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私の押し入れ〜その渦に呑まれるな。〜

高校二年生のあの日を思い出した。
私は神奈川県で一位二位を争う剣道部に所属していた。
中学生の頃、個人で県大会まで行けたおかげでスポーツ推薦で高校に行くことができたのだ。

当たり前だが稽古は勿論、上下関係が非常に厳しく、同期同士もみんなライバルで今思えばよくあんな厳しい狭い世界で頑張ったなと思う。
先輩には定期的に呼び出しをくらい怒られ、稽古中もどんな時もすれ違うたびに「ファイトです!!」と言わなくてはならない。稽古が終わったらすれ違うたびに「ナイスファイトです!!」と「ナイス」が無駄につけてまで言う挨拶は本当に無駄だったと思う。

どんだけ辛くても、辞める勇気なんてなかった。
辞めた後の方が学校で生活しずらい。
苦行のような一年生を終え、二年生になったときにある事件が起きた。
二年生の夏、同じ日に二つの大会が重なってしまった。
一つは地方の大会、もう一つは近隣の大会。
部員が多かったので、2チームを作って二つの大会に出場することになった。

稽古について行くことだけで精一杯の私は2チームにしたとて、補欠に入るのがギリギリだった。
そして2チームに分けた時、地方での大会に先生と一緒に行くチームと近隣の大会でサブの先生が同行するチームに分かれた時のことだった。

私は補欠だったが、たまたま先生と地方に一緒に行くチームになった。
私にしてみれば補欠の立場だし、先生と一緒に行く大会でも、近隣の大会でもどっちでもよかった。

だけど先生と一緒に行けない近隣の大会の方に選ばれたメンバーたちが先生に対して怒りをあらわにした。
先生は生徒を贔屓していると。
先生はお気にいりの生徒を選んでいる。生徒を平等に見てくれてないと。
そんなこと思うのは自由だと思ったけど、それをわざわざ先生に抗議すると言って先生を呼び出すことになった。

先生に選ばれなかった激怒メンバーvs先生に選ばれたメンバーvs先生。
まず、これに対してそこまで怒る話なのだろうか?と思った。
先生はどちらのチームもバランスよく強くさせるために、どちらにも強いメンバーを分けた。正直、バランスも上手かった。
だけど先生に選ばれなかったからって先生を呼び出すことだろうか。

ミーティングルームでこの件について、選ばれなかったメンバーが先生に対して激怒をする。
先生はまさかそんなことで呼び出されて、生徒が怒っていると思わずに驚きを隠せずにいた。
何を話してもずっと不公正だ、贔屓だと言い続けるメンバー。
こんなんならもう稽古はボイコットする、辞めるとか、めんどくさいことを言っている。

すると、先生が自分の家族の話をし出して、涙ぐみ出した。
「俺は家族よりもお前たちと一緒にいる時間の方が多いのに、そんなことを言うなんて。。。」

先生が泣き落としにかかった。 私はその態度に対して、家族ネタきたかと思っていたくらいだったのだが、みんなはその先生の態度で一変する。

「先生、ごめんなさい。。そんな当たり前のこと気づかなかったです。。私たち自分のことばかり考えていて。。先生、ごめんなさい。先生大好きです。先生、ついて行きます!!」

とても展開は早かった。 さっきまで怒っていたメンバーが急に態度を変えたのだ。
すると「うちら何も先生のこと分かってなかったね。ほんとうちらこれから頑張ろうね。」みたいなノリが一気にやってきた。

おいおいおいおい、さっきの怒りはどこへ行った?
あんなに先生の悪口言ってたのに、そんなちょっとした先生の態度であなたの怒りは消えてしまったの?それなら本当に大した怒りじゃなかったんだな。
だったら、あんなに怒らないで欲しかった。
色々考えれば先生がどう言ってくるかも分かるはずなのに。

だけど、同期がみんな感動的な空気になっていたので私は何も言わなかったけど
とてつもなく違和感を感じていた。

この感覚を私は定期的に思い出してしまう。
自分の癖でもあるけど、みんな盛り上がってる時に俯瞰して見てしまったり、冷めてしまったりする。どこかで感情が一緒になれない。
高校生の頃よりは、人に合わせられるようにはなったし、同じ感情の演技はできるけど結局は同じ感情になれない。

もう性格の話だからどうしようもないんだけど。

今でもみんなが一つのことに没頭していたり、夢中になっていたり、何も見えなくなってしまっている様を見ていると高校二年生の私が登場する。
「おーい!!みんな、ちょっと俯瞰してよ。」と。

今、このウイルスの状況にも当てはまるんだろう。
そりゃ、生きていてこんなに色々と拘束されることも
自分の計画がズタズタにされることもない。
何よりも生きるためには生活がかかっている。
そりゃ大変だ。みんな必死だ。

ただ、そんな時こそ俯瞰して見てみよう、見なくてはと思う。
高校二年生の頃。みんなと一緒の感情の演技ができなかった私が言う。

「あんたも一緒になってどうすんの?」って。

みんなと同じにならなくていい。
あなたはあなたのペースで良い。
今だけが全てじゃないし、何よりも先のことを考えなくてはならない。
綺麗事かもしれないけど、人の本質が異常に見えてしまう時期だからこそ心がけなくてはいけないこと。

何よりも私は私に伝えたい言葉なのかもしれない。

みんな他人の言葉に行動に惑わされぬように。

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