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ろうそくの物語

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非日常のろうそく屋さんで販売されているキャンドルの物語。 商品説明欄に書くには長すぎる、少しダークでファンタジーなお話。 短編小説メインです。 ファンタジーが好きな方、キャンド… もっと読む
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2022年11月の記事一覧

スターダストホリック【短編小説】

一度見たら忘れられない、店主が作った星屑を 欲しくて欲しくてたまらなくなったら あなたはもう「星屑中毒」このろうそくの虜。 Ⅰこちらの世界の食べ物を口にすれば、 モノが発する声を聞くことができるようになる いつかドワーフのレリオンがそんなことを言っていたなと思いながら 店主は便利屋が作っていった卵サンドを口に運んだ。 店主のおばあちゃんのサラは、こちらの世界ではずいぶん慕われていたようで。あのサラの孫が星屑を作っているという噂はすぐに広まった。 ところが今の店主に

ドワーフの焚き火キャンドルー秋保石のラビリンスー【短編小説】

木の芯から始まる不思議な話―3 ……ン キン… キーン…キン……キン― 甲高い金属のぶつかる音がどこからともなく聞こえる。 入り組んだ洞窟の中に響く音は ドワーフをさらに惑わせ、入り組んだ道へと導いた。 Ⅰドワーフのレリオンは、今日も新しい地層の調査で未開の地を探索していた。栄えている中央地区を出発し、南西の方向へ進む。 しばらく進むと他の地区にもあるような、鬱蒼とした森が現れた。 この森の先は、地図に記されていない土地。 手分けをして土地の調査をする地域と指定され

焚き火のキャンドルと人魚姫【短編小説】

←前の話 木の芯から始まる不思議な話―2 ここにいさせてという声が頭の中をループする。 「私は人魚」 情報はそれだけだ。 あぁ、また何か変な事が起こりそうだ。 こわい、怖い。便利屋もいない… そうだ、さけるはどこに行った? どうしてこんな時に限って誰もいてくれないの。 いつもいつも、どうして一人なの。 Ⅰ気が付くと、僕の呼吸は早くなって うずくまって必死で息をしていた。 耳に入るのは、自分のかすれた呼吸の音。  息ができない これは、人間界にいた時にもなったこ

【短編小説】7.まほうの、しごと【その角を通り越して。】

←前の話 声に出さなくても分かるのか。 「そう。オレたちは相手の心の中を読めるの。  魔法使いになる第1の条件だからよく覚えておいて」 はぁ。 僕は首を縦に振りながらそう言った。 身動きをしてろうそくの火がゆらゆらと揺れる。 時間が止まったようにゆっくりと影が動いた。 話を聞くとこの小さな人間は、 「第3の世界」という魔法使いの世界から来たらしい。 それも何かの偉い人で、吸血鬼の血を引いているのだとか。 「それで?」 僕は作業台に寄りかかり、忙しなく飛び回る小人

【短編小説】8.おちてゆくせかい【その角を通り越して。】

←前の話 ろうそくの香りではない。 嗅いだことのない、濃厚な香りだ。 あの小人を探すがどこにもいない。 あいつが何かをしたに違いない。 ぐるりと部屋を見渡すと、僕はふらついてしゃがみ込んでしまった。 部屋全体が熱を持って、気怠い空気に包まれているような。 そんな感覚がして、僕の頭もいつの間にか回らなくなっていた。 だけど。 身体が重いのに心地よい。 と。 吸血鬼の小人の声が頭に響いた。 「ただの人間はこれで終わり。どうなるかはお前次第だよ」 もう目を開けてい

【短編小説】9.おかしな、せかい【その角を通り越して。】

←前の話 気がつくと僕は暗闇の中にいた。 真っ暗な中に、意識だけが浮かんでいる感じ。 手を動かしているはずなのに何も見えない。 フワフワした感覚がしばらく続き、僕はまた気を失ったようだ。 気がつくと 僕はいつもの部屋に倒れていて、 窓の外には二つの大きな月が煌々と輝いていた。 おかしい。 何となく体が重いのは倒れたせいなのか、 あの匂いのせいなのか。 僕にはよく分からなかったけど、 この場所がさっきまでいた世界ではない事は明らかだった。 窓の外の月は見たこともない