イタリア人のその喜び方、日本人に真似できない説
●初出勤。朝の静かなキッチンで
この本屋は9時にオープンする。それまでに住み込みスタッフは各自、朝ごはんを食べておくとのことだ。
キッチンに行ってみると、スタッフの「ラウラちゃん」と私のみ。
他のスタッフはというと、
「朝の9時から本買う人とか、いないっしょw」と言わんばかりの睡眠中である。
キッチンで、なぜだかやけにソワソワしているラウラが「あ…あ、そうだ!りんご!りんご…食べる…?」と剥いてくれたりんごを食べながら、しばらく話した。誰もいないのに壁際に寄ってヒソヒソと話したのだが、なんだか高校生の時に教室の隅で友達とお喋りしていた時みたいで楽しかった。
聞くとなんと彼女も、たったの数日違いで、私と同じように「この店で働かせて!」とイタリアから飛び込んで来たとのことだった。そんなことってある?すごい。これはもう、運命の子である。
●とまらない共通点
しかも偶然なことにラウラは大学で日本語を学んでおり、日本にも興味があった。「日本かヨルダンかどっちに行こうかな」と迷っていると、周囲に「ヨルダンなんて危険!どうかしてるよ」「そりゃ100%日本でしょ?」と猛反対された。
そしてなんとなくヨルダンにしたらしい。
つまり、色々な共通点がある女の子だ。
●適当な年齢が少女を惑わす
「ところで...フウ、何歳…?(ゴクリ)」
「ん?22歳だよ」
「オーマイガー!!!フウ〜〜〜!?!?」
なぜだか、超・ハッピーに抱きしめてくれた。
(あの〜すいません..これは..あの..なんのハグですか?)
こうした心身全開のイタリアンな喜び方は初めてだったので、つい驚いてしまった。こんなハグ、甲子園で優勝した時ぐらいしかやらないんじゃないのか…。
とか思っていたが、ずっと一緒にいると私にもイタリアン・ハピネスオーラが移ってすぐ慣れることになるとは、この時は夢にも思わなかったのだが。
とにかく、なんとラウラも22歳。未知の国ヨルダンの本屋で働く境遇だけでなく、年齢まで同じだった。それに驚いてというか、大喜びして、盛大なハグをしてくれたのだ。
ラウラは前もってあの適当すぎるヒゲモジャ店長から、「ん〜新しいスタッフは、27歳だっけなー」と聞いていたそうだ。
なのでラウラは大学で学んだ「日本では年上の人に礼儀正しくしなければならない」が頭をよぎり、「もしフウが本当に27歳だったら、失礼のないように、どう接すればいいの...」と、心底心配していたらしい。
ああ!だからあんなにリンゴの時もソワソワしてたのか、もう〜!私が何歳だろうと、全っっっ然気にしなくていいのに!
あやうく「杞憂」という単語の学習も勧めるところだった。
●もうすぐ私の誕生日
加えて、ラウラにお知らせしてみた。「でもね、あと2週間で23歳になるの。だから今年は、ヨルダンで誕生日なんだ〜!」
するとラウラは、アゴをガクッとあけて天井に向けて叫び出した。
「オオオ〜〜マイガー!?!?ああ、なんてことなのっ!?それってもう、最高じゃない!オーケー、その日は絶っ対、働いたらダメ〜っっ!!そうね、一緒に遺跡に行きましょ、特別な誕生日にしましょ!あああー!ジ〜〜ザス!!!」
…す、すごい。会ったばかりで、誕生日の情報をここまで喜んでくれる人はいるだろうか。なんだかもう、たとえ再来週の誕生日がどんな日になっても、こんなに祝ってくれる友達がいるだけで私は心から幸せだなと思った。ジーザスジーザス。
●住む部屋も同じ
そしてその日、ヨルダン生活にあたって一番気にしていたこと、「私の部屋は個室ですか?(2話)」の答えがやっと出た。広い部屋にベッドを2つ置き、ラウラと相部屋するとのことである。
2人とも安堵して、「共同生活って相手がめちゃくちゃ重要だけど、こんないい子なら本当によかった...」と、向かい合ってお互いの両肩に手を置き、見つめ合いながらしみじみと言い合った。もちろん、ラウラにつられてそんなポーズになったのである。
●元気なラウラちゃん
これらを整理すると、偶然同じ時期に、イタリアと日本という異国の地でそれぞれ「なんでヨルダン?」と心配され、だけどやっぱりなんとな〜くヨルダンの、しかも同じ本屋に「超長文」を送った同じ歳の2人が、仕事も家も共にする運命になったということだ。
そして、ラウラはただのかわいいイタリアンわんぱくガールかと思いきや、すごい側面もあった。
東京大学から留学生が来るような(つまり絶対エリートな)大学をどういうわけか2年で卒業してしまい、イタリア語・英語だけでなく何故だかフランス語もペラッペラで「つぎは日本語もいいけど…でもせっかくならアラビア語かなあ」とウキウキ勉強していたのだ。
ラウラちゃん、ど、どういうこと?
ジ〜〜ザス!!!!
【つづく】「ヨルダンの本屋に住んでみた」
●次の話:初めてのアラビア語、日本語とこうも違う
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