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人生初のヒッチハイクは「砂漠まで」。よりによって、なんで中東で…。

あらすじ
魅惑の本屋がヨルダンにあったので「ここで働かせてください!」とアタックし、いろんな国のスタッフと本屋に住み込みしていた連載エッセイ。

●いよいよヒッチハイクを開始します…

ペトラ遺跡を満喫した日本人(22)とイタリア人(22)

ヨルダンの本屋で働いている私とラウラは、休みを取って旅行に出かけた。まず初日は、念願の世界遺産「ペトラ遺跡」をはるばる訪れ、じっくりと見て回った。

遺跡の隅でひと休み
全部見ようとすると5日かかるらしい

ペトラ遺跡を楽しんだ話は前話

そうして満足げに遺跡を出たのは、多分16時ぐらいだっただろうか。一通り歩き切った私とラウラにあまり会話はなかったけれど、きっと同じことを考えていた。「今からヒッチハイクだ…。やるしかない…」

私たちは、今からペトラ遺跡を出て、砂漠に向かうことになっていた。

一般的なヨルダン旅行で、「ペトラ遺跡」から「砂漠」へ移動する場合は長距離バスを予約するものだ。しかし私たちは色々あって(というか大した理由はなく)ヒッチハイクで行ってみることにしたので、バスなど他の移動手段は何も手配しておらず、ただ砂漠の宿だけを予約していた。

そう、もうヒッチハイクをするしかない状況にあったのだ。

※なぜヒッチハイクすることになったのかはこちら↓

●ヒッチハイクには2種類ある

今までの人生では「ヒッチハイク」に縁がなさすぎて考えたことすらなかったが、よく考えてみると、ヒッチハイクには2種類がある。

(1) 走る車に向かってアピールし、車を止める方法
道端に立ち、通り過ぎる車をひたすら待つようなこちらのやり方が、自分の想像するヒッチハイクに近かった。しかしこれだと、もしわざわざ止まってくれた車がいたら、ちょっと相手に不信感や違和感があっても乗らないと気まずいな..とか考えていた。だがそんな心配は無用で、今回は、

(2)駐車場をうろつき、乗せてほしい車に声をかける方法
こちらであった。これなら乗せてもらう前に、車内の人数や性別、人柄を把握できるのがとても安心だった。(まあ実際には「ヒッチハイク(in 中東)」の時点で何も安心ではないのだが、とにかくそういうことになっている)

今いるペトラ遺跡にはいくつか駐車場があり、これだけ車があればどれかは乗せてくれるだろう…という希望を持ち、この(2)を遂行することにした。

●ヒッチハイクにあたっての必須項目

しかし、この広い駐車場をうろついたところで、動き出す車は本当にまばらに位置していたし、「どの車の人に話しかけようかな」「あの人たちどう?ほら、あそこの..」とか考えているうちに、無慈悲にも車はブーンとどこかへ走っていってしまう。

そんなトライ&エラーを繰り返しをするうちに、確認すべきこと3点がわかってきた。

・チェック項目(1) いい人そうか?

ヒッチハイクには、やはり危ない印象があると思う。しかし私たちだって、乗せてくれれば誰でもいいというわけではない。じっくりと人々の人相を見ていた。しかし人々をよく見てみると、ここにいるドライバーたちの人相はすこぶるハッピーだった。

それは、ここが "ペトラ遺跡の" 駐車場だというのも大きいようだ。どういうことかというと、

・この辺鄙な場所まで、普通ならバスなのに、レンタカーで来ている→裕福。。
・わざわざ(?)旅行先に、フランスでもハワイでもなくヨルダンを選ぶ→もう王道地には行き切ったわよという精神的余裕?を感じる
遺跡を見るために入場料8,000円を払える→やはり裕福であり、文化的というか、人相がいい

なので、大体の人が「いい人そう」であり、この基準(1)いい人そうか?は、オーラにすぎないが結構簡単にクリアをしていた。

・チェック項目(2) その車に空席はありそうか?

これが難しかった。例えば、4人乗りの車に乗り込もうとしている夫婦に声をかけても、「悪いけど後ろの席は荷物でいっぱいなの」と言われる。私たちを乗せるためには2人分の空席が必要で、そのスペースを使ってしまうことは「旅する車」にとって大きな打撃になることを、私たちも十分理解していた。

・チェック項目(3) その車の行き先は砂漠か?

これもすごく難しかった。まず、この夕方に遺跡から車で出る場合、「泊まっているホテルに戻る」という人がほとんどだ。遺跡を出てそのままの足で直接砂漠まで向かう人は、本当にいいるのだろうか…そしてそれは誰なのか…。全く分からず、途方に暮れた。

●とにかく断られまくる

本当に、とにかくめちゃくちゃ断られた。
上にも書いたように、「悪いけど後ろの席は荷物でいっぱいなの」「ごめんね、今からはホテルに帰るから..」が主な理由だ。それが本当なのか断り文句なのかは分からないけれど、そういうことだった。

断られるどころか、最初は声をかけること自体に本当にためらって、なかなか話しかけられないまま見失ってしまうことが続いた。突然話しかけてきて「はじめまして、ところで車に乗せてくれ〜」なんて、「そんな話があるか」と普通は思うだろう。そう冷静に考えてしまう自分達がいた。

それに、ヒッチハイクは私たちにとってリスクなのはもちろん、相手にとってもリスクだ。彼らは私たちを断っても何もデメリットがないのだから、普通はまあ乗せないであろう。

とにかく断られまくって、私たちは「え?ヒッチハイク、意外とむずいな…」と察し始めた。「このまま夜になったら私たち、どうするんだろう?」そんなことが頭をよぎるのも自然なことだった。

●しっかりしないと、とは

ラウラは私より早く、絶望モードに入った。「ねえ、もしさ、だめだった場合のことも考え始めない?この辺のホテルの空きもそろそろ探すとか、、。 」しかしそう口にするラウラは、冷静に判断してのことというより、悲観しながらつらつらと話し始めている印象だった。

「あ、ここは私がしっかりしないといけないな…」。そう思ったが、普通に考えて「しっかりしている」のは、現状を鑑みて"プラン変更"に舵を切ろうとするラウラである。しかし私にとっての「しっかりしないと」とは、「もう、なんとしても誰かを捕まえなければ」だった。

一緒に旅行するほど仲のいい間柄でも、人によって「しっかりする」の意味はここまで変わるものなのであった。

●工夫が必要かもしれない

渾身のA4用紙。今でも大切に取ってある

私はラウラに提案した。「ねえ、今の私たちには『ヒッチハイク感』が無いのも一因な気がする。ヒッチハイクする人って、紙に目的地を書いて掲げているイメージがない?」ラウラも「たしかにね」とのことで、私たちは近くに売店を探して事情を説明し、紙一枚をもらい、ボールペンを借りた。

そしてデカデカと「ワディラム?」と書いたのだった(私たちはワディラム砂漠という砂漠に向かっていたため)。まず、白抜き文字を書いて、中を塗りつぶすようにして描いた。

売店でお借りしたのは極太マッキーとかでもなく普通のボールペンだったため、塗りつぶすとひたすら時間もかかるし、何よりインクを大量に消費している感覚があり、その間ずっと店主(ペン主)に申し訳なかった。

ラウラはそんな私を見て「白抜き文字を、下書きなしで描けるの!?すごい、あなたって本当に絵の才能がある!!」と感嘆してくれた。もし急ぎの状況でなければ、日本語の漢字の白抜き文字もささっと描いてびっくりさせたかったが、そんな場合ではなかった。この状況でもしやっていたら「急募」とか描いていたかもしれない。

ラウラは、細いペンで塗りつぶされていく文字を見ながらも、かたや売店の店主たちと「私たちは○○に住んでいて、今こういう旅をしていてね…」と、会話をしてその場を繋いでくれていた。

私にとっては、ラウラの方がよっぽどすごい才能の持ち主だ。ラウラは誰にでも広く興味を持って懐に入り込み、質問をたくさんしたり、素晴らしいリアクションをすることができる。もし彼女がそのようにして間を持たせてくれなかったら、きっと私はいたたまれなくなって、全然目立たないような細い字で「ワディラム?」とサラッと書いて「はい完成!紙とペンありがとう、じゃ!」と店を後にしていたかもしれない…。あぶなかった。

とにかく私たちはそのように「紙づくり」「間繋ぎ」と役割を分担しながら、2人の力を合わせてどうにか一枚の「ワディラム?」の紙を作り上げたのだ!!!

●次回:この紙の効果はいかに!?

ヨルダンの本屋に住んでみた」の女子旅シリーズ一覧。どこからでも読めます。

1・旅行の準備
2・遺跡 (探検編)
3・ヒッチハイク (苦戦編)←今ここ
4・ヒッチハイク (成功編)
5・砂漠 (星空編)
6・砂漠 (青空編)
7・帰宅と後日談

●ヨルダンの本屋に住んでみた 他の話

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