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台風の日

東京に台風が上陸した日のこと

脅されるかのようにテレビでは「命を守る行動を取ってください」と言われ
あの人が去ったばかりの部屋で孤独と一緒に過ごしていた
大げさに窓を叩く雨音はただ事ではない

電車が事前運休を発表したり
商業施設が臨時休業をしたり
テレビでもずっと台風の情報が更新され
テレビの中で激しい雨風と戦いながらリポートするアナウンサーをただただ眺めていた

別に山奥でも川が近いわけでもないこの東京で
家にちゃんといればそんな怖いことも危ないこともない

そんなのは分かってる

私はただ、この台風の時にあの人がそばにいないことが辛かっただけ
この台風を共有できないのが辛かっただけ

仲の良い友達たちはきっと心許ない今日を恋人と過ごしたり、家族と過ごしているのだろう

こんな時に誰もそばにいない私は頭がおかしくなりそうになる

誰かと繋がりたい
誰かに大丈夫?って言われたい
誰かに心配されたい

子供じゃないんだから
良い大人なんだから

それでも「私が生きてる」ということをみんなが忘れてしまった気がした

連絡なんて取るつもりなかったのに
台風を口実にあの人に「今日は台風だね、怖いね。」といつの間にかラインをしていた

しばらくして既読がつくけど返信がこない

既読がついた数分さえも長く感じて、居た堪れなくなりもう一度送る
「そっちは台風大丈夫?」

また永遠のような数分の後、ようやく返信がきた。
「大丈夫だから」


返信がきた嬉しさよりも、自分で想像ができた結末をあえて作り上げてしまったこと
こう言われるなんて分かりきっていたはずなのに私は何を期待していたのだろう

「そっちは大丈夫?台風すごいよね。」とでも言ってくれるとでも思ったのか

呆気なく終わってしまったやりとりに居た堪れなくなり、思い出せる範囲で男子に連絡をする。

「台風、すごいね。大丈夫?」
そんなラインが最近会ってない女から突然来たって、みんな「大丈夫ですよ〜」って答えるしかないのに
何人かと意味のないやりとりをしたところで虚しさがこの部屋に湿度とじわっと重たくなっていく。

結局、誰にも「大丈夫?」って言われないまま一人で台風の1日を耐えた。

本当は台風なんて関係なかった。

台風を口実に「大丈夫」って言って欲しかったんだ。
あの人に「大丈夫」って言って欲しかったんだ。
私のこと思い出して欲しかったんだ。
あの人の中で私が生きていて欲しかったんだ。

私は生きてるよって。

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