見出し画像

あの街と向き合った日

久々にこの街に降り立ったのはあの頃通っていた病院に行きたかっただけ。

病院で処方箋をもらい、近くの薬屋さんであの薬をもらうと
駅と反対側に向かって歩いてみる。

引っ越してから、この街をこれ以上奥まで歩くことはなかった。
歩けば歩くほど数えきれない思い出がやってくるから。

東京で初めて一人暮らしをした街

長く続く商店街、あたりを見回しながら歩いていると
あの古着屋さんはカフェに変わり
ドトールだった場所はお洒落な中華屋さんに変わり
大きな桜の木のある小さな公園にはおじいさんが座っていた
変わっていく景色もあれば変わらない景色もある。

今までならここまで商店街を歩くのすら勇気がなかった。

でもいい加減、ここらへんで自分の弱さを向き合わなければいけないってね。

あの人と一緒に行ったタイ料理屋さんはあの頃と変わらずにあった。
あそこのカオマンガイが美味しいってあの人は喜んでいた。
また行きたいねって話してたけど、それも昔の話。

小さな交差点の角にあるラーメン屋さん。
住んでた頃はよく一人でここでラーメンを食べていた。

信号を渡り、もっと道を入っていく。
前住んでいた家の方面まで歩いてみようと思えた。

途中の角でふと立ち止まり振り返る。
そこで見上げた空は、閏年のあの日に私が見上げた青空を同じ場所。

「良き日。」私は青空を見上げながら、あの人にそう言ったんだ。

ずっと忘れられなかったあの空の角度。
今、デジャブのように同じ場所で見上げてみる。
もう日が暮れて、青空でもなんでもなかったけど間違いなく同じ空。

でもずっとここから空を見上げたかった。

少しだけ震えてた心が落ち着いて、また踵を返す。

また真っ直ぐと住宅街を進む。

あの人と出会った頃に一緒に歩いた街でもあるし
恋人とたくさん過ごした街でもあった。

あの頃はあの頃で楽しかったし、なんとなく永遠にあんな日々が続くと思ってた。
あいつのいない人生なんてありえないって思ったけど
もう6年もあいつのいない人生を過ごしてるんだから、永遠の思想なんてちっぽけなものだ。

駅から家までこんなに遠かったんだ。
くねくねの道を歩き続けやっと辿りついた昔のマンション。

入り口まで行ってみると、カーテンの隙間からオレンジの光が見えた。

誰かが住んでるんだね。

少しだけ安心をする。

一つ一つ気持ちを整理していく。

ずっと怖くて逃げ続けていた街をちゃんと思い出を辿りながら歩くということ。
私にとって、とてもとても大切なこと。

そのまま隣の駅の方面まで歩くことにした。
こっちの道もよく歩いてたから。

あの日も雨が降り出して、あの人と二人で早歩きしたのを覚えている。

あんなこともあったね、こんなこともあったね。

全てが悲しいことじゃなかったね。
だって、出会った頃は楽しかったじゃない。

最後の最後だけを切り取って悲しい気持ちになってるのはとてもとても勿体ないよ。
あの日、私があの人に言った「勿体ないです。」とリンクする。

そのまま次の駅までの道を辿ったところで私の心のお散歩は終わり。

よくこの街を歩けるようになったね。
思い出と向き合うことができたね。

これでやっとあの人との思い出と向き合えるかもしれない。

隣の駅にはそのまま行かないで、もう一つ次の駅まで歩くことにした。

別に暇はわけじゃない。でも私には今、歩いて心を浄化することが大切なんだ。

2駅分歩いてから、電車に乗って帰った。
もうきっと大丈夫。


家に帰ると疲れていたのか、少しだけ眠りについた。

私はこうやって少しずつあの人からさよならをする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?