見出し画像

司法試験予備試験 憲法 平成26年度


問 題

 A市内の全ての商店街には,当該商店街に店舗を営む個人又は法人を会員とする商店会が組織されている。会員は,店舗の大きさや売上高の多寡にかかわらず定額の会費を毎月納入し,その会費で,防犯灯の役目を果たしている街路灯や商店街のネオンサイン等の設置・管理費用,商店街のイベント費用,清掃美化活動費用などを賄っていた。しかし,A市内に古くからある商店街の多くが,いわゆるシャッター通りと化してしまい,商店街の活動が不活発となっているだけでなく,商店街の街路灯等の管理にも支障が生じており,防犯面でも問題が起きている。
 A市内には,大型店やチェーン店もある。それらの多くは,商店街を通り抜けた道路沿いにある。それらの大型店やチェーン店は,商店街の街路灯やネオンサイン等によって立地上の恩恵を受けているにもかかわらず,それらの設置や管理等に掛かる費用を負担していない。また,大型店やチェーン店は,商店街のイベントに参加しないものの,同時期にセールを行うことで集客増を図るなどしている。大型店やチェーン店は,営業成績が悪化しているわけでもないし,商店会に加入しなくても営業に支障がない。それゆえ,多くの大型店やチェーン店は,商店街の活性化活動に非協力的である。このような大型店やチェーン店に対して,全ての商店会から,商店街がもたらす利便に「タダ乗り」しているとする批判が寄せられている。A市にとって,市内全体での商業活動を活性化するためにも,古くからある商店街の活性化が喫緊の課題となっている。
 このような状況に鑑みて,A市は,大型店やチェーン店を含む全てのA市内の店舗に対し,最寄りの商店会への加入を義務付ける「A市商店街活性化条例」(以下「本条例」という。)を制定した。本条例の目的は大きく分けて二つある。第一の目的は,共同でイベントを開催するなど大型店やチェーン店を含む全ての店舗が協力することによって集客力を向上させ,商店街及び市内全体での商業活動を活性化することである。第二の目的は,大型店やチェーン店をも含めた商店会を,地域における防犯体制等の担い手として位置付けることである。本条例は,商店会に納入すべき毎月の会費を,売場面積と売上高に一定の率を乗じて算出される金額と定めている。そして,本条例によれば,A市長は,加入義務に違反する者が営む店舗に対して,最長で7日間の営業停止を命ずることができる。
 A市内で最も広い売場面積を有し,最も売上高が大きい大型店Bの場合,加入するものとされている商店会に毎月納入しなければならない会費の額が,その商店会の会員が納入する平均的な金額の約50倍となる。そこで,大型店Bを営むC社としては,このような加入義務は憲法に違反していると考え,当該商店会に加入しなかったために,A市長から,7日間の営業停止処分を受けた。その結果,大型店Bの収益は大幅に減少した。
 C社は,A市を被告として,本条例が違憲であると主張して,国家賠償請求訴訟を提起した。

〔設問1〕
あなたがC社の訴訟代理人であるとしたら,どのような憲法上の主張を行
うか。 なお,本条例による会費の算出方法の当否及び営業停止処分の日数
の相当性については,論じなくてよい。

〔設問2〕
想定される被告側の反論を簡潔に述べた上で,あなた自身の見解を述べな
さい。

関連条文等

憲法
13条後段(第3章 国民の権利及び義務):公共の福祉
21条1項(第3章 国民の権利及び義務):結社の自由
22条1項(第3章 国民の権利及び義務):職業選択の自由(営業の自由)

一言で何の問題か

商店会への強制加入

答案の筋

「結社の自由」が21条1項によって保障されている趣旨かからすれば、「結社」とは表現活動のために結成された団体をいうものと考えられる。商店会は商店街の経済活動を活性化させるためのものであり、経済的自由の範疇に含まれ、商店会への加入強制は、職業選択の自由(22条1項)に対する制限の問題として論ずる。
この点、職業は多様であり、規制の目的や態様も様々であるから、職業の自由に対する規制については、立法府の裁量的判断を尊重しつつ規制目的が公共の福祉に合致するものであり、手段において、その目的を達成するための必要性と合理性があるかを、規制の目的、対象、方法等の性質と内容に応じて段階的に判断すべきである。
本件条例による規制は、許可制のような事前の規制ではなく、事後的な職業活動への規制であり、しかも職業内容そのものへの直接的な規制ではない。したがって、目的が正当で、手段が著しく不合理でない場合には合憲といえる。

ここから先は

3,121字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?