時系列倒置の研究 4・「パルプ・フィクション」
作品の解説はこちらです。
時系列倒置作品の代表格です。
三部構成
こんな構成になっています。
タイトルだけではわかりにくいので、内容注釈加えます。
つまりこういう構成です。
時系列で並べ直すとこうなります。
実は1〜4は連続しています。
まとめますと、
こうなります。だいたい同じ量の3つの話題です。並べ替えて見てみると、作品主題は明快になります。
裏切り、信頼、忠誠心と、人助けです。
ジュールスとヴィンセントは裏切り者のブレットを殺しますが、
「裏切り者を裏切った」タレコミ屋のマーヴィンも結果的に殺してしまいます。原因不明の銃の暴発です。確かに神の意志を感じますね。
しかしジュールス本人は決してマーセルスを裏切らず、つまりアタッシュケースを渡さず、パンプキンとハニー・バニーを助けます。自分の財布の金を渡して、です。
ヴィンセントはミアとデートして、魅力を感じながらも手を出しません。ミアの夫のマーセルスに忠誠心を持っているからです。
ミアが倒れると必死になって助けます。
そしてブッチはマーセルスを手ひどく裏切りながらも、
最終的にはマーセルスを助けます。
ブッチが伝来の信頼の腕時計を大事にする人間だから、です。めでたしめでたし。つまりなんのことはない、堅苦しいまでの真面目な内容なのです。
対称構造
おそらく脚本意図としては、その真面目すぎるテイストを緩和させるために、時系列倒置を派手に使っています。強調のための時系列倒置ではなく、主旨を緩和させるための倒置です。
こうすれば説教臭くはなくなります。しかし普通こういうことをすると、散漫なだけになります。主題がちらばっちゃう。そこをなんとか作品としてまとめたい。そこで、5と6を対称にしています。
するとあら不思議、全体は対称構造になっているではありませんか。
対称構造とは文学作品などで頻出する構造で、
ということになります。だからなんとなく文学的なテイストがあるのですね、この作品。以前取り上げた「ワンス・アポンアタイム・イン・アメリカ」
思い出して頂きたいのですが、
原案ではおそらく対称構造×2の反復構成の緊密だった脚本を、上映時間の都合で大幅にカットして、倒置を大幅に組み込んで仕上げています。
本作はそれと真逆ですね。わりとベタな教訓的な作品を、倒置して真面目さを緩めて、その後構成を整えて緊密にしてある。なるほど確かに傑作です。
そして1〜4の話は、結局ジュールスが夫婦者を助けるという話ですが、
5ではヴィンセントが妻を助け、
6はブッチが夫を助けるのですから、
全体としてもよくまとまっています。物語の構成を請け負う「対句」というものに、非常に熟達している印象です。
ほかにこんな見方も成り立ちますね。
見事なものです。
「ニーベルングの指環」下敷きにしている以外に、具体的にどこがよいのか明快ではなかったのですが、表で考えてみると脚本段階での練り込みがケタ違いですね。本作は音楽使いが素晴らしいので、音楽の構成だけピックアップして調べてみるのも面白そうなのですが、私がこのへんの音楽よく知らないので断念します。
次回はトルストイ「イワン・イリイチの死」の予定です。
https://note.com/fufufufujitani/n/naa5a67c803a8
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