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文月 煉
2020年3月29日 14:52
彼は、旅人だった。 生来の根なし草で、荒涼と続く世界を目的も理由もなくあてもない旅を続けることが、彼の人生だった。 だから、真っ白な雪に覆われた峻厳な山の麓に張り付くようにして存在している、その小さな街に彼が訪れたことに理由はなかった。たくさんの山と谷に囲まれたこの地に平地は少なく、あたりにはその街以外に人の住むところは見当たらなかった。冷たい風が吹き荒ぶ雪と岩だらけの荒野に、その街は取り残