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移行している最中の世界を体験し、新しい世界を描く 〜不足・分離の在り方・意識〜

プロローグでは、「在り方・意識」「生活様式(ライフスタイル)」「経済」「政治」「環境」「教育」の6つの分野を、コロナ前・中・後で分類し、「生活様式(ライフスタイル)」を見てみました。
昭和の暮らしに近くなるが、その土台にある「在り方・意識」「経済」が異なると書きました。「在り方・意識」というのは、その人の器(コンテクスト)という言い方もできます。自分の意識の背景のように、存在するものなので、「在り方(Being)」を意識することは、なかなか難しいです。しかし、その無意識で無自覚な「在り方」を「認識」した瞬間に、認識の光がその「無意識」を照らし、自分の器を浮き彫りにします。歴史的にその国や文化で醸成されてきたものや、その人の所属する地域や宗教、家族が持っているコンテクスト(器)を反映していることも多いです。
まず「在り方・意識」の変遷を見てみたいと思います。

写真:インドネシア・スマトラ島ランプン州の海岸で行われた清掃活動で、ごみの山の上を歩く子ども(2019年2月21日撮影)。(c) PERDIANSYAH / AFP

「不足」という在り方・意識


マハトマ・M・ガンジーは、かつて、『地球にはすべての人にとって必要なものが備わっているが、すべての人の貪欲を満たすものは備わっていない』と述べました。また『ある程度の物質的な快適さは必要であるが、それが一定のレベルを超えると、有益ではなく有害になります。だから、欲望を限りなく増大させ、それを満足させるという考えは妄想であり、罠です。・・・ヨーロッパの人々は欲望の奴隷になるほど快適すぎる生活に圧倒されて亡びてしまう前に、その生活様式を変える必要があります。』

こうした警告にもかかわらず、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の1920年代に、製造を促すための新しい概念が示されました。
「計画的陳腐化政策」ー。これは、生産物の耐久性が短期間で終わるとする規範への誘導です。さらに、「生産物の時代遅れの感覚」を意識的に作り出す概念です。消費者は広告により時代に先駆けた最新・最大・最良の生産物が手に入らないときに、不満足感や敗北感にさいなまれます。
その「不足」を補おう!という意識が生きる上での原動力となっていました。しかし、その「不足感」が「充足感」になることは、ありません。
企業の広告により「不足」を誘発される循環の中で私たちは生活をします。こうして、自動的に「不足」が根底にある意識・在り方をしながら、生きているのが今までの私たちでした。
新型コロナウイルスが騒がれ出した当初、トイレットペーパーがなくなったり、未だにマスクを買い占める人がいたりするのも、「不足している」という意識から、自動的に行動しているという、実例だと思います。

「分離」という意識・在り方

2016年の大統領選で、トランプ大統領が「アメリカ・ファースト」を持ち出しアメリカ国民に支持されました。自国第一主義は、その後、イギリスのEU離脱や、自国第一主義を訴えたボルソナーロ氏がブラジルの大統領に選ばれるなど、様々に広がっていきました。
自分の国さえ良ければよい、自分の企業さえ良ければよい、自分の家族さえ良ければよい、自分さえ良ければよいー。
これらの考えは他者と自分が「分離」しているという意識が根底にあります。分離の意識が加速されたのは、前章で述べた「計画的陳腐化政策」とも密接に関連しています。最新・最大・最良の生産物は、他と比較する必要があり、「〇〇さんより最新のもの」「〇〇地域より、最良のもの」「〇〇の人種より優れた人種のわたし」というように、他者との壁をどんどん作っていきます。
コロナウイルス感染拡大のもと、欧州のポピュリストたちは、この機に乗じて「閉ざされた国境」の重要性を訴えています。移民が新型コロナウイルスを持ち込んでいると語り始めるイタリアの政治家も出てきています。感染拡大を、多様性が生んだディストピア(暗黒の世界)であるかのように語る彼らの根底にも「分離」の意識が占めています。
医療従事者の子どもが学校に来ることを拒む、道端に寝ているホームレスに侮蔑の目を向ける、電車で咳をする人を怒鳴りつける、これらの行動は、「分離」が根底にあります。
もし、他者が自分や自分の家族と同じように存在するならば、そのような行動をしないと思います。
そして、わたしたちにとって希望なのは、「不足」と同時に「充足」、「分離」と同時に「和合」の意識を人間は持っています。
「充足」や「和合」は人間に「分かち合い」の行動を起こします。


分離や不足は「恐れ」が土台に、充足や和合は「愛」が土台に

では、分離や不足は何によって引き起こされるのでしょうか。
それは、「恐れ」によって引き起こされます。「恐怖」「不安」は、人に分離や不足という意識を引き起こします。その「恐れ」がいま、新型コロナウイルスにを引き金に、世界を包み込みました。日常の中でむき出しになった差別や偏見を体験し直面し、自分の中にもそれが在ると気が付きます。「無意識」だった自分の「在り方・意識」に「認識」の光が当たります。強烈に体験して認識することで、自分のコンテクストが浮き彫りになり、そこから新しい「在り方」を自分が意志を持って選ぶことができます。無意識に洋服を着ていた毎日から、意志を持って今日は何を着ようか?と選択する日々は、自分が人生のハンドルを握っている充足感に満ちています。

ブレディみかこさんの息子の体験
保育士でライターであり英国在住の「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」の著者であるブレディみかこさんが、新聞で語っていた息子さんの前述の体験が、まさに意識の変容でした。
英国で公立中学校に通う息子さんは日本人と英国人のハーフです。彼は、同級生に「学校にコロナをひろめるな」と言われました。アジア人がコロナウイルスを広めたというデマが一部のメディアや政治家を通して広まり、偏見や差別が顕になっていました。
そして、息子さんに「コロナを広めるな」といった同級生は、あとで「さっきはひどいこと言ってごめん」と謝りに来たそうです。起きていた出来事を見ていた誰かが、彼に注意したようでした。
そこで、息子さんが話したのは「僕は黙っていただけだったけど、誰かが彼にきちんと話してくれたから、彼は自分が言ったひどさがわかったんだよね。謝られたとき、あの場で何も言わなかった僕にも偏見があったと気がついた。その子自閉症なんだ。だから彼に話してもわかってもらえないだろうと心のどこかで決めつけて僕は黙っていたんじゃないかと思う。」
「認識」という光が「無意識」にあたり、新しい認識を手に入れることができる人間の素晴らしさを現している出来事で、わたしは胸をうたれました。

米国4歳のオースチン君の「ショーラブ基金」、ホームレスを救う

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新型コロナウイルス関連ではありませんが、2018年に米国で起きた出来事も、「分かち合い」を自然に体現している少年の話です。
米国、アラバマ州、バーミングハムの4歳の少年がホームレスのパンダの子どもに関するテレビ番組を見ていたとき、父親から人間もホームレスになっているケースもあると聞きました。彼はすべてのお小遣いをチキンサンドイッチ購入のために使い、それらを出会ったすべてのホームレスに配ると決めました。そして親の同意を得て、週1回、オースチン・ペリン君はスカーレット色のスーパーマンのマントを身に着けて、見知らぬホームレスの人々に丁寧にサンドイッチを配って歩き、驚いて受け取る人々に「愛を示すことを忘れないで」と話しています。ホームレスの人々を助けるこのアイデアは、彼自身が思いつきました。2018年5月のCBSニュースでこの出来事が報道されると全米で反響を呼び、寄付金が押し寄せました。父の助けを受けながら、彼は食事・トイレ・薬物更生・住居を一体化した施設の設立を目的とした「ショー・ラブ基金」を設立しました。CBSニュースは「オースチン君に出会ったすべての人が、希望を持ち帰ります。」と伝えています。
この行動の源には「不足」や「分離」はありません。あるのは、「充足」や「和合」で、そのことから呼び起こされたのは「分かち合い」です。

「人類と地球」のファーストの時代

世界が新型コロナウイルスの危機に直面している今、健康と経済への協調的対応が必要とされています。地域や家族への奉仕とシンプルな思いやりの行動、それが「分かち合い」です。
いまの状況は、地球規模の危機であり、一致した協力が求められており、競争やアメリカ第一主義、中国が第一、インドが第一などの部族的な国家主義はもう要りません。
いまは「人類と地球」のファーストの時代です。
わたしたちが、和合、協力、忍耐、理解、これらを分かち合いと同時に意志を持って示していく在り方です。
いまのこの危機を次の行動へ移行する機会として、受け入れれば、その後の生活が持続的に、根本的に善に向けて変化するかもしれない本当のチャンスだと捉えることが可能です。
ではこのような在り方を持って、新しい経済を次の章で考えてみます。

移行する最中の世界を体験し、新しい世界を描く 〜経済〜 へ続く→

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