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2月 ひかりとかげ

こんにちは。不便な本屋スタッフのざきです!

今回のnoteは、店頭で毎月配布しているフリーペーパーの内容をnoteでもお届け!の第2回です。

2月はひかりについて書こうと準備を進めていたらかげを歩くような日々になってしまい、最終的に「ひかりとかげ」がテーマになりました。悲しみに暮れながら書いたので明るくないしぼんやりした文章ですが、いまの私をそのまま受け取ってもらえたらと思います。

⦅フリーペーパー2月号⦆

ひかり1
川沿いを自転車で進んでいると雨が次第に雪に変わり始めた。街灯が雪を照らす。粉のように細かい雪が揺蕩いながら降りてきて、肌に触れた瞬間に消えていく。The xxのAngelsgを口ずさみながら真っ直ぐな道をぐんぐん進む。何年も口ずさんでいる歌詞を今日も美しいと思う。人に話しても上手く伝わらないような幸福感が身体中を満たしていく。あなたにもこんな瞬間があるだろうか。日常の中にたまに現れる美しくて泣きたくなるような瞬間が。あなたの美しいと感じる瞬間を完璧にわかることができなくて、その出来ないと言う事実があなたを光らせる。

ひかり2
ある夜、多摩川沿いを歩いていると、隣を歩く人が陽の登る方向を調べ始めた。その横顔を見つめながら写真を撮られる時のことを思い出す。彼にカメラを向けられる瞬間が好きだ。身体中が少しでも美しくなりたいと神経を張り巡らせて息をすることすら忘れる瞬間が。いつもシャッターのボタンを押している指が斜め後ろの空を指す。無言で陽が登るであろう方向を見つめながら、お互いが美しい朝を想像した瞬間が好きだった。積み重ねてきた関係性のなかにだけ見つけることができるひかり。きっと隣で同じことを考えていると自惚れる私を包んでくれる優しいひかり。
 

かげ
2月の頭に辛いことがあった。絶対に揺らぐはずがないと思っていた過去が形を変えて迫ってきて、見える世界がまるっきり違うものになった。幼い頃から信じていた家族についての事情が一変し、それによってこれまでの発言や思考の全てにズレが生じていたことに気がつき、本当に全部を間違えてここまで来てしまったと絶望した。ヘラヘラする余裕もなく、友達に話しながらぽろぽろと涙をこぼす。永遠に涙が出続けて目がパンパンに腫れ上がった。目は重いし頭も痛くて動く気力が湧かない。夜になんとか仕事に手をつける日が続いて、夜の中に閉じ込められそうで、流石にマズいと思って日中に外出することにした。
昼の街は変わらず営みが続いていて平穏そのもの。高校生くらいまでは自分が悲しいのに世間は変わらないことに腹を立てていたけど、いまは世間の変わらなさこそが自分を生かしてくれると感じる。もっと人が多い場所に行きたいと思って電車に乗る。聴きたい曲すら選べなくてだいぶ前に作ったプレイリストを流しているとHYUKOHの曲が流れて来て、このアルバムの写真はティルマンスの作品だったなと思う。ああ、表参道で開催されているティルマンスの個展に行こうと張り切っていたことすら忘れていた。電車がちょうど代々木上原に着いたので乗り換えて表参道に向かう。なんだか決まっていたみたいな流れでみた写真は素晴らしくて、映像も良くて、いまの自分には良かった以外の言葉を考える余裕がないけど、前向きな気持ちを自然に感じられたことが嬉しかった。展示は6月までやっているのでしばらくの間はいつでもここに来れると思うと気持ちがまた明るくなる。さっきより少し軽い足取りでLe Makeupの新しいアルバムを聴きながら渋谷まで歩く。駅の近くになると人がどんどん増えて、人混みの中で自分の影が踏まれたり混ざったりする。私から離れない影と当分離れてくれなそうな悲しみを連れて、何食わぬ顔で歩く人々に紛れながら私も何食わぬ顔で歩き続ける。


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