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「バードコール 小鳥のくちびる」 第七話(最終話)

  メ カ ク シ
       
  ぇ、……
 
  めかくし、しておけばよかったね、ひばりくん…………

 「でも、チャットだから、できちゃう。……ほら、もうひとりのコルリが、ヒバリくんに目かくし……こっちのコルリは、アンダーシャツのうえから、ひばりの、肌と、肉と、内臓と、ふれるかふれないかで愛撫しつづけたまま……」
 ふたりの、コルリ……。心臓が冥い体液のなかにとぷんと落下して革袋そのものもが鼓動になったようにくらくらとした。
 「ff、めかくし、よ、ヒバリくん」
 耳もとでコルリのあつい吐息がとろりとした言葉とともに革袋にしみこんできて、とろんとろんの冥い体液にしたたり落ち、まぶたのうえにおおいかぶさってきて、黒いレースが、きゅっと、うしろで蝶結びされてさらさらとした感触がまぶたや鼻にひっついてきて、革袋の表面をしめつけ、しみこんできた。
 「コルリ……、s ん……」
  uff、セーターだって……ほら、こうやって……ひばりくんの、肉と、肌と、内臓、ふれるかふれないかでやさしく引っ掻きながら……脱がせちゃう……もうひとりのコルリが、ヒバリくんのうしろから……ひばりを、バンザイさせて……十本のネイルの先がえがく軌跡の花がふれるかふれないかで肉と、肌と、内臓にとじたりひらいたりして、ぼくの両腕はすこし乱暴にばんざいさせられ、
  ぅ、んっ、コrryリ……さんっ……
  そうよ……耳もとで囁くの、もうひとりのコルリが……
 「ひばりくん、このまま、バンザイしたままでいて」
  って。コルリのとろんとしたなまあたたかいジェル状の肉声が耳の穴からしみこんできて、とぷんとぷんとゆらめいている冥い体液のなかに生きもののようにとけこみ、腕の先からぶるぶるとふるえがからだをつきぬけて排泄物のように床に落ちていった。キーボードのうえの指は、もう、麻痺したみたいにこわばっていた。
 「そう、そうよ、ヒバリ……く、ん」
 ざわめき、ジンジン……していた、……よく、見えるの、浮きあがって。ざわめきは、コルリの十本のネイルの先がえがく軌跡の花びらから拡散して、コルリの……爪の行く先になにがあるのか……わかる? ひとつのところに……わかるわよね、ヒバリくんなら……感じてるのよね、コルリの視線が、いま、なにに釘付けになってるのか。……かんじてるんでしょ、ヒバリくん、……? とけこんできてしたたりおちるコルリの肉声に冥い体液はゆらめきをまし、うちがわから革袋をおしひろげ、ぷくりと革袋の表面はとがり、ぴったりとはりついてくるアンダーシャツに、コルリのあつい視線がざわめきながら、ジンジンと凝縮してくる。
 「ジンジン、してるでしょ? ここ。コルリの視線にからめとられて。雁字搦めよ、コルリのいやらしい視線で……ああ、たまらなくかわいいの、たまらなくいいの、ヒバリの、ここ。ヒバリの、 ci、ci、cu、bi、……」
 とぷとぷとゆらめく冥い体液のなかで、コルリのネイルの先が描く軌跡とコルリのあつい視線が凝縮している ci、ci、cu、bi、だけが、ぼくを存在させていた。
 ……結界に……ゆっくり……、ヒバリの結界に入ってくの。……ちいさな、まるい、結界を……コルリの爪の先が……
 「ほら、……犯してく」
 ……コルリのココア色のネイルの先が、ひばりくんのアンダーシャツのうえを這いずりまわって、肉と、肌と、内臓と、冥い体液とに軌跡を……ぼくの……革袋からぷくっととがった…… ci、ci、cu、bi、ヒバリの ci、ci、cu、bi、のまわりをぐるってとりかこむ……ニュウリンにココア色の爪の先が触れて、その瞬間、冥い体液と脳みそとニュウリンがショートして、……そのまま、 ci、ci、cu、bi、を、ね、ヒバリ、こうやって、やさしく、は、 じ、  く、  の……
 「ぅっ、んんっ」
 はじかれた瞬間、脊椎を脳天へと尾てい骨へと電気が突き抜けていき、コンソールの前でこわばっていたからだはびくりとゆらいだ。
 「縛っちゃおうかな、ヒバリのこと……」
 いかにも妙案を思いついたと、昂揚でつやつやしたコルリの肉声が冥い体液のなかにひびいていた。
 まずは、手首。このまま、バンザイしたままのヒバリの両手首、もうひとりのコルリが……ほら、こうやってクロスして、麻縄で……コルリのあつい吐息がレースの目隠しからじんわり沁みてくる……
 「ん、ぅ……」
 交差しているぼくの手首を、ぎゅっと、ね、ひばり……
 「想像して……」
 と囁くもうひとりのコルリのあつい吐息が耳をおおい、革袋にしみこんできて冥い体液にしたたり……ほら、 ci、ci、cu、bi、を中心にして、あいかわらず、ずっと……コルリのココア色の爪の先が閉じたりひらいたりして……冥い体液はネイルの軌跡のままにさざめき、ざわめき、なみだち、ゆらめき……ひばりの内臓と、肌と、肉と、 ci、ci、cu、bi、 と、ニュウリンのうえで、花が咲いてる……とじたり、ひらいたり、もの欲しそうに……冥い体液を木霊する、コルリの肉声のひびきととけあい……想像して……手首縛られて吊されるみたいになってる、ヒバリのはずかしいすがた……。
 「これから、裾にハサミ入れられて、アンダーシャツ、おへそのしたからひき裂かれて……切り裂かれてめくられて、剥きだしになっちゃう、ヒバリの、はずかしすぎる、 ci、 ci、 cu、 bi、 」
 
  ゴメンね 昨日のチャット。
  ううん あそこで電話がかかってきて、中断して、そのままになっちゃったことじゃないの。
  ううん それもやけど。
  ううん 中断してよかったのかも。
  ううん やっぱり、中断はよくなかったわよね。
  ごめんね ヒバリくん。
  コルリ 暴走しちゃった。
  怖かったでしょ?
  ううん 怖くなくても、ドン引きしゃうわよね……
  
  ううん、ひいてないです……
 と、一行入力してから、こんなこと書いていいのかどうかさんざん迷ってから、結局、最初から書こうと思っていた一行だけをかきくわえ、返信した。
 
  たぶん、いろいろあって、コルリさん、ストレス溜まってたのかな、って。
 
 返信してから、ふと、あの百人一首の歌をまた思いだした。
 「逢」ヒミテノノチノこころニクラブレバ、昔ハモノヲオモハザリケリ。
 
 ……ケッカイに、ゆっくり……、入ってくの、ヒバリの、結界に……ヒバリの、ちいさな、まるい結界に……ほら、コルリのココア色のネイルの先が……アンダーシャツにさざ波のような皺をつくりながら、それ以上に、肌と、肉と、内臓にざわめきの波紋をしたたらせ、冥い体液をゆらめかながら、ほら、ヒバリ、いま、犯してるのよ、ヒバリのニュウリン……ジンジンしてる、ざわめいてる……コルリが結界をおかすまえから、それがいまはもっと……コルリになにかを吹きこまれてぷっくりふくらんでいた cicicubi も、結界を犯されて、ちぎれそうなほど熱く痺れていた。その ci、ci、cu、bi   、を、「やさしく」なんてささやきながら、コルリのココア色のネイルの先が、は、 じ、  く、  の、
 ……その瞬間、 ci、ci、cu、bi、はインクの沁みが花開くように真っ白なぼくのあたまのなかにぱっととけひろがる……
 「しばっちゃおうか、ヒバリの両手首。バンザイしたまま、クロスさせて……」
  ……ステキ、でした、きのうの、コルリさん
 ココア色の爪先がアンダーシャツのうえから ci、ci、cu、bi、をやさしくひっかき、もてあそんでいた。
  ……ステキ、でした、きのうの、コルリさん
 メールに書けなかった一行をあたまのなかでなんどもくりかえすうち、言葉は熱をおびてきて脳みそをとかし、鼓動を不均衡にはげしくした。その言葉を実際に口にする自分を想うと、白熱した言葉にぜんしんが占領されてぶくぶくとふくれあがり、結局喉と胸を圧迫されて口にできなかった。
  …… すてき、でした、あのときの、コルリ、さん  
  いまも……
 言えなかった言葉はさらに熱をおびてふくらみ、ぼくのすべてをうちがわから圧し潰してしまいそうだった。アンダーシャツのうえから ci、ci、cu、bi、をもてあそんでいたネイルの先がぴたりと動きをとめ、「剥いじゃうね、アンダーシャツ」とコルリは耳もとでささやき、裾から手をいれ、こうやって、ほら、爪の先がヒバリくんの肌をぞわぞわたどりながら、剥いでくの……ヒバリくんの薄皮、ぁ、あ。コルリ……さ、ん、「ハサミで裂いちゃうのもいいかもだけど、こんなのもいいでしょ、ヒバリくん……」十本のネイルの先が肌と、肉と、内臓をぞわぞわとさざ波立たせながら、おなかから、わきばら、胸へと……革袋のひょうめんのざわめきはしみとけてきてひろがり、冥い体液をとぷとぷとゆらめかせ……そう、 ci、ci、cu、bi、のすぐしたで、とめちゃう……、そうして、のぞきこむの、ヒバリの ci、ci、cu、bi、が、今、どうなってるのか。アンダーシャツの皮を被ってぷっくりふくれて白いレリーフみたいになってたヒバリの ci、ci、cu、bi。こうやって、じかに、コルリのあつい視線で、からめとる……ぁ、あ、ここにあるの、ヒバリくんの、 ci、ci、cu、bi。そう呟くと、コルリは ci、ci、cu、bi、をさけて胸から肩へとネイルをはいのぼらせてコットンの皮を剥ぎとり、ほら……黒いレースのマスクを通過した息、ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……ん、ぅ、k、ルリさん…… ci、ci、cu、bi、は春風にふかれて脱皮するように、コルリの息がかかるたびにあたらしい快感がうちがわからうまれ出て花ひらきふるい快感をつぎつぎに脱ぎすてていく……かわいいの、ヒバリ、あなたの   ci、ci、cu、bi。息を吹きかけるたびに、ほら、ぴくんぴくんって……あたらしく生まれかわってるみたいね……ぁぁ、k、ルリさん、ぼくも、いま、コルリさんとおなじこと……感じて、考えてたんだ、コルリさんの息、あびるたびに、 ci、ci、cu、bi、ぴくんぴくんして、脱皮してる、って。kffu、ほんと? おなじこと、感じてるなんて……こんなに離れてるのに、ただネットでつながってるだけなのに、なのに……うれしい……かわいいよ、リバリ、コルリのヒバリ……くん。じゃ、……もっと、……もっと、新鮮にしてあげる、ね、ヒバリの ci、ci、cu、bi。コルリ、さ……ん、ぅふ……ふぅぅっ、んっ、ふっ、ぅ、ふぅっ、んんぅ、fuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu、ぅぅぅっんくっ、fuっ、っぅ、fffffffffffffffffffffffffffffffffッ、ぅっんぅっっぅくっぅっっぅうう、ふu~~~、ぅうぅnんっ、う、uふふ、ヒバリくん、とコルリは息を吹きかけるのをやめて、言った、「いま、コルリがどこ、見てるかわかる?」「んっ……?」コルリのあつい視線がそこに凝固するのを感じた。
 「ココアのルージュの刻印があった、ここ」
  ん、……ん
 冷え切ったカガミの感触が胸ぜんたいを無機質にコートしていった。
 「ここよね、ココア色のルージュの刻印があったのは」
 ぅ……ん
  この前は、ゴメンね、ひばり。……だから……おわびに、キス。……してあげる、ココに……
 「ココア色のルージュの刻印の、ここに」
 コルr……s……ん、手首から二の腕、肩へと、ぶるぶるとふるえが起きて、とぷとぷと波だちゆらめていた冥い体液のなかへとけひろがっていった。先週からずっと、ぼくは、……ううん、それよりももっとまえから、コルリに出会ったときから……ずっと、ぼくは、コルリに縛られ、吊られたままだったにちがいない。
  ほら、ここに、ぴったり、コルリのくちびる、かさねて……んぅ、ぅっ、、、こ、コルリ、さん、ぁはっ、マスク、はずしてなかった。マスク、つけたまましちゃった。黒いレースのマスク。ほら、レースの編み目にヒバリくんの ci、ci、cu、bi、吸いあげて、こすっちゃう、ね、ひ、ば、り、……ぅ、ん、く……だめ、コルリ、三……
 「コルリ、三」
 って、kfuっ、さっきから、いいのよ、あわてなくて、入力、ヘンカン。それとも、そんなに感じちゃってるの、ヒバリ。 ci、ci、cu、bi、黒いレースのマスクで吸われて……ほら、レースでこすってるだけじゃないわよ、編み目から吸いとって、コルリのくちびるで啄んで、舌先で、なでなで……ココア色のくちびるの裂け目からぽっちりとした苺色のあたまをのぞかせるコルリの舌先。舌先はつやつやとした唾液にまみれてひかり尖っている。そのくちびるに、ココア色にもりあがったふたつの肉片にはさまれ、うずもれて、つやつやとした唾液まみれにされて、とがった舌先でなでられている、  ci、ci、cu、bi。 ci、ci、cu、bi、から刺激の信号がおくられてくるたびに、ずっとそんな情景がうかんでいた。ココア色にもりあがった肉片と肉片がもぞもぞと、もっとふかく、おくまで吸おうとするたびに、 ci、ci、cu、bi、はかたく尖り、とぷとぷとゆらめく冥い体液を稲妻のように伝って刺激の信号がおくられてくる。 ci、ci、cu、bi、の先端を、コルリの苺色のぽっちりとした舌先が圧し、こするたびに、したたった刺激がミルクの王冠のように冥い体液を波だたせる。ひだりの ci、ci、cu、bi、はとけてコルリの黒いレースのマスクをすどおりして、まるで、じかに、コルリのふたつのココア色にふくれあがった肉片にはりついて、その組織のなかへととけこみ……んぅ、コルリのくちびるが革袋にしみこみ、冥い体液にまで浸透してくるにつれて……たまらなくなって左の胸を、ひだりの ci、ci、cu、bi、をつきだすようにして……ぼくは…… 
 「ん、んっ、ヒバリの ci、ci、cu、bi、って、いやらしい。uff、もっと、もっと、って、おねだりしてる……」
  ぅ、ん、nnっ、こるり、さん……こすりつけるほど、皮膚の裏側にはりつくようにとぷんとぷんとゆらめく冥い体液はさらにはげしく波だち、泡だっていき……
 「いいのよ、ヒバリくん、もっともっと気持ちよくなって。声も、いっぱい出していいよ、ヒバリ。気持ちよがってる、ヒバリの声、いっぱいきかせて」
  ん、ぁ、ぁぁあ、k るり、三、ぅぅんっ ぁ、ああっ はげしく波だち泡だつ冥い体液は革袋の内側をここちよく舐めるようになでまわし、コルリのレースは脳みそをつつみこんでとろけるようにこすれ、ぷっくりとふくらむふたつの肉片も ci、ci、cu、bi、を呑みこみ、冥い体液と同化して、ぼくを外側と内側から舐めはじめていた。
 「そうだ、マスク、はずしちゃおうか」
 電気が走って、細胞がいっせいにその方向をむいて静止したように冥い体液は一瞬にしてしずまり、次の瞬間にはもっとはげしい衝動と鼓動にざわめきながら、ひだりの cic、ic、ub、i をさらにはげしくこすりつけていた、cic、ic、ub、i だけじゃなく、コルリのマスクに触れるところ、顔に触れるところ、触れることができるところ、ぜんぶを使って、コルリの名前をくりかえし呼びながら、食虫植物みたいにコルリのすべてを捕まえてつつみこんでしまいたいとのぞみながら、……ぁぁ、コルリさん、こるり三、こるり……さん、こるrいさん……コルリ……sん、ぅんっ、んっ、こんなにはげしくこすりつけてきて、コルリも発情しちゃう、ヒバリ、ぁぁん、レースのマスク、まくれちゃいそう、ヒバリの cic、icu、bi、がレースの編み目にからみついてきて、ひっかけて、マスク、剥がしちゃおうとしてる……ぁっ、あっ、コルリ、さんっ、押しつけてる胸が、 ci、ci、cu、bi 、が、レースの編み目から絞りだされるように浸透して、コルリの肌にしみてくるみたい、ヒバリの体液がしみだして、コルリさんの肌に、ぁぁあ、沁みてくる、革袋からしみだした冥い体液が、コルリさんの肌にしみこんできて、混ざりあって……ああ、ヒバリくんの c、ici、c、ub、i に、コルリの黒いレースのマスク、ぐちゃぐちゃにされちゃって、まくりあげられて……コルリさんの、くちびる、犯されてる……見せて、ヒバリくんの、ひばりの、ぜんぶ、ぅっん、ズボン、脱がせてあげる、ヒバリっ、っ、ぅ、んっ、
 「抵抗してもムダよ、ずっと、縛られたままなんだから、ヒバリは。先週から、ずっと。両手首、縛られて、吊されてる。あなたに自由なんてないの、ヒバリ……」
  ぅっうっ、んっっ、くっ、もっと、コルリのレースのマスクの編み目が無数のうすいカミソリの刃となって胸や c、i、cic、ub、i や、革袋や、ぼく自身をきずつけられたい衝動に、夢中で、こんなにはげしく……ヒバリの胸、 ci、ci、cu、bi 、に蹂躙されてる、コルリのマスクと、……くちびる、でも、縛られてるのはヒバリだけじゃないわよ、わかる、ヒバリくん? コルリも、縛られてる、あなたに、コルリのこころ、雁字搦め……
 「脱がせてあげるね、ぜんぶ……見せて……ヒバリのぜんぶ……」
  こ、る、り……さん、ほら、ヒバリ、こうして、ズボンのジッパーを降ろし、前をひろげると、ぼくをズボンからつるんと剥き出し、その瞬間、あたまのなかは真っ白になって、冥い体液は革袋を突き破って、脳天から吹き出していく……全身が痺れて、とくに両肩、両腕、両手の指先までがぬか漬けのようにおもたく麻痺して、これ以上、キーボードを打ちつづけられそうになかった。
 
  ヒバリ? 
 
   ヒバリ、  くん?

    k   る り…… さ ん

   大丈夫? 突然 レス こなくなったから

   は、ぃ  へぃk で す  とつぜん 目のmえ  松代 になって  ゅb さきも 痺れchyて  でも  た ぶん もぉ ダイジョu  ぶ

  うふふ 脳イキしちゃったのかな ヒ バ リ くん
  ぁ まつしろ じ ゃなくて  真t白  で す
  くふふ かわいい 脳イキ しちゃった、ひ ば  り
  No  ィき  ?
  そう いま、ヒバリに起きたこと  ヒバリが体験したこと  女の子みたいに 言葉だけで あたまのなかで、イッちゃう、こと
  「k oるり 三」
  でも、まだ ここ、 こんなになったままだね
  コルリの 視線が しy ちyゆうしてる ところ
  下着も脱がせてあげる ね、ヒバリ
  「ぅ nn」
  ほら、コルリも マスク、はずすから
  「kルり  三」
  こんなに、クシャクシャ。コルリの黒いレースのマスク。ビジューもひとつ、とれて、どこかにいっちゃってたり。ヒバリの ci、ci、cu bi 、に さっき たっぷり蹂躙されちゃったものね。コルリのく ち  び   る    も ……
 おなかの すぐmえ でかすかなものoto とけはいがし て  
  でも……ヒバリには見えない、コルリのくちびる……
  「   ぅ   ん   ん   」
 uffu、だって ヒバリ、ずっと、目隠しされてるもの、ね、とつぜん コルリのあつい吐息が ろつこつ のふちにそってコウセキをしたtらせていき ぶるっ、ぶるっ と ふともm腿はなんどもケイ攣して、ふるえはと ま らなかった。コルリのあのココア色のくちびる が、いま、おなかの肌の間ぢかに、ィきづいていて しめった、あつい コルリの  と息が肌を 内臓を、肉を、革袋をしめらせてしみこみ、毛羽だ たせたうらがわで、冥い体液が また、とぷん とぷんとゆ、ら めきはじめた。ほら、こうして、ね、ヒバリの下着のはし……、ぴったりと、コルリのあtいと息がうごきをとめた かとおもうと、あつい吐息よりもや わ らかいく ち びるが、やさしく肌と下着のはしに触れるのをかんじ た……歯を立ててつかまえて、ゆっくり……剥いでくの、ヒバリの、したぎ。
  「ぁ ぁ っ コ ル リ   さん だ め   」
  思わず こえをあげてしまい、ぼくの腰はびくん びくんとシーソーのように撥ねて、毛 羽だった革袋のうちがわを搔k とってしまうほど冥い体液もはげしく ゆらめき はねあがった。
  kふふ、からだの芯からこんなに感じて、もだえて、こんなに、せつないこえあげて……さっきは脳イキまで……。うふ、ヒバリって、ほんとに女の子みたいね
  「k ルリ さぁん、ん」
  uff、これからは、ヒバリくん、じゃなくて、ヒバリちゃん、って、呼んであげようか?
  「ぁぁ やめて、コルリ さ ん  」
 そう、ヒバリは女の子なのよ。いい?
  「ぁ ぁ ぁ ん、だめ  こるり  さん」
  ci、ci、cu、bi、も、こんなに 勃っちゃって……こうして、ほら、熱い息、ふぅぅぅぅぅぅぅ、って……
  「あっ んっ uuっ」
 レースのマスクもないから、コルリの息吹がヒバリの ci、ci、cu、bi、に直接あたって、ほら、どんどん、…… ci、cicu、b、i が、……ふるいk 感を脱皮して あたらしくうまれかわっていくのが わかった。こんなに感じて、もだえて……ほんとに、女の子みたい、ひばりって……かわいいの、すごく……キス、してあげる。ね、あの画像とおなじところに。ほら、ココア色のルージュのキスマークにかさねて……鏡のキスマークに重ねて。とかしてあげる……ほら……コルリの く ち  び  る  が、ゆっくり 降りてきて、あつい吐息が、まず ci、cicu、b、i にふりかかってくるとニュウリン までもつつみこんで、……たっぷりと……、肌のうらがわまでtけてしまいそうになるほどふりそそぎ、吐息よりももっとやわらかい、いいにおいのする、コルリといういのちの焔をひめてふくらんでいる皮膜の先端が、ちょっと、ためらうように、味見するように……、接すると、じっとりと、コルリのよくぼうぜんたいが降りてきて、すこしずつ密着していくにつれて、くちびるのまわりから、肌と、肉と、内臓をおおっていた冷え切った鏡の無機質な感触がとけていき、ぼくは解き放たれていった。

  心配しなくてもいいのよ、ひばり。これは、ヒバリとコルリ、ふたりだけのヒ、ミ、ツ。
  だから、もっと見せて……ひばりの、ほんとうの姿。ほんとうの、ヒバリ

 七つのくちびる。七枚のくちびるの画像。
 コルリのくちびる。
 ココア色のルージュも、黒いレースのマスクも、なにもつけてないコルリのくちびる。
 「生の」くちびる。
 いのちの焔のジェルを半透明の皮膜がつつみこんでいる七つのくちびる。
 あのチャットのあと、コルリがメールに添付してきた、七つの形をしたくちびるの画像。
 それぞれのくちびるにはタイトルがつけてあった。
 「ひ」。「ば」。「り」。「くん」。「み」。「せ」。「て」。
 あの時、ぼくのひだりの ci、ci、cu、bi、に降りてきて、コルリのくちびるはこのなかのどの形をしていたのだろう、どの形にちかかったのだろう。……肋骨の縁にそって革袋の内側を毛羽だたせながら肌と、肉と、内臓をたどっていったとき……、おへそのあたりであつくしめったかすかな吐息をつきながらやすらいでいたとき。ぼくを、解き放ったとき……
 
  キュウゥゥゥゥゥルッ キューーーーーーーールッ チュッ チッチッチッチッチッ
 
  キューーールッ キュウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥルッ チュッ チッチッチッチッチチチチチ
 
  チュッ チッ チチチチチチチチ キュッキュッ キィーーーツ チュクッチュクッチュクッ
 
  チュッ チッ チチチチチチチチ キッキュッキュッ キィィィィッ チュッチュクッチュッチュック
 
 さえずりあってたしかめてから、ウサギの部屋を訪れて、ふたりはいっしょにランチやディナーをした。床にならんで座って、もう、肩と肩がふれあっていないともの足りなくて落ちつかなくなっていたけど、向いあって座ることもなく、ただ食べ物をはこぶいがいにマスクをはずすこともしなかった。
 いつも、ウサギのくちびるはつぎからつぎにはこばれてくる食べ物を一心に、とぎれなく受けいれつづけた。頬張った食べ物のふくらみがなくなったかと思うとすぐにまたどちらかの頬っぺたがふくらむ。くちびるはきゅっと結ばれたまま、もぐもぐ、もぐもぐ、ごくん……。ときどき、思いついたみたいに、ストローの先端をついばむ。尖ったうわくちびるが下くちびるを軒のようにちょっとおおいこむようにしてストローの先端はおさまり、間髪をおかず、飲み物が吸いあがってくる。ぱっ、と尖ったうわくちびるがストローの先端を離すと、また、食べ物を口にはこびはじめる。ウサギのしっとり艶のあるくちびるは、リップクリームかなにか、つけているのだろうか。ウサギの癖なのか、もぐもぐしている食べ物が左の頬へいったり右の頬へきたりするたびに、桜色のくちびるの端がちょっとつったり、のびたりする。それは、まるで、食べ物をもぐもぐしながら微笑みの練習をしているようにもみえて、微笑ましかった。そして、ついにその夜、ウサギの食べながらの微笑みの練習を横目で盗み見して見とれていたぼくは、おもわず口のなかの食べ物をぽろり、としてしまった。
 「あ」
 それを目ざとく見のがさなかったウサギも、おもわず人の声をだしてしまい、ぽろり。
 ぼくは我慢しきれず、とうとう吹き出してしまった。
 「ん、ん、ん、んっ」
 ウサギもふきだしそうなのを必死でこらえながらぼくにマスクをするように促し、自分も素早くマスクでくちびるをおおった。
 「だめ、マスク、マスク」
 うすいピンク色のポリウレタンのマスクが、ウサギの言葉ごとに、ウサギのくちびるのうえで、ふくらんだり凹んだりした。
 ウサギの籠もった声に頷きながら、ぼくも顔の半分をマスクでおおった。 
 「あー、ヤバかった」
 ぼくは実際、またぽろりとしてしまいそうなのをマスクをするという動作でなんとか先送りしてふせいだだけのことで、マスクが役に立ったとすれば、それくらいにすぎなかった。
 「なに、なに?」と澄ましてウサギ。
 「え、それは、こっちのセリフ」
 不思議なことに、マスクをする前はほんとに吹き出しそうだったウサギなのに、マスクに顔の半分をおおわれたあとは、まったくそんな自分のことは忘れてしまったように見えた。
 「え、わたしは、ふつうに、ごはん食べてただけ」
 「ぼくはそれを見てただけ」
 「へんなの」
 さすがに食べ物を頬張りながら微笑みの練習をしているみたいだからとは言えなくて、でも、そのウサギの顔が頭にうかんで、またちょっと吹き出してしまった。
 「えー、どうしたの?」
 どうしてだろう、今のウサギとのやりとりや状況が、おなかが捻れるほど可笑しかった。しばらく、マスクのせいでとうとう息苦しくなるまで笑ってから、やっと、落ち着くことができた。
 「あー、ごめん、ごめん。やっとおさまった……みたい」
 「なにかそんなに可笑しいことがあったんなら、わたしにもおしえてよぉ」
 「可笑しいっていうか……。そう、最初は可笑しかったけど、そのあとは、ちょっと嬉しかったのかな」
 「可笑しくて、うれしかった……?」
 「そう、たぶん……」
 ぼくは笑いの余韻で途切れていた呼吸を整えてから言った。
 「はじめて、だから。声きいたの、たぶん」
 「いつも、話してるのに?」
 「ううん、マスク無しで。生の声……」
 しばらく、黙って、ウサギはぼくのこころの奥をのぞきこむように見つめてきた。
 「キス、したいって……」
 ウサギは目を伏せて言った。
 「キスしたいって、何度も思った。でも、……」
 「ぼくも……」
 ウサギを見つめてぼくも言った。
 「でも、もし、わたしが感染してて、うつしちゃったら、って思うと。それは、いや……」
 「うん」
 「でも、もし、キスして、わたしがうつされちゃったとしても……それはそれでかまわない、って」
 「うん」
 頷きながらぼくもこたえた。
 「うつされるのはいいけど、うつすのはいや。そう思った。でも、これだとどっちかがうつす方になる……」
 ウサギはうすいピンク色のポリウレタンのマスクの下で、籠もった声で言った。
 
 「あ」と「ん」。はじめて聞いたウサギの生の声。ウサギの肺にとりこまれて押しだされた大気にウサギののどがある震えをあたえ、そしてあのくちびるが仕上げをほどこして、この世界にうまれた音。マスクの邪魔もなく、すなおに生まれおちた音。つやがあり、ちょくせつ、この世界とふれあっていた音。ちょくせつ、ぼくの鼓膜に触れた音。おかしなことに、ぼくは自分の声さえ忘れかけていた。ひとりで部屋に籠もっていれば声を出すことなんてほとんどない。スマホで誰かと話すといったこともここ数ヶ月はなかった。たまに食料調達にでかけて、誰かと言葉を交わすとしても、マスク越し。コルリともメールやチャットはしても、スマホで話したりすることもなかった。言葉を忘れていたわけじゃないけど、言葉の半身を忘れかけていたぼく。そして、そのことをあまり気にもしていなかったぼく。
 「でも、それは、前提がおかしくない?」
 やっぱりマスクになま殺しにされた声でぼくは言った。
 「ふたりとも、感染してないなら。……」
 
 あのとき、私は私のマスクをはずし、ウサギのマスクもはずして、キスをしていたら?
 キスをしていなかったら?
 いまだに、くっきりと、私の脳裏にウサギのくちびるはきざみこまれている。つやつやとした、あわい桜色の、ぷるんとした、くちびる……ベランダで、一瞬、目にした、あのくちびる……
 
 ウサギは、それから何日かして部屋をひきはらって実家に帰っていった。めずらしいことではなかった。大学に進学したもののろくに授業らしい授業もうけられず、部屋に籠もりきりでたのしみもない、そんな学生生活に失望し、そのうえ、バイトもできず、親元の経済状態も悪化して、これ以上ひとり暮らしを維持できなくなり、実家に帰っていく……。
 あの朝、私の部屋のドアノブに、あのパン屋の袋がぶらさげてあり、そのなかにやっぱりウサギのスタンプのカードが入っていた。
  
  実家に帰ることにしました。
  会って挨拶なんかしたら、ヤバイかな~って。
  それに、こっちからは手紙もできるし、って。
  食べてくださいね。
  私も帰りの列車のなかで食べてます。あ、引っ越しのトラックじゃないんですよ、家財道具、一切合財、売っ払らっちゃったから。実家にあるし。ネットオーションに出てたりして。
  食べながら、さえずってください。いつもみたいに。
  聞こえるかな。
  わたしもさえずってますね。
 
 袋には、いつもの、ウサギの好物の調理パンが入っていた。
 
 コルリとは、そのあと、三四年つづいた。不思議な別れで、おたがいにやりたいことをやり尽くしたからか、この相手と満たせる欲望を満たし尽くしたからか、すこしずつ逢うのがまどおになっていき、最後は、半年も経ってから思いだしたように逢ってから、もちろんいつもネット以上の関係にはならなかったけど、気がつくとメールのやりとりもたち消えて、未練もなく、そのままになった。
 
 ところで、最近、ある若い女性と話す機会があった。彼女はわたしのゼミの学生で、卒論のことで、大学としてはリモート推奨なのたが、彼女が強く直接面談を望むので、わたしの研究室で話すことにした。そのとき、干菓子と抹茶をだした。わたしはだれでも研究室を訪れた人には一服してもらうことにしていた。
 彼女はそわそわして、干菓子にも手をつけようとしない。どうしてかと聞くと、彼女はやっと言葉を絞りだすように、申し訳なさそうに言った。
 「妊娠するから、男の人の前で、マスク、絶対はずしたらだめって。ママが……」
 ああ、そういえば、この彼女も淡いピンク色のポリウレタンのマスクをしていた。彼女が苦しそうに言葉を絞りだすたびに、淡いピンク色のポリウレタンのマスクがはふはふ、ふくれたり凹んだりした。
 「ああ、そうか。うん、じゃ、……お茶は、ぼくが飲むとして、……干菓子は、そのまま懐紙につつんでもって帰ればいいから。家で、ひとりで、ゆっくり、食べて……」
 わたしもマスクで籠もった声でおうじると、ポケットに手をつっこんで彼女に気づかれないように、片手で、そっと、バードコールでさえずった。
 
                            おわり
 


#創作大賞2024 #恋愛小説部門

 

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