった。

大徳寺僧堂の中の「龍翔寺」 そこにお墓がある。「龍翔寺」は臨済宗大徳寺派の雲水様を 育てる学校のようなお寺で、常日頃は「拝観謝絶」で 「道場」と掲げられている。春と秋のお彼岸は 僧堂の各お寺の檀家さんが 寄り集まって 法要がなされる。向かいのお寺には 細川ガラシャのお墓があり、横のお寺には 織田信長のお墓がある。その向こうのお寺で 一休さんが修行されたとか! 以前一度だけ訪れたことはあったけど、拝観どころではない。お彼岸は忙しい。

先ず、本堂にあがって「枌(へぎ)」に弔う人の戒名を書いていただき、祭壇に捧げ、そこに置かれている一枝を手水鉢の水にくぐらせ 戒名の書かれた枌の上をそっとなぞり 癒やしてあげるというのです。今回 水を含ませた一枝は沈丁花でした。その枝先に沈丁花の花が二つ三つついていたのに気づき、その風流さにハッとしました。ご洗米を ひとつまみ額まで持ちあげ 祈りを捧げた後、私達檀家は お墓の掃除に行くことになっているのです。 お墓はいつも雲水様が清めてくださっているようで、今回は一輪のきくの花が入っていました。私は お墓の廻りに落ちている松の枯れ葉を拾い 雑巾を絞って墓石を拭き、二人の娘用に春色のお花を差し込み お線香を焚き 「来ましたよ!二人でさみしくなかった?」と、手をあわせました。でも、応答がないのです。 それは、まさに「お墓なんかに い・ま・せ・ん~」と、聞こえるようでした。「あ~、きっと、二人で春の世を飛び回っているんだ!」と 私は ほっとするような感覚を 覚えました。

間もなく、大太鼓の音が 「どど~ん!」と聞こえてきます。読経が始まる合図です。 はじめは ゆっくりしたリズムで 打ちならされ、次第に 早打ちになり、そのうち、「ka,ka,ka,ka!」と 大太鼓の縁に打ち付けてある何十もの釘の頭を撫でまわす音で 私達は 本堂へと急ぎます。 11時からはじまる総勢十数名の老師様の中央には 大徳寺官長としての龍翔寺の大老師様。その元で 長い長い読経が済むと精進料理を頂き 法話もそこそこに 帰宅するのですが、今回は友人と一緒なので、早速 友人の車で「植物園」に行くことになりました。

<植物園>

京都の北は 本当に空気が冷たい! 長い読経の間に すっかり体が冷え切ってしまいました。でも、駆け込んだ車の中は あたたかくホッと一息つけました。「ほな、いこか~?」の掛け声で 植物園へ! 後期高齢者の私たちは 植物園は無料! 有難いですねえ。でも まだ、寒いというので早速 温室に向かうことになりました。                   やはり 温室はあたたかい! 南国の名前も読めない植物に 冷え切った私とT子!は体を温めるように、ゆっくりと散策することにしました。   そして、一本の不思議な木を見つけたのです。それは、山芋のようで山芋でない!毛むくじゃらの背高のっぽ!で、葉など一枚もつけず 「木」全体に まヒゲのようなものが まとわりついているのです。この木を見てすぐに「ね!これって変わってると 思わへん?」と、私が指さすと T子が笑いながら近づいてきました。「これを見て、誰かさんを思い出す?」二~!と笑う私に T子が ニコニコとして首を縦に振る。「ひょっとして、同じ人? 思い出したあ?」二人は 笑いあった。「連絡してみよか?」 そこではじめて T子が声を発した。

<思い出す N君とは…>

公立高校の男女共学「音楽部」の五人会の中の唯一男性のN君は 実に真面目に音楽好きだった。よくぞ女子四人についてきてくれたと思う。 その彼は「すね毛の凄い持ち主」だった。 公立高校なのに、私たちの運動場は 大覚寺まで行き、プールは蹴上の市の運営するプールまで「市の専用バス」が送迎してくれるのだ。今から考えると 「すごい!」こと。なのだが、街中の学校だから仕方がない。そのプールの授業で「すね毛の凄いN君」と評判になっていたのだ。

<プチ同窓会>

T子の携帯に 懐かしい京都のイントネーションの声が出る。「なんで、二人が植物園にいるのん?」T子が「しかしか、かくかく」と説明すると、「近くまで 来てるんやったら、うち来いひんか!」と、N君の「その一言」で、プチ同窓会は決まった。植物園の桜は所々、満開があったものの まだ 蕾の木が多く「ちょっと早かったね~」ということで、早々に植物園をひき上げ、車に乗り込んだ。 「車は便利やねえ。車でなかったら、N君の家まで行かれへんわ~」T子はニコニコ運転する。その前に「おみやげ買わな~」と私たち。「何が いい?」浮かんだのが、今宮神社の「あぶりモチ!」大徳寺の裏にあるから…と思いきや、「閉まってる~!平日やしかなあ?」二人はがっかりした。「他、知ってるとこある?」T子も真剣だ。 古い京都の町は すっかり変わってしまっているから…と「適当に走ってさがそう!」と言う事になったけど、「ないな~」ばかり。グルグル回って又大徳寺に帰って来てしまう!「あ~、あかんな~」と、言いかけた時 見つかった!北大路通りの角に 昔からあったような小さな和菓子屋さん。「よ~、見つけてくれたねえ。私買うてくるから…」と、私は 助手席から飛び出し、そこで「花見団子といちご大福を四個づつ!」と言ってホッとした。  これで 一路 N君の家へと向かうことができる。しか~し! 京都の町の道路は一方通行なのだ。N君の家は もうすぐそこに 見えているのに、まわってまわって、まわる~う~!でたどり着けない。仕方がないので、電話をして行き方を 教えてもらい、ようやく、辿り着けた。 表へ出て待っていてくれいたN君は すっかりおじいさんになっていた様に見えた。私たちも 同じなのに・・・ 

N君の家は 京都の「うなぎの寝床」といわれるご両親からの家だった。 格子戸をあけてすぐ、玄関の石畳の横は 六畳の上りの間「店の間」だ。 さすが、京都の町のお住まい!思わず「いや~、やっぱり京都やねえ。こんな瀟洒な屛風に野草が活けてある~」と 感激していると、そこからN君の奥様が「おひさしぶりです」っと挨拶してくださる。「こちらこそ、ご無沙汰してます」と言う間も「あがって、あがって!」とN君が言えば「二階へどうぞ!」と奥様。私達は 京都の急な狭い階段を目前にするやいなや 「高校の卒業式の帰りに みんなでN君の家に来て、おぜんざいよばれたね~。思いだすわ~!その時、だれかこの階段から滑り落ちはった、やん?」と、私が言うと みんなが うふうふと 思い出し笑いをする。     「怪我の功名?」懐かし~い!! 

「うわ~、畳のえ~匂い!」二間つづきの和室は 今時、珍しい透かし彫りの欄間でつながっている。「二階は 最近、増築した」とのことで、真新しい畳の匂いは 新鮮だった。辿り着くまで時間がかかったので、 座卓の上には菓子鉢が準備され、四枚の座布団が敷かれ すっかり準備は整っていた。 下の間から N君が「うち猫 飼うてんねん」とよく太った真っ黒の猫を 抱いて上がって来た。私はすぐに反応した「私とこも 猫かってるけど、いや~クロネコちゃんやねえ。オス?メス?」N君が「メスなんやけど恥ずかしがりで怖がりやねん」言いながら下におろした黒猫はそそくさと また下へ降りていった。やっと、座布団に座ったN君に「なまえなんて言うの?」と聞いたら「ゆきこ!」と言う。 私とT子は目をまるくした。人間の名前みたい…?そこで、私が「私とこも変わった名前で 猫やのにラックスて、犬の名前みたいやろ?」と即座にN君に言った。ところが N君は 机の下を向いて「いや、家内のなまえが『ゆきこ』やねん!」それを 聞いて 私とT子の目が点になって見合った瞬間、おおきな笑い声が爆発した。お腹をよじって笑う二人に 「何事か?」と 奥様が お茶を運んでこられた。 「いや~、私ら猫の名まえを聞いたのに、…」と笑いが 止まらない「よっぽど、奥さんを愛したはるの、わかるわ~!」しばらくの間、奥さんも笑いに加わり笑いの渦を巻いて 笑い転げる女人の前で、N君は苦笑い!

お抹茶を ゆきこさんがたてて、頂くって!やっぱり、京都やねえ。

今となっては、なんの話をしたか 思い出せないくらい、たわいのない話に花が咲いて 四人は笑いあった。

気が付けば もう、6時前になっていた。              「また、来てや!」の送り言葉に                  「ありがとう!突然、お邪魔してごめんね!でも、楽しかった!」    私とT子は まだ、ほんのり明るい夕方に救われ、家路についた。

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