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「俺は最強だ」という思考は競技シーンにおいて有用なのか?を考察する。

どれだけ相手が強かろうと「勝てねぇ」と思ったら負けなので、「俺最強」と思うことがメンタル負けしないために重要なのだ。

…という考え方がある。
果たしてそれはe-sports競技シーンでも有用な考え方なのだろうか?
考察してみよう。

※シージ民なので、FPS用語やシージの話が多少出ます。




実際にプロスポーツ選手が似たような思考を使っているという研究あり

310人の卓球選手を対象にしたヨハネス・グーテンベルク大学の研究(Keep your cool and win the game: Emotion regulation and performance in table tennis)がある。



アスリートは感情コントロールにどんなテクニックを使っているのか?を調査した研究だ(卓球を選んだのは、ささいなメンタルな動きが結果に影響しやすいからとのこと。)


結果として
「成績が上がったプレイヤーは、特にポジティブセルフトークを使っている場合が多かった。」
そうだ。


ポジティブセルフトークとは言葉の通り、自分に向かってポジティブな言葉を投げかけること。スポーツの世界では割と定番の手法らしい。
つまり「俺は勝てる!」「俺ならやれる!」とかそういった内容を自分に向かって言うテクニック。

もちろん「俺最強!」もポジティブセルフトークに含まれるだろう。

また、ネガティブな言葉を投げかける(自分を責めるなど)は選手の勝利とマイナスの関係にあったようだ(優秀な選手ほどやらない、ということ。)


これは「俺最強」思考を支持する証拠と言えるだろう。 




しかしまず、そもそもの根拠が薄い

「俺最強」思考が正しい戦略と仮定した際に、気になるのは「思考の前提となる根拠が薄い」ことである。


「俺最強」の理由を合理的に、理論的に説明できる選手はいないのではないか(最強ってどういうこと?という質問に理路整然と答えられない。)

なぜなら、○○より強い・弱い、○○より優れている・劣っているといった評価は「参照点」によって容易に変わるからである。

(この例えでファスト&スローを出すのは違う気もするが、他に良い”参照点”の参考が思いつかなかった。参照点の説明が乗っているのは下巻。)



つまり、ある基準から見たら強いし、また別の視点から見たら弱いといったことが容易に起こりうる
(撃ち合いが強いことなのか?立ち回りが良いことなのか?クラッチが多いことなのか?K/Dが高いことなのか?)

「強さ」というのは絶対尺度では測れるものでは無いだろう。基準とするものやライン引きによって評価は一変してしまう。
(サポート、アタッカー等の役割によっても変わってきそうだ。)


(極論を言えば)そんな「強さ」が「最強」ということは全てにおいて優れている・勝っているということで、それであるなら「俺最強」などと念じなくとも、自然と結果に現れ出るのではないだろうか。
(もちろん、戦略によって本来の実力を十全に発揮できない状況に追い込まれることもあるだろうが…)



「俺最強」と思い込む必要性、それ自体が「俺最強」じゃないことを示している。合理的に説明できないことを示している。そんな気がする。

「俺最強」思考は根拠の薄弱なものを信じ込まなければならない、メンタルの支えとしなければならない。
説明できないものを信頼するということは、その考えに疑問が出た際にあっけなく崩れ去るものに頼っているということでもある。



果たしてそれは良い戦略だろうか?




そして、ポジティブ心理学から見るとデメリットが多い

ポジティブ心理学を参照してみよう。
自分にポジティブな言葉を投げかけることのメリット・デメリット・注意点が見えてくる。


ポジティブ心理学においては物事をポジティブに捉えたり、物事の良い側面にフォーカスしたりといったことが推奨される。
その視点から見ると、「俺最強」思考は好ましいように見える。


しかし、ポジティブ心理学が注意を喚起していることがある。
それは「根拠の無い、または現実離れしたポジティブ思考は諸刃の剣」ということ。

分かりやすいように、以後は「根拠の無い、または現実離れしたポジティブ思考」を『ポジティブ空想』と呼ぶことにしよう。



『ポジティブ空想』にはメリットとデメリットがある。

〇メリット
・短期的に気分を向上させる効果がある。
・つらい現実や近い未来の厳しさを乗り越えるための「一時的な痛み止め」として活用できる。

〇デメリット
・楽観バイアス(極度に楽観的になる人間の無意識の思考の偏り)によって、現実離れしたポジティブさを抱いてしまう。
・現実離れした極度なポジティブは「ネガティブな側面の無視」を引きおこす。つまり失敗を反省したり、予測される不安要素に対策したりといった行動が無視される。
・成功や達成したかのように脳が錯覚するので、成功や達成に至るために必要な努力や思考が行われない(脳は現実とイメージの区別が苦手。)
・極度の楽観性とその根拠の無さ(合理的な説明ができない)ことから、空想が覆されて現実を叩きつけられると、逆に極度なネガティブに陥る可能性が高い(ネガティブバイアス)
・ゆえに、長期的には逆にネガティブを呼び込む要因となる。

参考:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ejsp.838
(この論文では Positive fantasies という言葉で示されている。)


戦いにおける成功や勝利には、必ず失敗や困難がつきもの。
失敗や困難が無いのならば、それは”戦い”ではない。もはや”作業”である。
そして勝っても、それは”勝利”ではなく”作業した結果”でしかない。

『ポジティブ空想』は長い目で見ると巨大なネガティブを呼び込む可能性を秘めている。そしてネガティブのきっかけは些細なつまづきかもしれない。
空想は覆されずとも、脅かされるだけで現実と向き合うことになる。



「俺最強」思考は多くの場合『ポジティブ空想』であるだろう。
根拠に薄い思考ではないかということは既に論じた。

『ポジティブ空想』は短期的には気分を高揚させてメンタルに力を与えてくれるが、長い目で見ると逆にメンタルを崩す可能性を秘めている。諸刃の剣なのだ。
(加えて成長や成功を阻害する。反省や対策が減るので。)



さて、僕はシージの人だ。シージ競技シーンについて軽く触れておく。

シージは間違いなく長期戦。最低7ラウンド最大15ラウンドのBO5を最終的には勝たなければならない。
大会フォーマットという観点でも同じだろう。つい最近、全試合BO3 + ダブルイリミネーションの形式で大会が行われたばかりだ(Japan Championship 2020)


そんな長期戦を戦っていくのに、果たして『ポジティブ空想』は良い戦略だろうか?




とはいえ、自分にポジティブな言葉を投げかけることそのものが悪ではない

他のポジティブ心理学の知見を参照(The motivating function of thinking about the future: Expectations versus fantasies.)すると、



・ポジティブな”空想”(fantasies)
⇒都合の良い結果だけイメージ、過程が考慮されていない、現実から地続きではない。

例:(根拠なしに)俺は絶対上手くいく!


・ポジティブな”予想”(Expectations)
⇒過去から今にかけての現実をもとに、未来の好ましい可能性をイメージ。あくまで現実/事実がベース。

例:昔の試合でこんな逆境は経験した…その分、今回はもう少し上手くできるはずだ!


のどちらであるかで大きく変わるようだ。
同じポジティブ思考でも現実と繋がっているものであれば、努力や成果に繋がる可能性が高いそうだ。


「俺最強」思考の問題点は「現実に即した、事実と地続きの合理的な説明ができない」ことにある。
論理的に「俺最強」が説明できるのであれば、それはポジティブ”予想”となり、選手に力を与えるだろう。
(それが可能かは置いておいて…)




■提案/代案 - レジリエンス - 

「俺最強」思考を否定だけして、代案を出さないのも無責任だろう。
僕からは「レジリエンス」の考え方をオススメしたい。

Wikiに書いてある内容では分かりにくいので要約すると…
レジリエンスとは「折れた心を元に戻す能力、逆境を乗り越える能力」

レジリエンスが低いと、普段どれだけ自信があって能力の高い人でも、ひとたびメンタルが折れると簡単には立ち直れない。



ところで、「俺最強」思考のマイナス面が出ないようにする方法がある。
つまるところ、その思考を脅かす事態にならなければいい。
勝ち続けて最強を実感できている間はネガティブな側面が出ることはない。

しかし、それが難しいのは既に述べたとおりだ。



勝利に困難や失敗はつきものであり「俺最強」に疑問を投げかけられるシュチエーションはどうしても多くなる。
(しかも無意識下において、自分で自分に疑問符をぶつけてしまう。
「俺ってホントは弱いんじゃないか…?」「勝てないんじゃないか…?」)



「俺最強」思考の前提 = メンタルが負けしない、メンタルが折れない
なのだ。



相手が強ければ強いほど、その勝利が価値のあるものであるほど、困難に出会う。前提が脅かされる事態は避けられない。
ゆえに残念ながら、この前提は間違っていると言わざるを得ない。
(上を目指すなら。)




さて、ここで出てくるのが「レジリエンス」

レジリエンスの前提
= メンタルが折れてもすぐに元に戻る(心の回復力)
= 前提:メンタルは折れるもの


レジリエンスは最近の心理学では割と注目されている(流行っている、とも言う)概念で、マイクロソフトやスターバックスなどの大企業が取り入れていたりもするようだ。



再三の繰り返しになるが、価値ある目標や自分が達成したい目標に向かっているときは、必ず失敗や困難、逆境に直面する。
メンタルが折れないことを期待するのは無謀な賭けに等しい。

どんなにやりがいを感じていることでも、モチベーションは上がったり下がったりする。当たり前の話だ。


僕らができる戦略は二つ

心が折れないことを神に祈りながら戦う(『ポジティブ”空想”
または
折れた心の回復力を身につけて逆境を乗り越えていく( レジリエンス )


一度折れたらしばらく立ち上がれない奴よりも、何度折れてもすぐに立ち上がって前に進める奴がより上に行く。
e-sportsで高みを目指すうえでも、レジリエンスを身につけることは避けられないと考えている。

e-sportsの試合展開の速さから見て、立ち直りが遅い奴は足手まといになる。
ぜひとも神頼みのギャンブルは止め、レジリエンスを身につけ、逆境力で勝ち上がって頂きたい。長期戦ではそれが必要だ。




さて、そうなると気になってくるのが「レジリエンスの育て方」なのだが…

それを説明していると、この記事はいつまでも終わらない(あと2万字くらい読む?)
申し訳ないが、割愛させていただく。


一応、キーワードとしては
・自己効力感
・運動(ウォーキングから筋トレ、激しい有酸素運動まで)
・自分が過去乗り越えた失敗や困難を細かく思い出して分析する
・成長マインドセット
・現実的楽観主義
・親切と感謝
・友人・家族・恋人との良好な関係性
などがある。


あとはこのキーワードをもとに自分で調べてみてくれ!と言いたいところだが、、、、、怪しい心理系の人たちが商売道具として利用してたりする。。。。。。。。

どれが正しい情報なのか見極めるのは、結構大変だと思われる。。。
(まだ比較的新しい研究分野なのもあって)




■まとめ

〇ポジティブセルフトーク(自分へのポジティブな呼びかけ)
・「現実と地続きになっているか、ちゃんと事実がベースになっているか」を意識する。
・ポジティブな”空想”ではなく、ポジティブな”予想”をしよう。
・「自分が弱い」と思う必要は無いが「自分が強い」理由にできるだけの根拠を持とう。
・それには自分が今まで乗り越えてきたもの、成長してきた事実を思い出そう(過去は変わらないので。)
・ポジティブ”空想”はつらい状況を一時的に乗り越える「痛み止め」「その場しのぎ」としては有用(多用厳禁。)


〇レジリエンス(逆境を乗り越える力、折れた心の回復力)
・「心が折れないこと」ではなく、「折れた心がすぐに元に戻る自分」を目指そう。
・かつて乗り越えてきた困難や失敗を振り返えって分析し、レジリエンスを鍛えよう。
・「自分の能力」よりも「自分が今まで乗り越えてきたもの」に自信を持とう。逆境や困難を乗り越えてきた過去を思い出し、今目の前にある逆境も乗り越えられると信じよう。



〇おまけ:成長マインドセット的な考え方
・相手より全てで勝っている必要はない。戦略で補おう。
・試合や撃ち合いで負けた/負けているからといって、あなたが劣っていることの証明とはならない。
・むしろ苦戦や逆境は自分の成長機会だと思おう。それを経験すれば、何かしらの学びや成長が絶対にあるはずだ。
・自分の成長や経験を最大化させるには何をすればいいだろうか?
(少なくとも、メンタルが折れてどうしようもなくなることではないはずだ。)



参考になったら幸いだ。
それでは、また。



P.S.
勝ちたいなら運動はしておこう!
あなたのポテンシャルを下げているのは「運動していないあなた自身」だ!




■その他参考:レジリエンス(無料で読めるものを記載したので、質は高くないかも)

Resilience and positive psychology : Finding hope


■備考
本記事執筆中にあぶれた「成長マインドセット」について↓
未完成です。気が向いたら完成させます。


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