「筆先三寸」日記再録 2004年7月~9月

2004年7月6日(火)

 今年のバトルアリーナも申し込んだことであるし、いよいよ本格的に取り組まねば、というわけで。
 昨夜、いいかげんぐしゃぐしゃになってきたデュエルマスターズ用のカードボックスを整理することにした。
 「スリーブ付けて1000枚」用のボックスが、スリーブもなしに2つともほぼいっぱいだから、もう2000枚は十分あるんじゃないかなあ。1パック5枚入りが150円だから、1枚30円として……あばばである。
 で、山のようなカードを、まず五大文明に分けて、それぞれ1~10弾に分けて、タブつきの仕切りをかまして、と順に詰めていった。
 すると、あれれ、「ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン」と「悪魔神バロム」がない!
 どちらも、デュエルマスターズの誇るスーパーレアカード、人気の面でも今なお全780種中1、2を争う、パワーも能力も絶大な2枚である。カードショップでもシングル価格はこの2枚が群を抜いて高い。それがない。とくにバロムは、それがほしくて第4弾のパックばかり買うなおちゃんを見かねて、お父さんが大枚はたいてショップで買ってきたやつなのに。
 なおちゃんは知らないという。ともちゃんもしらないという。だれかにあげた? 持ち歩いた? デッキに入れてた? と記憶を探らせてみても、二人とも首を振る。

 ぱくられたか。私とサイは顔を見合わせた。
 そういえば、上がなおちゃんの同級生でもあるデュエル好きの兄弟が、近頃さっぱり顔を見せなくなった。我が家に来るたびに、カードボックスをひっくり返しては、「ようけあるなあ」(こんなに買う親はあまりいない)、「ええのんあるなあ」(シングルで買う親はもっといない)、「バロムとか交換してーなー」と、それはうるさかったのに。ともちゃんはレアカードばっかり見せびらかしてたし。
 私は思わずつぶやいてしまった。
「だれかに持っていかれたかもなあ」
 もちろん名前など出さない。上の通り、ふとひとりごちただけである。
 ところが、なおちゃんは、耳ざとくその言葉を聞きつけるや、憤然として言った。
「ちゃうて、ちゃうて、どっかいったかも知れへんやん。たんすの裏とかに落ちてるかもしれんやん」
 なおちゃんは、怒ったような困ったような悲しいような複雑な表情で訴える。

 ごめんね、なおちゃん。君の友だちを疑うようなことを言ってしまって。
 いいやつだな、お前は。


2004年7月7日(水)

 7時ごろだろうか、いつものように、ともちゃんに留守番をお願いして、サイは出かけているなおちゃんのお迎えに行った。
 まあ、その間は20分ぐらい。
 二人が帰ると、ともちゃんが号泣していたらしい。大きな声で泣きながら、
「おかあさん、ごめんね、おとうさん、ごめんね、おかあさん、ごめんね、ごめんね」
 と繰り返すばかりだったという。お父さんなんてまだ帰ってないのに。
 びっくりしたのはサイである。なにごとがあったのか、一瞬本気であわてたらしい。そりゃそうだ。
 でも、原因は一目瞭然であった。
 居間には子どもたちの絵本やビデオテープを詰め込んだカラーボックスが並べてある。その上に、細かなおもちゃやカードを詰め込んだ小ぶりなかごをいくつも並べたワイヤーフレームの棚を置いてあるのだが、それがひっくりかえって居間中、足の踏み場もない有様だったのである。
 ともちゃんが泣き止むのを待ってたずねると、ゲームのソフトを上のほうのかごに片付けようとして、左手で棚そのものをつかんで右手を上に伸ばしたため、全部手前にひっくり返ってきてしまったらしい。
 かすり傷ひとつなくて何よりだったのだが、ともちゃんは本当に驚いて困ったことであろう。
 きっと、大音響とともに起こった惨状を見て、「びっくり>えらいこっちゃ>こりゃおこられる」コンボで混乱、号泣となったにちがいない。ゆえにあの台詞なのである。
 サイもそんなことで叱るはずもない。みんなで大笑いして、いっしょにおもちゃを片付けたとか。
 私が帰宅するや、サイとともちゃんが口々に上記の出来事を説明してくれたのであった。
 細かいおもちゃ類(これが踏んづけると痛い)は、まだかなり散らかっていたが、夕食を食べ終わった私にサイが言った。
「もうみんなで寝るから。あとたのむわ」
 おーい。


2004年7月9日(金)

 中学受験など初手から眼中にない我が家であるが(めぼしい私立は電車で1時間以上かかるけど、公立なら家の裏にあるので。ま、他にも理由はあるが)、近所の大手の進学塾が公開テストをやっているというので、なおちゃんに受けさせてみた。
 実のところ、私も小学生のころは塾など行かず、空き地で野球か家でマンガという、のび太君とほとんど同じような生活を送っていた(キャラも含めて。ほっとけ)。でも、どこぞの塾や出版社のやっている公開テストというのはわりと好きだったのである。友だちと待ち合わせての行き帰りや、帰りのラーメン屋なんかがとくに。テストの出来なんぞは、今となっては覚えてないというより、当時から気にもしてなかったと思う。
 そんな自分の思い出もあるので、なおちゃんも楽しかろうと行かせてみたのである。
 それが先週の土曜日で、本人もなかなか楽しかったらしい。よかったよかった。
 そして、その結果が今日返ってきた。
 日ごろの様子を見ていて、いくらなんでもそんなにバカではないだろうと思っていたのだが、「そんなにバカではない」どころかあんた、とんでもない点数をとってきやがりましたよ。お父さんでも経験のない未知の偏差値ですよこれ。毎日ともちゃんとゲームして9時に寝てこれじゃあ、三年生から毎日遅くまで塾行ってるお友だちに刺されるぞ、後ろから。
 そこで、内心鼻高々な気持ちを押し隠して、私は厳しい表情で釘を刺した。
「これしきのことで天狗になってはいかんぞ。赤い顔で長い鼻になって、下駄はいて鞍馬山のあたりをバサバサ飛び回るようになってはいかんぞ。手下のカラス天狗を使って牛若丸に剣術を教えるようなことをしては……」
「なれへんわ。ていうか、なに言うてるかわかれへん」
 ま、そういうことでひとつよしなに。


2004年7月11日(日)

 最近のよく読むお勧めサイトから。って、全部有名どころですね。みんな私より年上ってのだけが共通点かも。

「悪徳不動産屋の独り言」
 もう、家借りるなら絶対この人に世話してもらおうと思うくらい、ぜんぜん悪徳じゃないところがいい。どこの世界にもある人々の日々の営みの醜いところすばらしいところ面白いところがいろいろ読める。それに、ぱっと見わかりにくかもしれないが、この人の文章のうまさはすばらしいものがある。
 「文学的な」という言葉からは対極的な位置にあるが、立場の違う登場人物のやり取りや出来事を印象もはっきりと簡潔に書き分けて、書き手の実感もきちんと伝える技術というのは、サイトで日記を書くものとしてため息が出るほどである。

「圏外からのひとこと」
 抜群の頭脳でいろんなことを一生懸命考えて、コメントやトラバに対しても真摯に対応するスタイルは、blog形式の鑑というべきであろう。
 でも筆者の論理にいちいちうなずきつつも、大きな違和感を感じることがよくある。たぶんこの違和感は「理系的」なものに対するそれだと思うんだけど、あまり突き詰めると、「世間てものはそんなモデルや理論じゃどうにもなんないんだよ」という、居酒屋におけるバカ上司の繰言みたいになるので、どっちかって言うと私の負け。

「はてなダイアリー‐町山智浩アメリカ日記」
 映画ファンには周知のサイトと思うが、熱くて面白い。最近のムーアがらみの情報は必読。

「鈴木邦夫の今週の主張」
 いわずと知れた新右翼の有名人。2ちゃんねるあたりに跋扈する「ウヨ」とはもちろん一線を画する。「サヨ」の方も読みましょう。

「先見日記」(とくに毎週火曜の片岡義男のパート)
 昔からのファンだからってわけじゃなく、時事コラムとして文句なし。日本、アメリカ、英語、自立、その他いろいろについて読むたびに考えさせられる。毎週丸暗記して、そこいらで受け売りしたおしても周りから一目置かれること間違いなし。こうなったら片岡義男は天声人語書けばいいのに。


2004年8月23日(月)

 「ケロロ軍曹」というアニメがある。
 もうずいぶんと前の話になるが、たまたまテレビをつけた私は、一目見た瞬間、これは! と思い、子どもたちをテレビの前に呼びつけた。
「お前たちに言っておく。このアニメをよく見ておくがよい。このセンスは、お前たちをきっとよき未来へと導くであろう」
 愛する息子たちは、父親のいつになく厳しい表情に、唇をきっと結んでうなずいたものであった。

 おかげでうちの子どもたちは、すっかりケロロファンになってしまった。ともちゃんはアニメを予約録画しろってうるさいし、なおちゃんなどは、単行本を買え買えとせがむ始末である(はじめの2巻は頼まれもしないうちに私が買って帰ったのだが)。
 でもなんで、うちの子どもたちは「ケロロ軍曹」がそんなに面白いんだろう。ま、たしかに、ケロン星人たちは親しみやすいルックスのうえに、スットコドッコイで、毎回のお話も面白いけれど。女性キャラもきちんと立ってて抜群にカワイイけれど。
 でも、本当に面白いのは、むやみに密度の濃いヲタ系の小ネタなのに。ガンダムネタ、エヴァネタは言うに及ばず、それはもう、その筋の人にはツボにはまりまくりの小ネタ(あるいは描写や表現)の数々。
 私はなおちゃんに説明したくてたまらない。
「このパイルダー・オンというのは……」、「この隅に書かれた“飛び大→しゃがみ小”とは……」、「この扉絵はウルトラセブンの……」、「これはすなわち“北斗の拳”の……」などなど、基礎的な事項に限っても、説明したくなるようなことは、単行本の一話あたり10箇所はくだらない。
 しかし私は、断じてそれをしてはならない。説明だけ聞いたって、本人にとっては、知ってる自慢をされるだけで面白くもなんともない、という話ではない。父の偉大さを知らしめることによって、息子が萎縮してしまう、という話でも無論ない。
 なおちゃんが、何かに目覚めてしまうことを懼れるのである。踏み込みかけて危うく引き返した父だけが知るその道は、まさしく修羅の道、そこへ進んでしまわぬかと恐れるのである。将来、自分だけのネット環境を手に入れることがあっても、アニメ板、漫画板でとどまればまだしも、ギャルゲ板、同人板を経て、半角二次元板や喪男板住人になったりすれば、親としてどう責任を取ればよいのか。
 だから私は小ネタの説明には一切触れず、ともちゃんとなおちゃんに対しては、毎週毎週、
「おもしろいねーケロロ軍曹。みんな、バッカでー」と言うにとどめている。

 ところが、なおちゃんは、このところ買ってやった単行本を何度も何度も読み返している。簡単なストーリーだけならそんなに読み返すようなものでもないのに(たしかに面白いけどね)。
 まさか、夏美やモアちゃんのミニスカ姿や水着姿に萌えておるのではあるまいな。ましてやまさか母親、秋の……

 い、い、いや、いやいや、いやいやいや、うちのなおちゃんに限って、うちのなおちゃんに限って、そんなことは……


2004年8月30日(月)

 すでにお気づきの方もいるかもしれませんが、掲示板が死んじゃったようです。
 業者によると復旧のめども立ってないとのことで、近日中にどっかの借りて付け直すことにします。


2004年9月1日(水)

 ともちゃんが、なおちゃんにかけた言葉が耳に入った。
「エロほんもってるやろー」
「も、もってへんわ」
 なおちゃんも、意外な言葉に驚いたのか、あわてて否定している。
 けど「エロ本」て。どこで覚えてきたのか。で、聞いてみることにした。
「なあ、ともちゃん、エロ本ってなに?」
「うーん、わからん」
 どうやらこれは本気でわからないらしい。
「じゃあ、エロってなに?」
「あんな、パンツみること」
 これはにっこりと、明快に返答。
「そーか、エロ本って、女の子のパンツとか、はだかがのってるんや」
「ちゃうねん。パンツみるねん。パンツみせてってゆうて」
 お父さんは、だんだんわけがわからなくなってきました。スカートめくりのことかな。
 しかし、それ以上突っ込んだところで、本人もよくわかってなさそうだし、微妙に方向を変えてみた。
「ともちゃんは、女の子のパンツ見たりしてんの?」
「ううん、してへん。れんくんはするけど」
「れんくん、悪いやっちゃなあ」
「うん、ともちゃんのズボンひっぱって、パンツみんねん」
 お前のパンツかい!

 相変わらずこの6歳児は要領を得ないが、ひとまずこういうことらしい。

・「えろほん」という言葉が、「へんなもの」であることはわかっているが、どんなものかは知らない。「本」という認識もない。
・「エロ」という言葉は、「他人のパンツを見る行為」と一義的に結びついている。パンツの持ち主は同性、異性を問わない。
・したがって、「エロ」は、裸体とも、「女性」とも関係がないらしい。

 ま、そんなとこだろうとは思うが、そんなことでは、将来お父さんのひみつ箱をこっそりのぞいたりしたときに、腰を抜かすことになるぞ。


2004年9月14日(火)

 7月にはサイト開設5周年を無事迎え、やっとこ30万ヒットも目前だというのに、このていたらく。
 そして本日41歳の誕生日を迎えてしまいました。

 いろんなことを考えてしまいます。


2004年9月27日(月)

 掲示板を付け替えました(やっぱりOTDですが)。
 本人の人はまだ棺桶の中です。しばしご猶予を。

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