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焚き火の俳句ーー松本たかし

とつぷりと後ろ暮れゐし焚火かな/松本たかし

山で焚き火をしていると、この俳句を思い出します。

「とっぷりとうしろくれいしたきびかな」。目の前が明るければ明るいほど背後の闇は濃くなります。山の夜の深さは、電気の光りに染められた都会では、体験できないものです。重量と密度があります。

少しでも山の夜を遠ざけたくて、コールマンのランタンを木の枝に吊るしてみます。しかし、そんな強い光源は、ここにはありません。焚き火のあかりだけが、頼りです。

キャンプで、夕食の支度をします。ようやく食べ終わりました。コーヒーも飲み終わります。さてと。周りを見回します。こんなにも、暗くなっていたのか。驚くことがあります。山の夜は早いのです。

松本たかしは能楽師の家に生まれましたが、病のためにその道を断念せざるをえませんでした。代わりに選び取ったのが、俳句の道でした。能楽でつちかった美意識が、作品に底流していると言われています。ここでも、そうだと思います。

能の世界。野宿をする旅の僧に、死者の霊が訪れてきます。昔の恨みを語ります。彼らがやってくるのが、この「後ろ」の闇からでしょう。山は半分が異界に属しています。そこに入りこんでいる人間の半身も。

青空文庫で「松本たかし句集」を読むことができます。

写真/ますの


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