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時系列倒置の研究 2・「市民ケーン」

映画史上最高傑作とも言われる(そうは思いませんけど)「市民ケーン」の時系列倒置の研究です。作品そのものの解説はこちらどうぞ。

枠物語

本作は枠物語です。

最初にケーンが死に(これは事実)、ケーンの生涯をまとめたニュース映画の試写があり、しかしニュース映画として十分な出来ではないから記者たちが関係者に話を聞いて回ります。取材した話の内容は映像で描かれます。取材した話の内容の映像が本編で、ニュース映画と記者が駆けずり回る様は、枠に該当します。青の部分が枠です。

ところでニュース映画の中身は、本編を先取りします。

そして、強い時系列倒置が起こっているのは、ニュース映画のみなのです。ケーンの生涯を時系列順序で並べると、

となります。当てはめると

黄色の部分、ニュース映画の部分のみ、時系列が乱れます。他の関係者の話はほぼ順序だてて並んでいます。サッチャー図書館での調査の映像化では、晩年の10番が入っており、続くバーンスタインの証言は4番から始まりますすので、全く倒置がないわけではないですが、非常に弱い。ほとんどの箇所で順序通りになっています。本作が時系列倒置系と見做されるのは、ひとえに冒頭のニュース映画のせいであって、典型的時系列倒置作品ではありませんでした。ニュース映画は比較的冒頭に葬式の映像を流し、

その後主題別に並べてゆきますから、倒置の効果は特に狙っていません。映画「羅生門」(原案芥川の「藪の中」)もそうですね。単なる真実探求のための叙述方法、推理小説的語り口でして、倒置がメインの話ではない。

ニュース映画部分の倒置回数一応カウントすると3回です。隣り合った同一番号はまとめて移動させてカウントしています。映画全体では5回になります。前回の「ワンス」に比べると少ないです。

キャラクター

倒置研究としては物足りませんので、表を見て気づいたことを少し。

ですが、

という構成になっています。やはり中心は資本ですね。リーランドは直接的に金を求めることはしませんが、記者に葉巻をしきりに要求します。やや下品です。リーランドがデフォルメされたのが最後の執事のバトラーです。「バラのつぼみ」の言葉について話すからと、記者に金を要求します。たいへん下品です。バトラーはケーンが破産してから執事になった人物で、おそらくサッチャーから送り込まれた監視役です。そのキャラをリーランドが先取りし、それらの大本にはサッチャーが居る。リーランドはバーンスタインのようにサッチャーを悪く言いません。態度の違いは明らかです。こんなキャラ配列が本作の物語としての工夫の中心かもしれません。優れています。逆に言えば時系列倒置の典型的作品、ではありませんね。

下品執事のバトラーが最後の最後に「バラのつぼみ」について説明します。奥さんが出ていった時も、スノーボールを持って「バラのつぼみ」と言ったと。これが資本がケーンに勝利した瞬間です。バトラーは資本の権化ですから。

次回は「ゴッドファーザーⅡ」の予定です。



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