マガジンのカバー画像

『ちっちゃな王子さま』(超意訳版「星の王子さま」)

19
『星の王子さま』で知られる、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの「Le Petit Prince」の新訳。逐語訳や直訳にこだわらず「今のこどもや若者にもすっと通じることばで」新…
運営しているクリエイター

2020年7月の記事一覧

ちっちゃな王子さま(超意訳版『星の王子さま』) vol.12

ちっちゃな王子さま(超意訳版『星の王子さま』) vol.12

ⅩⅧ それからあの子は、広い広い砂漠をさまよった。さんざんさまよって、出会ったのはたったひとつの花だけ。「あの花」とはぜんぜんちがって、ちいさな花びらが3枚あるだけのちっぽけな花だ。
「こんにちは」
 王子さまが声をかけると、花も「こんにちは」と答えた。
「人間たちって、どこにいるんですか?」
 ちっちゃな王子さまにたずねられて、花は、いつだったか物売りのキャラバンが近くを通りかかったことがあるの

もっとみる
ちっちゃな王子さま(超意訳版『星の王子さま』) vol.13

ちっちゃな王子さま(超意訳版『星の王子さま』) vol.13

ⅩⅩⅠ

 そこにあらわれたのは、一匹のキツネだった。
「や、こんちは」
「こんにちは」
 うしろから声をかけられたちっちゃな王子さまは、ていねいに答えてふり向いたけれど、あたりにはだれも見当たらなかった。
「ここだよ、」
 声は言う。
「リンゴの木の下」
「君はだれ?」
 声の主を見つけて、王子さまは思わずたずねた。「すっごくきれい……」
「おいらは、キツネだよ」
「ねぇ、こっちに来てボクと遊ん

もっとみる
ちっちゃな王子さま(超意訳版『星の王子さま』) vol.14

ちっちゃな王子さま(超意訳版『星の王子さま』) vol.14

ⅩⅩⅡ 次に出会ったのは鉄道員で、線路のポイントを切り換える役目の人だった。
「こんにちは」
「ええ、こんにちは」
 王子さまがあいさつをすると、鉄道員はていねいに答えた。
「ここで何をしているの?」
「お客さんを千人ごとに、仕分けしているんですよ」
 鉄道員はそう言って、目の前の装置を示してみせる。
「ここで私が送り出した列車が、千人のお客さんを乗せて運んでいくんです。ひとつは右の線路に、その次

もっとみる
ちっちゃな王子さま(超意訳版『星の王子さま』) vol.15

ちっちゃな王子さま(超意訳版『星の王子さま』) vol.15

ⅩⅩⅤ
「おとなたちはさ、あわてて特急列車に飛び乗るけど、自分たちがなにを探しているのか、なんにもわかっちゃいないんだ。だから、いそがしそうに見えたって結局、いつまでもおんなじところをぐるぐる回っているだけなんだ」
 あの子は、そう言ってちいさく笑った。
「そんなこと、しなくていいのにね」
 ぼくたちが夜明けにたどり着いた井戸は、サハラ砂漠にあるのにふさわしいものじゃなかった。ふつう砂漠の井戸って

もっとみる