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【ラジオ教材③】サタデーウェイティングバー

毎週土曜の夕方5時…

謎の紳士が訪れる元麻布のお店。そこで繰り広げられる”大人のトーク”に聞き耳を立てる…という番組でしたね。1992年4月から丸21年続いたそうです。

ジャンルとしては?…インタビュー番組でもあり、ドラマでもあり。
独特のスタイルでしたね。

サントリーのCC(カウキャッチャー ※番組本編が始まる前に付けられるCM)に続いて…コツコツという足音。そして”謎の紳士”のナレーション。
「あ、ひょっとしてアバンディをお探しですか?よかったらご案内しましょうか。いえね、私もあの店に行く途中なんですよ」向かうお店はイタリアンレストラン「アバンティ」。そのウェイティングバーでグラスを傾けながら、お店に来ているお客さんたちの会話を”盗み聞き”することで、季節や世相の話題の”くくり”で展開する…という内容。

インタビュアー(お店の常連さん)が、ゲストと”飲みながら”インタビューするパートが2~3個。それに交えて、キャラの濃い常連客や店員たちが絡むドラマ(というよりコントに近い寸劇)パートが2~3個。その合間に、お洒落なジャズボーカルナンバーが流れる…という構成でした。
例えばこの時期なら「お盆」とか「花火」といったテーマが設けられ、ゲストにも、たとえば「花火」なら花火師だとか花火見物マニアといったストレートな人選だけでなく、心理学者だとか科学者みたいな…別の角度から”その”テーマに沿った話を展開するというパートもあったりして飽きない並びでした。

こだわりの中身

謎の紳士:教授役は団しん也さんでした。が、番組内では自己紹介する事もインサイドについて話す事も一切ありませんでした。アバンティも、元麻布にある…という具体的な設定や、毎年「麻布十番まつり」にブースを出すという意外なリアリティ。それに反して、出演者(役者の名前だけでなく、インタビュアーも)制作陣のクレジット等、全く紹介無し…という謎めいた演出。そんな事もあり、実際にお店があると思って探す人たちも居た…と聞きます。
逆を言えば、完璧に世界感を作り上げる事が出来ていた番組でもあります。

噂のひとつでは…当時神戸のKiss-FMで放送していた”夜の大人のラジオドラマ”番組「バール・サンドリオン」を聞いた人が設定を頂戴して企画した…とも言われています。「バール・サンドリオン」では夜のBarを舞台に大人の物語が展開されますし、サントリー自体が関西の企業ですから…あながち嘘でも無さそうな噂です…。
しかし、上にも書いた通り、ドラマパートもコント的ですし、インタビューパートも含め、より手間もお金もかかった番組でした。

手間とお金…例えばドラマパートだと役者はクレジットが出ませんし、バーテンダー・新入りバイト・女性客・その友達・サラリーマン男性・道化役の男性などなど、平均6,7人出演ですからギャラも収録も掛かります。
インタビューは、いわゆるバーター関係無い人が多く、1回で3,4人。1回で3~4分。インタビュアーも放送作家やディレクター、プロデューサー、編集者等さまざまで、こちらもギャラも収録も掛かります。
選曲を担当する人もいる。そして各パーツをまとめるDがいるわけですから…時間と手間とお金が掛かっているのが、よくわかります。

■アバンティスタイル

毎週聞いていて気付いた事ですが…
インタビューパートは1回3~4分。それだけでゲストを迎えるのは勿体ない!と思ってたのですが、数か月後、同じゲストが出た回がありました。
なので多分、1人のゲストを迎えた際…色んな括りでお話を聞いていて、そこからテーマを決めたり、設定したテーマに当てはめて”その話”の部分のみを抜いて編集し、分割して使用していたのではないか?と思います。

1パート1つの話題で3~4分…というこの「アバンティ」スタイルは
その後、自分のラジオ屋人生でも大いに参考になりました。
そう。人の集中力って…そう長くはキープ出来ないんですよね。
3~4分というのは、ベストの尺です。
また、「アバンティ」スタイルでは…教授のナレーションによるリード「おやあ?カウンター奥の席では、雑誌〇〇の編集長△△さんが、歌舞伎俳優の■■■さんと、カレーライスの話題で盛り上がってるようですよ。では、お二人のお話にも聞き耳を…(グラスの氷のSE カラカラカラ)」それに続いて、いきなりインタビュアーが「結構カレーがお好きですよね」と本題に入っちゃいます。
それまで、インタビューというものは”挨拶”から入るものだし、そうあるべき…と思っていましたが、リードで紹介していたら唐突に本題に入っても成立するのだ!と気付かされました。
そしてトークのラストも「〇〇なんですよ…へ~」で、そのまま曲が流れる! 心地よいトークならば、その着地点も音楽との繋がり、間(ま)で演出出来るという事も覚えました。

今だからぶっちゃけますが…
ポートで10年続いた番組「はずのみ」の本編トークパートは
まさに”アバンティスタイル”です。あの番組の場合、寿司清さんの小部屋の席でインタビュー収録したマザーデータは2時間半ほどあります。
それを、1回1回小出しにして、1シーズン8~12回(2~3か月)に渡って放送する…という形式でした。それはそれは話題は多岐に渡ります。収録時に記録したメモ帳を頼りに、時にはあちこちに飛び散った同様の話題を纏めて4~5分に編集し1回分の本編トークとしていました。まあこちらは、ゲストは1人でも迎える側が2人で”本物”のお酒を飲みながらトークしているので編集難度は高かったと思いますが(笑)。

全く関心が無いジャンルの話題であっても、リスナーがラジオの向こうで…”聞き耳を立てて”面白く聞いてもらえる話の展開で編集する…というのもアバンティスタイルとして、大変勉強になりました。

そうそう。「ぬかるみの世界」でもお話しした、となりの席のお客さんのトークを盗み聞きする感覚…そのものです。1対1でないラジオの環境を成立させるもう1つの手法。それを昇華させた番組だったと思います。

程よい大人度

一方のドラマパート。よく、日曜夕方の「あ、安部礼司」と比較されたり、ファミリー番組として捉えられていました。実際、スペシャル企画として両番組のキャラが交流するように一方の番組へゲスト出演したり…という事も有りました。ただ「安部礼司」の方は、純粋にドラマで55分が展開されていますし、脚本のテイストも、よりリアルです。会社や家庭が出てきたり、家族、同僚、取引先…というのが描かれます。アバンティの場合は、基本すべては”店内”での出来事。回想や妄想などで…他の場面も出てきますが、ベースは”店内”でした。
雰囲気も、落ち着いたウェイティングバーの店内に合わせ、程よい大人な雰囲気…それもその週のテーマに合わせて展開されました。

この”程よい大人度”…結構バランスが難しいと思います。
バーですから、一歩深まるだけで 夜の遅い時間のカラーになっちゃいますし、ドラマが軽くなり過ぎると…落ち着きが無くなり、55分番組としての統一感が崩れます。
土曜日の夕方、これから少しアルコールを入れて気持ち良くなる”夜の入口”にシックリ来るテイストを醸し出すのは、きっとトータルに纏めるディレクターやプロデューサーも苦労しただろうな…と想像します。

スポンサーの立ち位置

1社提供となると、どうしても、スポンサーの色が大きく出ます。
下世話なパターンになれば、本編で登場人物が商品名を連呼しながら「やっぱり美味しいね~」なんて台詞を喋らせたり。
CMもオリジナルで製作して…登場人物を登場させたり…。酷い場合は、アナウンサーが出てきてインフォマーシャルを読んだり。逆に、CMか本編か分からない寸劇がシームレスに挿入されたり。

しかしアバンティの場合、そういう演出は全く有りませんでした。
冒頭、スタン(二代目バーテンダー)に注目する際に銘柄を言うくらいで、あとは、グラスの氷がカランと鳴るSEや、シェーカーを振るSEがトークの前後に乗せられたり…トークの後ろ、BGMにミックスする形で店内のノイズが流れたり…そういう”全体的な雰囲気”から、お洒落なバーや洋酒を思い出させる程度。CMも通常の物が使用されました。

スポンサーの姿勢、広告代理店の戦略、制作チームの”加減”が三位一体で、番組の「世界感」として成立出来たという意味で、理想的な番組とも言えました。

提供に付く…ということは、高額のお金を出して自社を宣伝できる事。
そう考える企業が多いと思いますが、あからさまなPRだけが企業イメージを上げる手法ではない事を教えてくれるお手本でもあったと思います。

番組エンディング…

”謎の紳士”=教授は、1杯飲み終えると…食事はせずにお店を後にします。

ほろ酔いとまでは行かない夜の入口。時計の針は、週末土曜の午後6時前。

きっとリスナーも

「今夜、ゆっくりウイスキーでも飲みながら、さっきの話題…誰かに話したいな」と思う素敵な余韻でした。

想像のメディア「ラジオ」だから出来る、素敵な週末の夕方。

もう一度聞きたい番組の1つです。


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