今村夏子『おばあちゃんの家』、『森の兄妹』

今村夏子『あひる』に、『おばあちゃんの家』、『森の兄妹』も収められている。
『おばあちゃんの家』と『森の兄妹』がリンクしているとわかった時びっくりした。嬉しくなった。

『おばあちゃんの家』
優しいおばあちゃんの描写は、それだけで泣きそうになってしまう。
家族に煙たがられているというほどでもなさそうだが、そもそも、「インキョ」と呼ばれていることから良い場所ではない雰囲気がある。
みのりが隠居の意味を知らないからインキョと表現されていることから、みのりが小さい時からずっと、インキョなのである。
インキョに行くために姉弟のでじゃんけんして負けた方が行くことになっていたり、おばあちゃんが誰かと話しているのを気味悪がられたりしている。
そんななか、おばあちゃんの謎のたくましさが表現される。ここでいうたくましさは、おばあちゃんが強かに生きているとかそういうんじゃなくて、足腰の強さである。
みのりが小学一年生のときに迷子になった時も発揮されているし、認知が進んだであろうころはどんどん元気になっている。風呂の窓からみのりの家に入るなんて考えられない。

○よくわからなかったこと
・みのりが迷子になった時、みのりが家に電話をかけたら、インキョではなくみのりの家の電話でおばあちゃんが応答していること。そのことをみのりから聞いた母は怖い顔をして聞き直していること。
・みのりが持って行ったおはぎについて、おばあちゃんが食べられる量じゃないのに平らげていた。おそらくモリオだけど、モリオの方ではその描写がない。大きな出来事なのに。
・足腰の強さ
・おばあちゃんは、みのりのひいじいちゃんの奥さんだが、みのりの家族とは誰とも血の繋がりはない。他の女の子どもがみのりの家系なのか。
・おばあちゃんのモリオへの優しさは、みのりに対する優しさ以上のものなのはなぜか。みのりも「みのりよりも大好きで大切な存在に違いない」（p.90）と表現している。おばあちゃんはモリオの寂しさに共感してしていたから優しかったのだろうか。
・時系列がよくわからなくなった。おばあちゃんが迷子のみのりを救ったのは、みのりが小1の時。
モリオがおばあちゃんに最後に会いに行ったけど会えなくて、みのりと話したのは、5月になった小2だから、今までおばあちゃんと会ってたのは小1のモリオ。

おばあちゃんが弱っていくどころか強くなっていって、切なくはならない終わりかつ不穏なのが良かった。
おばあちゃんは、モリオと会わなくなったのになぜ昨日より背筋が伸びているのか。
ボケたからとだけじゃなさそうだし他の読者の考察読みたい。
大切な存在を見つけたから？でもこんな文章書く作者がそんな綺麗なまとめ方する？もっと気味悪い感じがする。

『森の兄妹』
健気なモリオに切なくなったが、まさかおばあちゃんと出会うとは。
モリオにとっておばあちゃんの存在は大きいね。

モリオが最後におばあちゃんの家に行った日に、孔雀を見る。
モリオは女の子（みのり）に、おばあちゃんのことを知っているならいつでも遊びに来てと言われている。
帰宅したら、母がモリオの大好きな漫画を全巻買ってくれていて、手汗を気にせず楽しんで、興奮して読んでいる。
母がモリオの方を向いてくれる余裕ができたからなのか、モリオなりに現状に満足できたから、おばあちゃんに会いに行かなくなったのかなあ。

モリオは、「おばあちゃんのために摘んだホトケノザ」を束にして輪ゴムで縛っている。
おばあちゃんちで誕生日会が開かれているのを知り一目散に引き返したあとに、モリコの脱げた靴を取りに戻った時、みのりと話した時、みのりがふとそれを見つけた時には、それが「しおれた雑草」を輪ゴムで縛ったものに変わっていたところ、もう意味のないもの、しおれたものになってしまっているのが切なかったなあ。

○よくわからなかったこと
・モリオが最後におばあちゃんの家に行ったのは、おばあちゃんの誕生日会の日である。『おばあちゃんの家』に書いてあるようにその後もおばあちゃんはより逞しく生きているのに行ってないのはなぜか。
・おばあちゃんも、モリオが来ないのになぜたくましいのか。
・おもちゃ屋の人形を、モリオは神様と呼ぶ。母にもそう報告する。宗教？（『あひる』でも、母が父に宗教の話をぼそっとする場面があったなあ）

○よくわからなかったこと２（孔雀について）
・孔雀（キジ）をみのりも、モリコも、モリオも見ている。
モリオはおばあちゃんとすれ違った日に見ているから、ターニングポイントっぽいけど、みのりとモリコはそうでもない気がする。
みのりの時は桜、モリコのときはイタドリやホトケノザが咲いてるから春ではある。モリオの時は、5月。
・キジは家族愛の象徴らしい。じゃあ、それぞれの家族がそれぞれで良い方に向かうことを表現しているのだろうか。にしてはみのりとモリコのタイミングはそうでもないような気がする。