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「走れメロス」あらすじ解説 【太宰治】

「走れメロス」はなにか深い意味があるのか?とある人に聞かれて、無い、と答えたのですが、じっくり調べてみると深いどころの騒ぎではありませんでした。大変濃く深い作品です。

あらすじ 1日目

メロスはシラクスの町にゆきます。妹の婚礼衣装を買うためです。町で王の暴虐を聞き、怒ります。殺害しようと王宮に潜入、あえなく捕まります。

「妹の結婚式を終えたら戻ってくるから、3日命の猶予をくれ。人質に友人を置いてゆく」と王に頼むと、許可をもらえます。人質の友人セリヌンティウスと抱き合ってシラクスを後にするメロスです。

あらすじ 2日目

徹夜で歩いて田舎にある自宅に到着、大急ぎで結婚式の準備をして寝ます。夜になって起きて、妹と結婚予定の男を「すぐに結婚式挙げろ」と説得します。夜明けにようやく説得成功。

あらすじ 3日目

昼から結婚式開始、あいにくの大雨だが、祝宴は盛り上がります。明日シラクスに出立しなければならないので早く寝ます。

あらすじ 4日目

夜明け後に起床、少し寝坊したがまだ大丈夫、メロスは出立します。殺されに旅立つのです。

順調に進んでいたが、昨日の大雨で橋が落ちていました。ショックでしたが勇気を出して、なんとか泳いで川を渡ります。わたれましたが、疲れました。
と、歩いていると盗賊に会います。王の差し金です。命をくれと言います。逆襲してやっつけます。しかし疲れました。
さらに歩きます。暑いです。西日がきついのです。激しい運動で脱水症状です。がっくりダウンします。もう諦めようか、やけになるメロスです。

と、足元から水が湧き出ていました。水分補給で元気回復します。友情のために頑張ります。走ります。夕日はゆっくり沈みます。夕日と競争して走ります。そして間に合いました。人質になっている友人を助けることができました。

シラクス王は「よく帰ってきたな。人質は解放するぞ。早速お前の処刑だ」とは言いませんでした。二人の友情に感動して、「私も仲間に入れてくれ」と言いました。

章立て

4日間の出来事です。4章に分かれますが、分析すると日付と章立ては一致しません。イベントで4つに分割できます。

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BパートとDパートは対になっています。ここがこの作品最大の工夫というか、仕掛けです(この表ではわかりにくいですが)。

Aパートは省略してBから説明します。

Bパート

1、妹の結婚式が終わって、宴会になると空を黒い雲が覆い、豪雨になります。
2、宴会でメロスは、ここに留まりたいと考えてしまいますが、約束あるので退席します。
3、メロスは一眠りし、起きてしばらく走ります。順調なので安心して、太陽の日差しが強いこともあってゆっくり歩きになります
4、川が濁流になっていて渡れません。橋も落ち、船もありません。泳いで渡ります。
5、山賊がメロスを殺めようとします。戦って3人倒して切り抜けます
6、疲労がたまったメロスは、午後の太陽に照らされて脱水症状、ダウンします。

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Cパート

ダウンしたメロスは悔しがり、「できる事なら私の胸を断ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい」と思います。

しかしだんだん心がすさんできて、「人を殺して自分が生きる、それが人間世界の定法だ」とまでおもいだします。

ところが足元の岩間から清水が湧き出ているのを発見、水を飲んで元気を取り戻し、ふたたび走り出します。

Dパート

1、メロスは黒い風のように走ります
2、野原で酒宴している席の真っ只中を駆け抜けます
3、全力疾走しすぎで口から血が吹き出ます。
4、刑場到着、「先刻、濁流を泳いだように群衆を掻き分け」友の足に齧りつきます。
5、友人セリヌンティウスに殴られ、また友人を殴ります
6、王と若いしたメロス、しかし素っ裸だったので、少女に緋のマントを捧げられます。メロスは赤面します

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太陽になろうとする男

Bパートの簡略化と、Dパートの簡略化をあわせるとこうなります。2回同じ行動を繰り返しています。

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1回目は太陽に照らされて走るのをやめ、太陽に照らされてがっくり膝を折ります。
ところが2回目は、自分から赤い血を噴出し、最終的に緋のマントをもらって、顔を赤面させます。夕日と完全に同化しています。

メロスは1回目では太陽になれなかったのですが、2回目には太陽になれたのです。
メロスはなんのために走ったのか。太陽と同化するため、太陽になるために走ったのです。そして夕日に追いつきました。

シラクス王ディオニス

ところが、顔を赤面させる人物がもう一人居ます。シラクス王ディオニスです。

メロスが到着して友人と抱き合って泣いているシーン、
「暴君ディオニスは、群集の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに近づき、顔をあからめてこう言った(わしも仲間に入れてくれ、うんぬん)」とあります。

物語の冒頭では、「王の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった」と書かれています。冒頭では白かった王の顔が、友情を信じられるようになった最後には赤くなるのです。

ですからこのメロスの物語の背後では、元来太陽であったはずの王が、人間不信から力を、光を失い蒼白な顔になり、メロスの快挙によって再び光を取り戻して顔をあからめる、という物語が進行しているのです。

家族構成

暴君ディオニス王は人間不信から親族を次々と殺害しました。

「はじめは妹婿、
次にお世継ぎ(息子)、
妹様、
妹様のお子様、
皇后様、
賢臣アレキス」

親族5人、部下1名を殺しています。ところが、ディオニス王と非常に似通った人間関係構成をもった人物が居ます。メロスその人です

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妹は居ます。妹婿は居なかったのですが、メロスが急いで結婚させましたね。妻も居なかったのですが、マントの少女とおそらく結婚するでしょう。二つのカップルにも子供が生まれるでしょう。そして賢臣アレキスに対応するのが、親友セリヌンティウスです

メロス王誕生、そして歴史は繰り返す

賢臣アレキスを殺してしまい、手下もメロスに打ち倒されたディオニスは、いまやさしたる行政能力も持っていません。かわりにシラクスを取り仕切るのは、メロス=セリヌンティウスコンビのはずです。だから王は「仲間に入れてくれ」と言ったのです。そしてどこかのタイミングで、王は自然死するなり、メロスに殺されるかします。

新しい王には(おそらくディオニスの娘である)マントの少女と結婚したメロスが即位します。太陽と一体化したのだから当然です。

しかし月日は流れ、メロスの活力もやがて失われ、徐々に顔色は白くなり、人間不信になり、家族や住民を殺しだし、シラクスの町は暗くなり、、、、

そして新しい若者が登場します。若者は激怒するのです。邪知暴虐の王を除かなければならないと、、、、、

かくて物語は最初に戻るのです。そして物語の中では2回同じ行動が繰り返され、、、ああ、太陽のようにぐるぐる回る物語ですね。

金枝篇?

なんだかフレーザーの「金枝篇」みたいな話だな、と思いませんか?
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E6%9E%9D%E7%AF%87

「金枝篇」は早い話、「王の力が衰えたら、殺して新しい王が取って代わる」という、易姓革命小規模版という話です。簡訳本が出版されたのは戦後1951年でして、「走れメロス」が書かれたのが1940年で、時代が合わないのですが、

http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120503/1336015456

フレイザーの主張は、たとえば民俗学の柳田國男などは大正時代から十分把握していたようです。

「太宰がそんな民俗学の勉強なんぞするわけがない」

いやいや、酒と女と自殺フェチに溺れていたのは事実ですが、勉強はした人です。たとえば柳田の弟子の折口信夫の文章見て見ましょう。太宰について折口は、「ただ彼は勉強した、からだを擦りへらすばかりに努力した。彼の積んで行く経験が、彼の健康を、あがなう事のできぬところまで、せりつめて行った」と書いています。折口は当時(あるいは現代でも)超一流の教養人というべき存在です。

フレイザーを参照した文学は、TSエリオットの「荒地」(1922年)、コッポラの映画「地獄の黙示録」(1979年)あたりが有名ですが、「走れメロス」も、もしかしたらそれらに近い作品なのかもしれません。証拠不十分で、断言はできないのですけど。


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