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最近のバトルイベント雑感・動画視聴分(THE罵倒~口喧嘩祭SPECIAL)

『THE罵倒2023』『MCバトル「MATSURI」』『KOK全国大会』『口喧嘩祭SPECIAL(Zepp Nagoya)』のうち、個人的に記憶に残った試合を中心に。基本は敬称略。広く色々と観るようになったのは昨年下半期からで、2020年以前の知識が歯抜け気味な人間の感想。


【9/19・THE罵倒2023 本戦】

CASTLE RECORDS主催で“罵り合い・ボディタッチあり”を特色としたMCバトルイベント。2018年以降開催がなかったが今年めでたく復活となったそう。優勝者には来年1月の『KING OF KINGS 2023 GRAND CHAMPIONSHIP FINAL(以下、KOK本戦)』の出場権あり。配信でフル視聴。

元々MCバトルに関してかなり偏ったディグり方をしていたため、イベントそのものに関する前知識はほぼ無し。ただ、復活を喜ぶSNS上の声や、チケットが即完したこと等からヘッズ達の期待感と思い入れの強さは何となく伝わってきていたし、出場者の顔触れからしても、独自の色や空気を持ったイベントだったのだろうな……と想像しながら観ていた。

椿 vs 黄猿

ベテラン同士の試合。椿の少年のようなトーンと張りつめた声の響き方は何か無性に惹かれるものがある。黄猿も昔から名を知っていた数少ない人なので、活躍していると嬉しい二人。

阿修羅 vs 掌幻

これまでほとんど知らなかったこともあり、この大会で一番印象に残ったのは掌幻だった。私はバトル中の韻は硬いに越したことはないと思っているところがあるので、しっかり対話しながら硬い韻を打ち返していく芸達者ぶりに何度も唸らされながら観ていた。

どの試合もよかったけど、この阿修羅との試合に関しては「罵倒だからってバチバチしようとすんな下町はバチバチだから罵倒が生まれたんだよ/履き違えんな」というラインが強力だった。大切なのはバックボーンであり、ポーズだけ取るのは無意味だという指摘はとてもHIPHOPらしい。後のアンサーも粋なライムも見事だった。

T-TANGG vs 掌幻

配信のアーカイブで一番よく見返していたのがこの準決勝の試合。
二人とも似たスタイル、かつ緩くバウンスしたビートだったことも手伝って、リリカルな韻を投げては返す玄人同士のセッションのようなバトルになっており、観ていてとてもワクワクした。

(↑掌幻さんの作品を調べたらお腹が空いた。)

結果についての感想を端的に言うと、漢 a.k.a GAMIという人はやはり存在自体が特別で、またその上でこの日しっかりと対話において強かった、という感じ。重厚なキャリアに裏打ちされた説得力が言葉の一つ一つに備わっていて、こりゃ勝てる人いないな……と思わされた。罵倒というよりは、ひたすら目の前の相手を圧倒し通した結果としての優勝という印象だった。

誰がどういう勝負に持ち込んでいたら、あの日のあの空気を覆して漢に勝てたのか、改めて考えても浅慮な自分には思いつかない。決勝で敗退したT-TANGGが少し気の毒に思えたくらいだったけども、今度の『ENTA DA STAGE(12/23・横浜BAY HALLで開催。バトル優勝者にKOK本戦の出場権あり)』に期待したい。前回のKOKでの一戦は、バースを軽く覚えるほど見返した試合だった。

(エンタダ楽しみ!!)

【10/28・MC BATTLE 「MATSURI」】

今回が初開催となる、『KOK』『口喧嘩祭』『THE罵倒』の3大会対抗で行われたチームバトル。漢、梵頭、G.Oら大会主宰者がそれぞれ“監督”として5人のラッパーを選抜しチームを編成、様々な形式でたたかうという内容。配信でフル視聴。

まず、そもそも口喧嘩祭と罵倒はKOK本戦の出場者を輩出している大会なので当然と言えば当然なのだが、3大会全てにおいて一定の功績を残しているラッパーというのが少なからず居る。そのため人選のバランスを取るのがなかなか難しかったようで、伝説建設の3人(MOL53・CIMA・SILENT KILLA JOINT)が意外な分かれ方をしていたりして面白かった。

ただ、そんな中でもチーム罵倒(SIMON JAP、椿、Randy Wati Sati、VENM、BASE)はわりと独自色の濃い顔触れになっていて、固有の空気を守ってきた大会という印象がここでも強く残った。

SILENT KILLA JOINT&K’iLL&CIMA vs Randy Wati Sati&椿&BASE

色々と新しい試みを取り入れた実験的な大会で、やってる方も観てる方も手探りっぽい空気があるものの、期待感が一気に高まった最初の試合。

選抜メンバーらがおのおの完璧に現場の沸かせ方を心得ていて、足並みの揃え方も流石。ほとんどサイファ―のような空気感があり、昨年のUMB兵庫予選のSILENT KILLA JOINT(以下、SKJ)vs CIMAや凱旋3on3の伝説建設 vs COMBATを思い出した。

(つまり、この種のバトルにおける伝説建設の存在感とパフォーマンス力はつくづく凄い。)

MOL53 vs 椿

この試合は観ていて笑顔になってしまった。ここまで手放しに相手のことを称賛するMOL53は、知る限りでは初めて観た。

最初の椿のセルフサンプリングから、二人が互いの作品にそれぞれ客演参加していたことを知った。そうした昔からの付き合いがあること、何より互いのスタンスやキャリアに対し多大なリスペクトを抱いていることが、短いやり取りの中で十二分に伝わってくる試合だった。

MOL53 & 裂固 vs SILENT KILLA JOINT & D.D.S

MOL53×裂固という今年初めのKOK本戦決勝でシノギを削った二人であり、スタイル的にもフロウ的にも意外な組み合わせ。しかしだからこそなのか、思わぬ化学反応とストーリーが生まれていた。

裂固の「1 SHOT 2 KILL」に対する「お前が持ってんのは水鉄砲」等、SKJの語彙と対応力が発揮された箇所もあったが(身内に揶揄されて苦笑いするMOL53にも笑ってしまう)、結果的にそれがハイライトとなる裂固のラストバースを生んだ形に。2on2にはこういう勝ち方があるのか!と驚かされた。


これらの試合の他、サイファーで競ったり監督や司会進行役もステージに上がってきたりと、何でもあり&てんこ盛りでまさに“祭”という感じの内容。濃すぎるくらい濃いイベントだったが、ひとまず粒揃いのMCたちが小箱で所狭しとぶつかり合う迫力と、何が起こるかわからないライブ感。ああこういうものを見せたかったんだな、と初っ端の試合ですぐに悟らせるところが凄かった。
もし次があるなら、ついでに短くてもいいから出場MCのライブも入れたりしてくれないだろうか……とライブが好きな人間としては思う。このコンセプトならそれもアリじゃないかと。

ただ、一方でこの『MATSURI』は一部で話題になった通り、開催前から懸念されていた点が悪い方向の結果に繋がった大会でもあった(今更蒸し返すのもなんなので詳細は割愛。なんなら某試合をYouTubeで公開していること自体、少し理解しがたいと思っている)。
あくまで配信視聴者の所感にすぎないが、とにかく興行として成り立たせようと尽力していたMC陣(主にMOL53、あとD.D.S等)のパフォーマンスだけが救いだったと感じた。

偶発的な面白さや感動さえ生まれるなら何が起こってもいいとは全く思えないので、もしも人の心身に危険が及ぶような事まで“アングラな現場感”として志向するのがこの『MATSURI』なのだとしたら、それは肯定できないというのが正直な感想になる。しかし簡単に言えば人選ミスなので、今後どう展開されていくのかによる。数千人規模の会場でバトルイベントが行われることも平常となった今、こういう新規イベントができたこと自体は面白いし良いことなのだろうと思う。

何にせよ晋平太が休養に入ってくれてよかった。じっくり休んで回復に努めてもらいたい。

【11/19・KING OF KINGS 全国大会】

全国各地、全37箇所(!)で行われた予選の勝者達が、たった一つのKOK本戦出場枠を賭けて争った全国大会。LIVE配信はなかったが、現場の反響が大きかったそうで早々にいくつかの試合を公開してくれた。ありがたい。
公開された試合だけでも、非常に見応えある内容だった。

GIL vs REIDAM

リリカルな対話と安定したラップスキルで魅せてくれる実力者同士の試合。互いの言葉を共鳴させ、半ば連想ゲームのように会話を展開していく中でいかにオーディエンスに響くメッセージを伝えられるか、という高度な勝負になっていた。
熱量が高まりきったように見えた1本目の後、C.O.S.A.「LOVEのメロウなビートでさらに深いエモーションが表現されていく延長戦が特に感動的。再延長になってもおかしくない内容だった。

余談だがこの試合を観ていると、こうしたバトル上の対話において“声の良さ”がいかに重要な要素なのかを実感できる。二人とも落ち着きのある低音で聴き心地が良く、なおかつ聴き取りやすいので、重たい言葉のやり取りでもじっと耳を傾けたくなった。

SILENT KILLA JOINT vs NERVE

大阪予選(『TRIANGLE MC BATTLE』)を制したNERVEと、その予選で司会を務めていたSKJ。関西の現場を盛り上げている二人が改めて全国大会でぶつかるという熱い展開。延長になってもっと長くやり合ってほしかった、と思うほど二人ともアンサーが強力。「シラフでも磨く腕があるから死角なしで三角(TRIANGLE)制してきたぜ」とか素晴らしかった。

(無論NERVEの予選優勝が運やマグレによるものではないという事は『SPOTLIGHT2023』での躍進からも明らかではあるが、あの予選に居たほとんどの人間がベロベロだったというのも多分事実だ)

SILENT KILLA JOINT vs REIDAM

上がるべくして上がってきた、この二人でないといけなかった、と否応なく納得させられる劇的な決勝戦。ビートも何かの巡り合わせかと思うような、この上ない選曲だった。

自身のルーツに深く関わる名曲に乗せて先攻のSKJが「あの頃」からの「今」を語り、そこから日々切磋琢磨しリスペクトし合う二人の関係とマインドが語られていく、ほとんどライブではないかと思うような内容。

スキルはもちろんスタミナ(しかもSKJは序盤から明らかに喉の調子がおかしい)と精神力、そして経験と実績を兼ね備えた二人だからこそ生まれた試合だったのだろうと思う。

しかし、二人とも元より好ましい相手は無闇にdisらないタイプだとは重々わかっていたにしろ、このバトルの後に不眠遊戯ライオンでのライブが控えていたSKJに対してREIDAMが放った「なんならライオンでバースかますか?/入れてくれよ」の返答としてSKJが「俺のライブ、俺のバース、俺の音源は簡単じゃねえ/誰も入れねえその隙間に/REIDAMくんは入れますから」と返したのには笑った。入れるのかよ、そこでdisるわけじゃないのかよと。
それと再々延長1バース目の急に素に戻ったような「あぁまだやりたいな~つって」にも不意打ちで笑わされた。

つまり、ステージ映え重視のポジショントークや誇大表現はこの二人の間に必要ないということだ。自分の信条と感情についてラップすればそれだけで、フロアの人々を惹き付けてしまう。

賞金の30万で曲を作ろう。昔から天神には憧れていた。でもそこから、俺は俺の音楽を見つけた。そう言ってSKJが最後の最後、兵庫・加古川の敬愛する仲間たちの名前を挙げた時は思わず少し泣きそうになった。無論それが極限で漏れ出た本音だとか、なにか貴重な意味をもつ言葉に思えたからではなく、あまりに平常通りだったからである。
仲間たちとの連帯の意志も福岡のシーンに対するリスペクトも、今までの作品や活動の中でいちずに示されてきている、いわば自明のコンセプトだ。

その拮抗ぶりから延長に次ぐ延長となり、審査員の二人は懊悩し続け、当人達も苦笑するしかなくサービス残業などという言葉も出てくるほど長引いたこの試合(DJも大変だったと思う。証言でも決まらん!どうしよう!と思ったりしなかっただろうか)。それでもその長い長い応酬の中、SKJのバースには最初から最後まで日頃の実践をもって表されている姿勢、それだけしか提示されていなかった。

(もっとも、そういう実感が強く残ったのは私がSKJのヘビーリスナーだからだ。不勉強で読み取れていないだけで、REIDAMにも同じだけ一貫した志があるからこそ、ここまで試合が長引いたのだろう)

生きて感じた物事をそのまま音楽にしてしまえるというのは、改めて凄まじいことだ。しかし多分ある種のミュージシャンとは本来的にそういうものなのだ、と感嘆させられた試合だった。

【11/26・口喧嘩祭SPECIAL】

HIKIGANE SOUND主催で年に数回行われる大会のZepp Nagoya編。
決勝以外の全試合で司会によるクジ引きを行い、その場で対戦カードを決めるという特徴的なルールがある。1月の川崎CLUB CITTA'と9月の岐阜Club Gの回は現場で観覧済。今回は配信でフル視聴。

感想を最小限にまとめると句潤が強すぎるの一言になってしまうが、それ以外にも面白い試合があった。

Fuma no KTR vs 裂固

直近の『SPOTLIGHT 2023』で使用されたことで新たなバトルMC泣かせビートとして注目されるようになったCreepy Nutsビリケン」。
この難曲(※BPMは原曲より若干落とされている)が生んだ最初のベストバウトと言って良い試合がこれだった。

淀みなくリズミカルなフロウで毎度のようにベストバウトを生み出してくれるMCとして人気のKTRはもちろん、裂固も昨今は「トラップやドリル、ジャージーとの親和性が意外と高い人」という印象が強かったので(↓)、

ビートが流れた時から期待は大きかった。

結果、二人とも抜群のタイム感でビートを乗りこなしていたという点では互角。その上で、キメ所で確実に韻を落としていく裂固の技術がひときわ冴え渡っていた。
『SPOTLIGHT 2023』でも実感したが、いわゆるライマーとしての今の裂固とMC☆ニガリ a.k.a 赤い稲妻の強さは図抜けている印象がある。同じようなスタイルで互角に張り合える人は日本に何人居るのだろうか…と思ってしまうレベル。

しかしこうも早々と良い試合をされると、原曲BPMで戦って過去に類を見ないほど苦戦させられたMC☆ニガリとミステリオが少し気の毒かもしれない。特にミステリオ。

Authority vs SILENT KILLA JOINT

そもそも『BATTLE SUMMIT』についてほぼ後追いで知った身としては、20代半ばの青年が衆目の下たった一日で規格外の大金を手にしたことから、以降の一挙手一投足すべてにその事実がついて回ってくる……という事態のプレッシャーを考えると、どうにもAuthorityに同情してしまう。

が、この日のバトルではまずSKJが「俺もお前もHIPHOPの一部/(中略)手ぇ組もうじゃねえかって話だ」と連帯を宣言する形で言及し、さらに後のDOTAMAが「1000万取った後めちゃくちゃそれdisられまくってお前“可哀想なキャラ”みたいになってんだよお客さんに気遣わせんじゃねえよ」という身も蓋もなさすぎるdisを投げかけた。そして、それらに対してAuthorityはハッキリと感情を露わにしながら反論してみせた。

この一連の流れがあったおかげで、やっと少し風向きが変わったというか、この停滞した論争に前進の兆しが見えた気がしている。

元よりめざましく輝かしい戦績を残してきた逸材なのだから、めげずに頑張ってほしい…などと思っていたけれど、リリースされた作品はとても伸びやかだったので安心した。勇ましさの中に本人の繊細さが伺えるリリックが良かった。

句潤 vs Ry-lax 他

https://abema.tv/video/episode/408-43_s1_p3

さておき句潤が強すぎた。2月の凱旋(仙台PIT)でも決勝でGILを抑えて優勝していたが、思い返せば年始の口喧嘩祭でも破天でもTHE罵倒でも、その日の強者に対して惜敗はしたものの、常にマイペースな様子で善戦している。相対的にピックアップする機会が減るくらい当たり前にずっと強いというのが一年通して見ていた印象だった。

句潤の試合を観ていると結局のところは作家性アーティストとしてのオリジナリティが重要なのだと再確認させられる。

つまりは、この着かず離れず飛び回るような風情の声質とフロウ、ビートに対するアプローチそれら全ての軽妙さである。
そしてバトル中、句潤が不意に音を伸ばしたり節をつけたりするたび客席が高揚してしまうのは、その魅力が誰にも似ていないからだ。

もっとも、オリジナリティという点ではRy-laxも冴えていた。
客席の沸かせ方や相手の刺し方といったバトルの基礎的実力の部分で差が付いたが、確かなスキルを備えた上での奔放さと愛嬌あるキャラクターは観ていて思わず応援したくなった。

(Ry-laxが楽曲提供しているDリーグのダンスチーム・KADOKAWA DREAMS。Dリーグは面白いよ。)

https://abema.tv/video/episode/408-43_s1_p15

しかし、この日の句潤は口喧嘩の面でも強かった。MAKAと当たった準決勝では、何気に第一声で「先の準決勝第一試合がクソダサかった」とサラッと言っていたことに驚く。初戦の「かっけぇラップをしているのはMOL53と俺だぜ」といい、試合の枠外にある個人的な主張めいた言葉がバースに含まれているのは何となく珍しいような気がする。

この試合では「間、返した」と「MAKAを」と「負かした」の独特な間隔で音を抜いたライムが決め手になっていた。

これもあの飄々とした雰囲気の成せる業だと思うが、結構なdisを発していても嫌味がなく、かと言ってあざとくもなく、あくまで軽妙に聴けてしまうところが心憎い。決勝戦はそうした口喧嘩における強みと音楽性の強み、その両面が発揮されている。対する呂布カルマの方があまり強みを発揮できていなかったこともあり、納得の勝利だった。

まとめ

何となく書き始めていったら、それなりに内容をしっかりさせたくなり、思ったよりも長くなってしまった。現地観覧したTRIANGLE MC BATTLE、SPOTLIGHT2023も別記事でまとめ、さらに出来れば個人的な年間ベストバウトも並べて書きたいと思っていたが、この記事だけでも思った以上に時間がかかってしまったので迷う。未定。

自分はリスナーとしてとにかく踊らされたい、もしくは揺り動かされたい、と思いながらバトルを観ているのだろうなと書いていて実感した。(そして改めて読み返すと鬱陶しいくらい特定のラッパーに対する思い入れの強さが出ている事に我ながら呆れた)

とりあえず言いたいのは、ENTA DA STAGEが楽しみだということです。優勝予想はしない。負ける方に手を挙げることが多いので。

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