「新サクラ大戦 the Stage ~二つの焔~」最高の舞台だったからこそ言いたい3つのこと -上海華撃団編-

※本記事は舞台「新サクラ大戦 the Stage ~二つの焔~」並びにゲーム「新サクラ大戦」のネタバレを含んでいます。

初めに

こんにちは、初めまして。佳月と申します。
普段はtwitter上で主に生息しているオタクなのですが、思う所あって長文をつらつら書き残しておきたくなったのでnoteを始めてみました。
こういった文章を書くことに不慣れなこともあり、何かとお見苦しい点もあるかと思いますが何卒ご容赦いただけましたら幸いです。

元々原作であるゲームの新サクラ大戦が本当に大好きだったこともあり、2020年11月に上演された第一弾公演『新サクラ大戦 the Stage』(以下『初演』)ですっかりこの舞台と新生花組の虜になってしまい、初演は1回を除いて全通、以降の宴2公演は毎回全通するという熱の入れようでした。

そして遂に念願の、原作で一番の推しである倫敦華撃団や上海華撃団が登場する公演が上演される運びとなりました。
その知らせを聞いた時の私の喜びようと来たら、それはもう大変な有り様でした。(あまりにも動揺しすぎて、危うくコインロッカーに預けていた荷物を忘れたまま電車に乗り込みそうになったくらいです。)
もちろん実際に舞台の幕が開くまで新メンバーによる上海や倫敦がどのようになるのか…という一抹の不安はありましたが、アーサー役の楓さんの最初に公開されたコメントを見て「この方ならきっと大丈夫に違いない」と天啓のようなひらめきと確信を持てたこともあり、圧倒的に楽しみな気持ちの方が強い状態で公演初日を迎えることができました。

そうして幕が開いた『二つの焔』ですが、本当に胸が熱くなる、とても良い舞台でした。
特に上海・倫敦両華撃団の再現性は素晴らしく、本当に非の打ちどころのない最高のものでした。こちらの期待を遥かに上回るビジュアルの良さやキャラとしての動きや立ち居振る舞いの完成度、それだけでも驚嘆なのに歌と踊りのクオリティの高さも想像していた以上のもので……そして何と言っても新キャストさん達から終始感じられる熱量の凄さにとにかく圧倒される舞台でした。
もちろん新生花組の皆さんも負けてはいません。2回の宴を経て初演から更にパワーアップした歌と踊りのパフォーマンスだけではなく、女優としての演技にも更に磨きのかかった、こちらも凄まじい熱量のお芝居を見せてくれました。

他にも良かった点は挙げれば枚挙に暇がないくらい、良い舞台でした。
改めて舞台『新サクラ大戦』をこれまでずっと応援してきて良かった、これからも応援し続けようという想いを胸に強く抱きましたし、この舞台を作り上げることに尽力してくださった全ての方々に感謝しかありません。

ですが、そうした一方でどうしても拭い切れない、脚本への違和感や演出において残念に感じた点があったのも事実です。
このnoteでは3回に分けて、それらの点について私なりの感想や意見を述べていこうと思います。
冗長になりすぎる懸念があるため、ここから先はあまり褒めることは挟まず率直な意見のみ書いていくつもりです。ですので辛口な意見・感想を好まない方には、ここから先の閲覧はあまりお勧めできません。
また私自身、サクラ大戦以外の舞台もそこそこ好きな方ではあるとは思いますが熱狂的な舞台オタクというほど多くの舞台を観ている訳ではありませんし、演劇に関しては基本的に素人です。なのでプロの方からすれば稚拙で感情的な意見にしか見えない部分もあるかと思います。
ですが、観客の多くは演劇のプロではなく素人です。
なので一ファンの率直な意見として、こういう見方もあるのだなと思ってお読みいただければ幸いです。

それでは前置きが大変長くなってしまいましたが、今回は主に上海華撃団について語っていこうと思います。


初演『新サクラ大戦 the Stage 』における上海華撃団

今作での上海について語る前に、簡単に前作である『新サクラ大戦 the Stage 』での上海華撃団の扱いについておさらいしておこうと思います。

……と言っても、初演では『上海華撃団』という名称が数回出て来ただけで終わりだったのですが。

初演でも今作同様、0話・1話・2話からなる3部構成だった訳ですが、ゲームと漫画版のストーリーをコンパクトに纏める為に色々とカット&圧縮が施されており、その最たる例が“上海要素の全カット”でした。
まずゲーム本編の前日譚である0話では銀座に出現した降魔のうち花組(さくら)が倒した降魔は一部であり、残存降魔は後から駆けつけた上海華撃団が掃討するのですが、舞台ではその描写はなく、ただ降魔出現時に初穂が上海華撃団に出撃要請をしようとしたものの遠隔地からの移動中のため時間がかかる…といったやり取りのみが繰り広げられます。
そして1話では、原作ゲームの方では色々と物議を醸した『上海華撃団 VS さくら』のエピソード自体が丸ごと削除されており、そのため非常にスッッキリした内容となっております。
2話ではゲームの方でもそもそもメインストーリー部分では上海の出番は無かったため、特に問題なく進行していました。

しかし第一弾の舞台上演時点では第二弾以降の制作は決まっておらず全くの白紙状態であったことを考えれば、“上海要素の全カット”自体は至極当然の選択だと思います。
上海華撃団を直接登場させることが出来るならいざ知らず、本人達を出せない以上は組織名称だけの、最小限の言及に止める方が利口なのは自明の理です。
「未熟で落ちこぼれのダメダメな新生花組が、天宮さくらの不屈のガッツに影響されてやる気を取り戻し、新たな隊長と共に結束を固めていく」というシンプルなストーリーラインに焦点を絞ることができたことも、一本完結型の舞台を作る上で功を奏していました。
これは今作『二つの焔』でもクライマックスで上海倫敦と共に夜叉に立ち向かう流れで最後を〆ていたように、ゲームと違って舞台では各公演ごとに山場を作ってお話を一区切りさせる必要がある為、原作をただなぞるだけではなく“ストーリーの分解&再構築”が必要になるからです。
2.5次元舞台においては、とにかくこの“ストーリーの分解&再構築”が脚本の一番の要であり、成功の鍵を握ると言っても過言ではないでしょう。

そのため、私は初演の成功を心より喜びつつ、その一方で「もし今後続編が上演されることになったら上海全カットの辻褄合わせとかどうするんだろうなあ……ぶっちゃけ一番そこが大変だよね……」と内心心配しておりました。

いやー、まさか一切フォロー無しで突っ切るとは思いませんでしたね!

ここまで潔くシラを切られると、いっそすがすがしい!笑
とはいえ、さすがにもうちょっと何かしらフォローの入れようはあったのでは…?と思わずにはいられません。


「原作未履修ファン」にも優しい舞台から「原作履修済みファン」の為の舞台へ

『二つの焔』での上海華撃団はというと、OPが終わり華撃団大戦の選手入場のシーンからスタートします。
炒飯を作ったり軽業を披露しながら派手に登場するこの流れも、その後に続く挨拶回りのシーンなども基本的にゲームの内容に沿って再現されています。
花組は普通に面識のある体で上海の二人と会話をし、上海の二人は神山にも馴れ馴れしく話しかけてきます。非常にフランクです。
まずこの時点で「え…、舞台でしか新サクラを知らないお客さん大丈夫…?ついてこれる??」という心配をしてしまいます。

そして華撃団大戦のルール変更が告げられ、華撃団同士で直接争い、実戦によって雌雄を決することを求められ困惑し、動揺が広がる花組の前に第一回戦の対戦相手として上海華撃団が現れます。
迷いを口にし、気弱な態度を見せるさくらに対してユイは突然平手打ちをお見舞いし、「聞いたよ、動けない三式光武の中で決して諦めないって叫んでたんだってね(略)」と言い放ちます。

……え?全カットした“上海 VS さくら”へのフォロー、これだけ?

これは……何というか……中途半端~~~…っていう感想しかないですね。
ユイがさくらの不屈のガッツだけは花組ダメダメ時代から評価していて「上海華撃団においでよ」と言っていたくらい、さくらのことを認めていたからこそ、今の気弱なさくらが許せなくて平手打ちをしてハッパをかける流れに説得力がある訳で。
舞台の流れだと突然よそのチームの人間に平手打ちをしてきたかと思うと一方的に叱り飛ばしてくるヤベー女でしかない気がするんですが…本当に良かったんですかね、これで…と思わずにいられません。

そして一回戦試合終了、帝国華撃団が上海華撃団に勝利します。
負けた方が解散、華撃団を名乗ることもWLOFの許可なく出撃することも出来なくなる――そのため、ユイは「負けちゃった、わたしたちの居場所が無くなっちゃった」とその場に泣き崩れます。

「居場所が無くなっちゃった」っていう台詞、ゲーム未プレイの人には全然ピンと来ないんじゃ…?

「え、上海に帰れば良くない?」って思っちゃうんじゃないかな普通……なぜなら上海華撃団が帝都を守って戦ったり、帝都の人々から好かれている描写が一切無かったので……上海華撃団にとっては帝都も大切な、自分たちの手で守りたい場所であるということが、舞台しか見ていない観客に伝わっているとは到底思えませんでした。

0話1話における上海の活躍全カットによる弊害は、『さくらや花組達との確執や因縁の消失』だけではなく『上海華撃団が帝都花組に代わって長い間ずっと帝都を守ってきたという描写の欠如』がかなり大きいのではないでしょうか。
落ちぶれきってしまい、自力では降魔の1体も満足に倒せないほど弱体化した帝都花組に代わって、亜細亜全域をカバーしながら長い間帝都の平和も守り続けて来た上海華撃団にはその矜持があったからこそ、不甲斐ない花組に苛立ちを感じて衝突もしてきたし、いつの間にか立場が逆転してしまっていて格下だと思っていた帝都花組に負けてしまうことで何もかも失ってしまうことになったという皮肉な結末が、見ている者の胸を刺すのではないでしょうか。
ただの状況説明的な台詞で「上海華撃団に守ってもらっているのが現状」と軽く触れただけ、それも前回の公演での話という体たらくでは上海華撃団のそういう事情をそもそも描くつもりが無かったのだろうなと感じてしまいました。

例えば5話では舞台オリジナルの戦闘シーンとして、神山・さくらの不在中に夜叉の襲撃があり倫敦華撃団が救援に駆けつけるというものがあります。
私のような倫敦ファンからしたら、倫敦の活躍シーンを増やしてくれたことは本当にありがたかったんですけれども、そういうファンの欲目を抜きに公平に物語のバランスなどを考慮した場合、こういったオリジナルの戦闘シーンは上海にこそ追加が必要だったのではないかと思わずにいられません。
帝都に現れた降魔に対して上海華撃団が花組よりも先に降魔を討伐し、帝都の人々から称賛される…といったシーンの一つでもあれば、少しは『上海華撃団がこれまで帝都の平和を守る役目を担ってきていた』という設定に説得力が増したのではないでしょうか。
倫敦 VS 夜叉のシーンがどうしても必要かと言われれば、もちろん無いよりはあるに越したことは無いんですけれども、上海に対する致命的なフォロー不足の方がどう考えても深刻である以上、削るならそこを削って代わりに上海の戦闘を追加して欲しかったというのが、私の率直な感想です。

ただ、これらの細かいツッコミ所、説明不足に感じる点も原作ゲーム履修済みの観客であれば「まあ仕方ないよね、尺の問題があるし」と目を瞑れる範囲内ではあります。だからTwitter上でもこの点について批判している人はあまり見受けられないのも自然な現象だと思います。実際、このくらいなら一般的な2.5次元舞台ではよくある省略・カットの範疇でしょう。
ですが前作が「原作ゲーム未履修のご新規さん大歓迎の舞台」として完璧と呼んで差し支えない完成度の舞台であったことを考えると、今作でごく一般的な、どこにでもある「原作履修済みファンに向けた、内輪向け舞台」に近づいてしまったことは正直非常に残念でなりません。


キャストへの丸投げと脚本の怠慢

上海に関する脚本の詰めの甘さ、説明不足がこれだけあるにも関わらず、実際の舞台では上海の二人は多くの観客から大好評で、温かく受け入れられる結果となりました。
これはもう、ひとえにキャストのお二人の力でしょう。
シャオロン役の本条万里子さん、ユイ役の西田ひらりさんのお二人が誠意を持って原作キャラの良さを舞台上に再現し、その魅力を最大限に引き出すよう全身全力で演じ切ってくださった結果、こんなにも愛されるキャラとして上海の二人が現実に顕現した結果なのだと思います。
これが2.5次元舞台の醍醐味であり恐ろしい所でもあるのですが、生身の人間が憑代となって現実に顕現したキャラクターというものは、時に物凄いパワーを生み出します。2次元と3次元の良い所取りなので、現実を忘れさせてくれる2次元の夢と理想が詰まっていて、3次元の人間の存在感と『そこに“居る”という説得力』が満ち満ちている状態です。もう無敵です。
初演の舞台で花組やすみれさんにもそれを感じていましたが、今作の舞台でも上海・倫敦の新キャストさん達は見事なまでにそれを成し遂げていたと思います。
ただ、残念なことに初演と比べて今作では脚本がその助けになっていたようには感じられませんでした。
倫敦は原作と比べると辛うじてプラマイゼロかな…いや、やっぱりちょっとマイナスかな…という感じですが、上海に関しては前作での全カットが完全に足枷になってしまっていて、よくこれだけハンデがある状態であんなに舞台上で全力で輝けたなあ…と脱帽する他ありません。

脚本は前回との整合性を取ることも細かいアラを潰すことも放棄し、かといってキャラクターを立てることや魅力的になるよう肉付けしていく作業もキャストに丸投げしている――乱暴な言い方になりますが、正直こういう印象が拭えませんでした。
もちろんキャラを舞台上に作り上げていく段階で、色々と『演出家』としての仕事はきちんとされていたのだと思います。キャストさんだけでキャラを作ったとまでは言いません。ですが果たして『脚本家』の仕事として万全を尽くしていたと言えるでしょうか?
素人目に見ても明らかな矛盾・齟齬がある時点でどうやっても百点満点の評価をすることは難しいと思います。

「キャラが魅力的に描けていればOK」
「細かいアラや説明不足は尺の問題があるから仕方ない」
「ストーリーの熱さと勢いの方が大事」

確かに2.5次元舞台ではよくある話です。優先順位としてはキャラや世界観の再現性が最も高く、その方が高い顧客満足度を得られることは普遍的な事実としてあるでしょう。
ですがそこに甘えすぎてしまってベストを尽くさないのであれば、それは脚本の怠慢と言わざるを得ません。
また、『原作ゲーム未履修のご新規さん大歓迎の舞台』から『原作履修済みファンに向けた、内輪向け舞台』へのシフトチェンジも気になりました。
意図して舵取りを変更したのなら、それ以上何も言うことはないのですが、意図したものではなく結果的にこうなってしまった…というのであれば、今後の展開に更に不安が残ってしまいます。今一度、観客の目線に立って客観的に脚本を見返してみてほしいと切に願わずにいられません。
繰り返しになりますが、前作が本当に、『原作ゲーム未履修のご新規さん大歓迎の舞台』の舞台として百点満点太鼓判の舞台であっただけに、非常に残念でなりません。

今作は『ちょっとこれだけで華撃団大戦の“良さ”は全然伝わらないので……興味を持ってくれたのなら絶対絶対ゲームをやってくれ……!』と原作ゲームファンからしたら言わずにはいられません。血の涙を流しながら。


いかがでしたでしょうか。
ここまでご清聴ありがとうございました。
あと2回ほど記事を書くつもりでいるので、もしよろしければ引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。

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