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「One Up 4 Rap」と、最近のMCバトル発の楽曲たち

先日放送された『フリースタイル日本統一 関東死闘編』で優勝したチーム神奈川(ICE BAHNのFORKDonatello句潤SHEEF THE 3RD)による楽曲「One Up 4 Rap」良かったですね。

番組そのものに色々な面でイマイチはまれず後追いで少しずつ観ていたので、うっかりボンヤリしたままリリース日を迎えてしまった。けど個人的に思い入れ深い顔触れだったので、MV含めて非常に楽しめる一曲だった。

ビートはBEAT奉行(ICE BAHN)。改めて考えると、案外ICE BAHNにはこういうBPM90前後のオーセンティックなビートのイメージが無かったなと気がつく。この4人の中でいえば断然DLiPの音楽性に寄った曲だ。

その証拠に、フックと一番手を担うSHEEF THE 3RDの頼もしさったらない。BLAHRMYだ!とたまらなくなる嗄れた低音とレイドバック感、ビートにしっかり溶け込んで聴こえる。というか母音の響きがもう「Woowah」じゃないかと思ってしまう。
しかしラッパーによるジョジョネタ、本当によく見かける。わかるよ。ジョジョはみんな好きだもんね。

フリースタイル日本統一』でもなぜか引用されてたしな。

カンペを横目に見て頑張っていた戦田さん
(この下り需要ある?)

次いで、入り方からクールでスマートなDonatello

リリックもフロウも洗練されていて何度もリピートした。『日本統一』を含め、バトルの中でも遺憾なく発揮されてきたユニークな言葉選び、さらっと連打される【ae】の脚韻が小気味よく楽しい。

《保証はなし/そんなのはオーキド博士/Like I said I’m a 同業者泣かせ》《watch me now/報知器が鳴る》の個性的なライムや《悩みの種/花咲かせ/逆手にとれ/手枷足枷》の反転的な表現にはしゃいでしまう。オーキド博士の登場には一瞬だけ首を傾げたけど「保証はどこにもないけど~」ってことですね。面白い。

続いて3番手、一声を放つだけで悟らせる記名性の高いフロウで《俺俺俺俺》言う時点でOne upしている句潤

ここでベースがデカくなるのも好きだった。比較的トーンが高めでめちゃくちゃ前に出てくる句潤の声がいったん浮かないよう圧が足される感覚で。

この日本語が映える表情豊かなラップを聴くともう説明不要な気もしてくるが、野暮を承知で触れたくなるのは《かませ犬?ならお前じゃん?/チャンプでも負けでも良いけど聴きな》の痛快さ。バトルの勝ち負けや闘いぶりだけでは決して語り切れない旨味がここで示されている。

なにより個人的には《そりゃ神がかるわけだ》の端的な一言に句潤節のようなものを感じて痺れた。そうそう、いつの間にか神がかっちゃってたわ(笑)くらいのスタンスが丁度良い。その不敵さ、軽妙さ、そしてそれも含めた像のブレなさが大きな魅力であると思う。

最後に句潤からFORKへバトンが渡る。この流れ、今までにありそうでなかったのが不思議だ。

ごく自然に隣に居る玉露(ICE BAHN)の姿にも気をとられつつ、やはりこのビートというかテンポ感でFORKのフロウが響くことの新鮮さを実感する。ひるがえって結果的にICE BAHNのキャッチーさも。

「前みつ」と「マンマーク」、スポーツに疎いので意味がわからず調べてしまった。構成と語句のひねり方や練られ方がもうブランドというか面目躍如というか、もはや仙人のようだ。それだけでなく「袋とじ」「拭くロートZ」のように思わずピックアップしたくなる同音異義語も入れてヘッズを楽しませてくれる。さらにはここに集まった4 Rapに留まらず《まだまだいる/神奈川支部》、と告げて締めるのがまたベテランとしての粋なところ。

それに付随して言えば、この曲を聴くと途中の“KNGW”“神奈川支部”といったワードや、その他いくつかのライムで「ああ、あの人もこういうの言ってたな」と、他の神奈川ラッパー達の顔が浮かぶ瞬間がある。

そこはかとなく共通の言葉遣いがあるのを感じられる、という所がこの「One Up 4 Rap」はとても良いと思う。フッドミュージック。


ところでMCバトルで対戦、もしくはチームになったことをきっかけにラッパー達がタッグを組んで曲を出す、という流れは昔からよくある。せっかくなので、ここ一年程で出た楽曲のなかでも好きなものを以下に貼っておく。

#KTちゃん - BaNe BaNe feat. DOTAMA

『高校生RAP選手権』の時から何かと縁深い二人と、

#KTちゃん - MERA MERA feat. DJ CHARI

『凱旋MC BATTLE』での対戦から。
セルフプロデュースの鬼こと#KTちゃん。音源では少し声がブレッシーすぎるきらいがあるけど、この2曲はアンニュイでノスタルジックな雰囲気がその声に合っていて良かった。

MCバトル卒業おめでとう。10も20も年上の男達からセクハラ・暴言を受けるリスクがなくなることが大変よろこばしい。それはともかくとして、賛否両論を生むスタンスで色々と言われながら、しかしどんな大箱でも大物相手でもまったく物怖じせず、笑顔でステージに立ち続けたのが立派だった。
今までに観たことがないほど声を荒げ、全力でぶつかっていた最後の試合も良かった。正直ちょっと泣いた。これからもっと躍進してほしい。

Fuma no KTR, TERU, 9for & WAZGOGG - YARU

『戦極MC BATTLE』3on3のチーム・やる事やる教から。ラップ巧者の3人がWAZGOGGの四つ打ちビートで多彩かつ華やかなフロウを聴かせてくれる一曲。

TERU - zero

ついでにTERUの最新曲も好きだった。世代・環境的に456進行に浸かりきって生きてきたので音色だけで反応してしまうところはあるが、それを差し引いても散文的で独白的なリリックが胸にくる曲だった。

SILENT KILLA JOINT & JAVE - NO CONTROL

『FSL』での一戦から。FSLはお世辞にも良いと思える部分の少ない、粗悪なコンテンツだったと消費者としてなんの躊躇いもなく言える。が、出演者がそれぞれ自分なりに矜恃をもって出ているという事が伝わってくる部分があるにはあった。この曲はその一端。

DOTAMA,MAKA & SAM - TRIDENT 

3on3のチーム・栃木9900万パワーズから。MAKAのバースがとにかく好き。

サンクチュアリ feat 伝説建設 - HIKIGANE SOUND

『KING OF KINGS 2022』決勝戦と、3on3のチーム・伝説建設から。BEAT GET SYSTEMにより裂固が獲得したLIBROビートから作られており、イントロで決勝戦のバースがサンプリングされている。
個人的にはライブでもバトルでも音源でも聴くことの多い声が集まった曲なので、グルーヴの違いについて考える良い機会になった。

泰斗 a.k.a. 裂固 × 楓 × 呂布カルマ - 統海 prod. by DJ RYOW & SPACE DUST CLUB

『フリースタイル日本統一』1stシーズンのチーム東海から。
箏の音色のインパクトが大きいビートが良かった。バトルでもどんどん使われてほしい(今年の『高校生RAP選手権』で使用されていたのは観た)。

なお「統海」には、試合の過程でチーム東海に中途加入したKANDAI歩歩CIMAによるリミックスもある。

歩歩のものすごい主張の強さに笑ってしまうし、CIMAのDINARY DELTA FORCE引用には「言った‼」と思ってニヤけた。

楓 - Sentence (Remix) feat. Sirogaras & L.B.R.L

ついでに『高校生ラップ選手権』や『激闘!ラップ甲子園』で注目されてから各所で活躍している3人による楽曲。
それぞれバトルで聴くのとはかなり印象が異なり洗練・差別化されたフロウを聴かせていて目を見張った。本当にHIPHOPが好きな人達なのだな、と当たり前のことを実感する。


他にも色々出てるのだろうが、ひとまず最後に懐かしい曲を置いて締める。

自分にとっての入口。

(何かオススメの曲があったら教えてください。)

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