山田杏奈は追いかけたい 【僕ヤバ 小ネタ】
前回分を書く前に改めて読んだら、その面白さを再認識できました。Karte.33「僕は距離をとれない」。ジャージ入れ替わり事件の原因となった、持久走のエピソードです。
「はちゃめちゃが押し寄せてくる!」が “イタダキ” フレーズなのに的確すぎ。
やっぱり山田の習性が面白い。どうしても市川のこと追いかけちゃうんですよね。
彼が速度を上げればダッシュでついて行き、後ろに下がれば速度を落とす。何をやっても離れません。最終的には二人一緒にコースを外れていきます。
スタート前に「一緒に走ろ!!」と約束した相手は、同じ走るの苦手な原だったのにです。
(以降の画像は秋田書店・桜井のりお「僕の心のヤバイやつ」各エピソードより)
冒頭、山田と原の約束を耳にした市川が、「抜け駆け発生のフラグ!」的な予想をしてましたが、その斜め上を行きました。思えば山田が原を気にかけるそぶり、ゴールまで全くなかったです。ずっと市川のことだけ見てました。
好きな人を、目が追いかけてしまう。そんなときってあります。
でも、そうと決めた山田は、目だけじゃおさまりません。体ごと追いかけて、ぶつかっていきます。擬人法の入る余地がない、人そのもの。
けれどもTPO無用なので、ヒューマンビーイングっぽさは薄め。いわゆるヒト? イヌとかとワイルド的に並びの感じの。
って言い方アレだったかもしれませんが、そういう、自分が信じる思いへの愚直さが山田の魅力の一つだと思ってます。
そういえば、コミックス2巻の巻末マンガでも追いかけてました。おでんの出汁を市川にあげ、いったん校門で見送るものの、我慢できずに駆け出すんです。
決して出汁が惜しくなったわけじゃない……はず。
引用部分前の描写からすると、間接キスを見届けたかったんじゃないかとも思えるんですが、果たしてどうでしょうか。
他にも色々ありますが、特殊な事例でいうとKarte.43。ここでは、急に冷たくなった市川の思いを確かめるため走りました。
ど迫力でした。思い込んだら加減がきかなくなるとこ、あるんです。
とは言え、山田の追っかけはどれもこれも罪のないもの。
Karte.43に至っては、市川が感謝すべきたぐいのものでしょう。
その場その場はポジティブなリアクションをしない市川も、心の奥では愛おしく思っていたはず。
きっと、このときを除いては。
僕、このツイヤバ、大好きなんですよね。
「大人と告白」をお題にし、背伸びしてみせる市川・関根も、意味が分からぬ山田ら三人も、それぞれの立ち位置で The 中学生。
手さぐりトークもそうですが、未経験で至ってしまう悟りの境地もまた、この年頃にありがちな症例です。
ややシリアスめいて大人びていた(当時の)本編を補完する、愛すべき思春期たちがそこにいました。
いつもと一味違うデフォルメも、それにマッチしていたように思います。
で、さっきのシーンですね。市川が保健室から出て行ったところ。それを山田が、少し距離をとりつつ追いかけている。
直前、市川は山田と話していました。大人はなんで告白しないのかという一般論から、心理戦的展開へと突入した話。
私たちはつきあってるのかな? と取れる山田の発言に、市川の答えは明確ではありません。(言葉どおりに)分からないとも、(子供だから告白する気があるので)告白するまで待ってくれとも、あるいはもう少し違った意味とも取れる言いぶりです。
最後の山田の「じゃあ 私も!」は、私もまだ子供だから言ってくれるまで分からないよ、待ってるからね、と取るんでしょうか。市川の歩みに身を委ね付いていく後ろ姿とシンクロするので、形としては綺麗です。
いずれにせよ、解釈の余地が大きい、余韻のある会話だったと言えるでしょう。
しかし、この瞬間の市川にとって、そっちの余韻はどうでもいいはず。
さっきまで、ふたりベッドに座り、
ぐっと近い距離で、
腕を掴まれ、
色恋問答していたわけです。
となれば、市川は急ぎ歩きたい。
向かう先は、過去の事例から明らかでしょう。
男子トイレです。
市川、前のコマでは学ランで下腹部隠してますからね。期せずして、スタンバってしまったとみていいでしょう。
いつもの彼なら、どうにかしたいに違いない。市川ひとり版「いつもの所」で。
なのに追いかけてこられたら、お手上げです。
山田の所業は、結果としてナントカ管理そのもの。
市川の心中、察するに余りあります。
(本編最新作があんななのに、こんなんですみません。市川! 年明けは頼んだよ!)