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吉田恒|FLY_029

ようこそ、幸せなコーヒーが待っている小学校へ。

吉田恒(私立珈琲小学校 店主)2014年3月、21年間勤めた教員を退職し、「おいしい」に関わる仕事がしたいと調理の専門学校に通い技術を習得。自由大学では「クリエイティブ都市学-Portland」を受講後、「CREATIVE CAMP in ポートランド」に参加。2015年4月、池尻大橋に「私立珈琲小学校」を開店した。クリエイティブキャンプでの経験が、いいお店をつくりあげるのに大きく影響したという吉田さん。ポートランドで学んだことや、お店を開店するまでのお話を聞かせていただきました!

Q.小学校の教員をされていたんですよね。どうして教員を辞めてお店をはじめようと思ったんですか?

子どもと一緒にいるのは大好きだったし、子どもたちの成長に毎日感動していたし、教員の仕事自体は大好きでした。でも、教員同士の人間関係のトラブルや、授業を良くしようと新しいアイデアを取り入れようとしても、他の学校がやっていないからという理由で反対される。そういった大人同士のしがらみに疑問を感じていました。

もうひとつは、教員は子どもたちが成長できるように手助けはできるけど、子どもが成長できているのはやっぱり子どもたち自身の力なんです。自分がそこに加われることの小ささというのをずっと感じていました。

それとは別に、たとえば僕が誰かに料理を作ったりコーヒーを淹れたりしたら、「おいしいね」という言葉や幸せそうな表情といったものが、ダイレクトに返ってくる。そういう人の喜びを身近に感じられるような仕事に憧れていました。中でもやっぱり「おいしい」って幸せなことだから、「おいしい」で幸せになれるような、幸せな空間を作りたいと思うようになりました。

Q.教員を辞めたあと、まずはどうしたんですか?

調理の専門学校に通い始めました。そこで食にまつわる勉強もできたし、たくさんの素敵な出会いもありました。そんな中、友達に紹介された映画をきっかけに、たまたま自由大学のHPを発見。「クリエイティブ都市学-Portland」の授業ページに「食に興味がある方」「将来お店を開きたい方」が対象とあって、ピンと来て申し込みました。

Q.その後「CREATIVE CAMP in ポートランド」にも参加されたんですね! ポートランドは実際に行ってみていかがでしたか?

とても刺激的でした。ポートランドで学んだ中で一番印象的だったのは、「自分が何かになりたかったり、自分が大好きなものを本当に自分の中に手に入れたいんだったら、それに関わる周りの人たち全員を幸せにしなきゃ本当に欲しいものは手に入らない」ということでした。

それを感じたのは、ポートランドのスタンプタウンコーヒーへ見学に行った時でした。

彼らの考えは、自分のお店で働いてるスタッフだけでなく、豆をつくっている人たちも幸せな環境で豆をつくってもらいたい、というものでした。

豆を栽培する人たちをプランテーション(安価な労働力を使って単一作物を大量に栽培する大規模農園)で搾取したり、買い叩いて買い叩いて「安くていいもの」を提供するのではなく、豆を作っている人もきちんとした対価をもらって、幸せに作られた豆を幸せな人が淹れて…みんなで幸せになるのが一番いいんだという思想がすごくかっこいいなと思いました。

他にも、「Courier Coffee(クーリエコーヒー)」のオーナーをしているジョエルと2人で話をする機会があったのですが、僕が日本でカフェを開きたいという話をしたら「今日は君が知りたいことを何でも教えてあげるよ」と言ってくれて、本当に親切にいろんなことを教えてもらったんです。僕はジョエルが淹れるコーヒーが本当においしかったので、日本でカフェを開いたらジョエルから豆を買いたいという話をしたんですね。そうしたら、「それは構わないけど、そうすると空輸代もかかるし、君が損をしてしまう。いい豆は日本でも売っているから日本で買った方がいいし、その方が適正な価格でおいしいものをお客さんに提供してあげられる。もしもそれに技術が必要だったら、僕はなんでも教えてあげるよ。なんでも教えてあげるから、自分で豆を焼いて、適正な価格でお客さんに出した方がみんなが幸せになるよ」と言ってくれたんです。ジョエルにとっては儲け話でもあるのに、「どうしたらみんなが幸せになれるか」を第一に考える姿勢に感動しました。そのあとジョエルの奥さんから「ジョエルの目標はコーヒーで世界中を幸せにすることだから、吉田さんのことをすごく喜んでますよ」というメッセージをいただいて、自分もコーヒーで人を幸せにしたいという思いが強くなりました。

それから、クリエイティブキャンプで出会った仲間たちも最高でした。年齢や性別はバラバラだけど、みんな「自分の足で立って生きよう」と思っている人たちばかりだったので、通じ合うものが多く、帰国後もみんなで集まったり交流を続けています。

Q.ポートランドから帰国後、お店を出すために動き始めたんですか?

そうですね。まずは専門学校を10月に卒業して、それから物件を探し始めました。でもやっぱりなかなかいい物件が出てこなくて…そんな時、たまたま専門学校時代の友人が中目黒の「マハカラ」というお店に連れて行ってくれました。物件を探しながら、いいお店ってどんなものだろう? ということをずっと考えていたのですが、マハカラさんはそのお手本のようなお店だと感じたんです。その後マハカラさんの忘年会に出席させてもらった時に、マハカラの方にこれからカフェを開きたいんですというお話をしたら、池尻にある2号店を今クローズしていて、11月リニューアルをするからそれまで貸してあげるよ、というお話をいただけたんです!それで2月から本格的に準備を始めて、4月にオープンすることができました。

Q.お店の名前が「珈琲小学校」だったり、お店の細かいところが学校のようになっていてとってもユニークですね! 最初からこういったお店にしようと考えていたんですか?

いいえ、はじめは小学校の先生だったことはあまり出したくなくて、まったく違う形にしようと思っていました。

でもマハカラの方が、いやいやそうじゃないよ、吉田さんの持っている個性を活かした方がいい、とおっしゃってくれたんですね。本物の先生だった人がいるんだから、学校にしたらおもしろい。例えば参観日みたいなものを作って「お母さんとお子さんが一緒に来たらコーヒー1杯サービス!」だったり、いろんなことが考えられるし、いろんなことができる。「吉田さんにしかできないことをやった方がいい」ってアドバイスをいただいて、こういう形になりました。

でもお店の前を通りかかった方も気になるようで足を止めてくれるので、こういう形にして正解だったなと思っています。

Q.これからの目標はなんですか?

教員をしてきた中で一番大事にしていたことは、子どもたちが子どもたち同士と出会って成長したり、大人と出会って考えることがあったり、そんな風に何かと子どもたちを出会わせることでした。何かと出会うことで生徒に成長してほしいという思いで授業をつくってきたので、今はこうしてカフェをしていますが、ここでも人と人が出会ったり、誰かがここで力を得たり、つながりでご縁ができて新しい展開が生まれたり…そんな「授業」をしていきたいなと思っています。

そう考えると、教員は辞めましたが、自分が目指すところは一緒なんだなと感じています。

ここのお店は期間限定なので、またこれからいろんなことがあったり、失敗することもあるかもしれません。でも自分が目指したところに近付こうとすることで、仮にそこに近付けなかったとしても、新しい道や出会いが生まれて、人生が豊かになっていくんだと信じています。

【取材後記】穏やかで、温かい人柄が印象的だった吉田さん。取材を行った日も、クリエイティブキャンプで出会った仲間たちが集まってみんなで開店のお祝いをしていたり、友人がふらっと訪れたり…吉田さんの人柄が人を呼び、吉田さんとお客さんの全員が、お店の温かく幸せそうな雰囲気をつくり出しているのが伝わりました。クリエイティブキャンプのお話もとても素敵で、私も参加したくなってしまいました!

(インタビューした卒業生 #増田早希子

【関連サイト】
私立珈琲小学校Facebookページ
(2015年9月までの期間限定ショップ)

FLY(フライ)は、自由大学の卒業生が登場するインタビューコーナー。自由大学に通い、新しく見つけた自分の姿。卒業して、踏み出した一歩は小さくても確かな手応えをもって、新しい日常の扉を押し広げます。卒業生が体験した、自分らしい転換期の話をお届けします。

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