藤沙 裕

Fujisa Yutaka./ツイッターにてssを投稿。noteでは何でもない話を、書…

藤沙 裕

Fujisa Yutaka./ツイッターにてssを投稿。noteでは何でもない話を、書きたいがまま綴ります。散文。

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最近の記事

散文XX

 同じ形のものを集めて、ただ捻じ込むだけのパズルのように単純だから、複雑にしようとすれば境界ができる。亀裂。歪み。答えのない問いかけをわざとしてみる。「声を出して聞かせて」嘘だよ。  半開きの扉の向こうで展開される世界が、ゆっくりとこちら側を侵食する。どろどろになった御魂がじっとり濡れて、ただ睨んでいる。主旋律の消え去った不協和音がどこからともなく聞こえてくるのは、世界を失ったわたしがここにいるからだ。  夜明け。朝焼け。変わらない街。影。好きなもの、嫌いなもの、なんだって

    • 鯨の夢

       それは、夜の空気をしながら、ゆっくりと朝を漂わせている。救いようもない真夜中。深淵の倫理と道徳がこちらを見ている。野性的なIは意味を成さない。戦略上で踊る指先を絡めて、新しい嘘を吐く。  ふわり、重くなる目蓋に抵抗するように、常夜灯が照らしている、ひとりきり。時間、わたし、それ以外。概念すべてを溶かすような透き通った空気に包まれて、このまま眠ってしまおうか。朝は欲しくない。昼も夜も、明るさも暗さも、もう十分すぎるほど知っているから。潰えたのは、幾千の轟きのような、ただの日々

      • Purple

        「いっそのこと、狂ってしまおうぜ」 揺れる朝焼けの列車 無責任な言葉を数えたら 両手じゃ足りない アナウンスが頭に響く 口にするだけの夢なら 明日の味なんてどうでもいい 今この瞬間が煌めけば 周りが全部 影になる 僕らはみんな馬鹿だった 世界なんて滅んで みんないなくなって 一人笑うワンルーム 酷い結末アンコール 理想のエンディグは まだ見えない 吐息が太陽を溶かすみたいに 揺らぐ存在証明を 重たい煙に乗せて、そっと吹きかける 甘い蜜に身体委ねて 今日だけの痛みなら

        • 何もない日の記録

          2020.05.17.  日常とは何だっただろうか。  いつからが非日常になったのかも、いつこの非日常が終わるのかも分からない。いつか崩れ去るはずの日常、そのいつかが、ただ今だっただけなのか。これはほんとうに非日常なのか。  ステイホームを基盤に置いた生活が3ヶ月目になる。たしか2月末ごろ、いや3月中旬あたりまで、その頃はまだ「なんだかコワいね」くらいで笑えていた気がする。恐れていた年度末、年度始めを超えて、横目で見ていた桜もすべて散って、いつのまにか、春が終わっていた。

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        • 日記もどき
          10本
        • 散文
          21本
        • color's
          3本

        記事

          散文XⅨ

           柔らかな腹痛がする。カーテンの隙間から、緩みきった朝の光がぼんやりと部屋を侵す。AM 8:00。世界は簡単に変わってしまう。  重たい目蓋では生きていけない。軽いこころでは生きていけない。適量の憎悪と愛でやっと呼吸ができたのに、また手離してしまった。  柔らかな腹痛がする。これは、ぼくだけの痛みだ。  嘘みたいな言葉だけを信じたかった。ほんとうなどひとつも欲しくないから、甘くて苦くて美しい嘘に縋って、いつまでもそうして、ただ流されて、揺蕩うだけの細胞に成ってしまえば、すべ

          散文XⅧ

           指先で触れていた愛の感触に、ただ感想を言葉にするだけで幸せだった。あたたかい、とか、冷たい、とか、そんなありきたりなものでよかった。  今日はすこし熱がある。体温計でも計れないほどの、密やかな熱。いま、行く末をしらない秒針が、知らしめるように旅へ出て、他人の顔で帰ってくる。ずっとそれを眺めていたのは、そうしていれば、いつか、きみも他人になると願っているから。  冬も夏も、きみの中にあったから愛していた。一度も知らないきみとの春は、呆気なく終わってしまった。きみの瞳越しの桜

          red

          街外れ 汚れた手を引いて 嗤う月に照らされている 今夜はきっと帰れないから ちいさく さよなら告げた 閉め切ったカーテン 隙間から漏れた言葉は 月灯りよりも不確かだね 揺られたまま酔っていたい このまま、すべて すべてを忘れさせて 都合の良い言い訳だって 構わないから 今はまだ、夢を見ていたい 明日がなくたっていい 夕暮れ 途切れた声が虚しい 嗤う月はどこに行ったの? もう帰る場所なんてないから ごめんね 笑えそうもない 遮った口付けから指先まで 隙間から全部、溢れて

          散文XⅦ

           白々しい月に照らされて、人間どもは今日も愉快に生きている。浮かれた超音波とアルコールの狭間で溺れながら、知らない夜を明かす。剥がれかけたペディキュア、青色に変える暇もないまま、また日付だけが変わっていく。以下、無限ループで省略された日常だって、きちんと日が昇って落ちる。  遊びに出掛けた繁華街。赤い提灯が風に拐われながら耐えている。ぼうっと見つめてそれでおしまい、それだけのいつもを何度繰り返しても、不思議もないくらいに何も思わない。  飛んで行った風船を見送ったのは、そう

          blue

          明け方の空に見惚れた始発列車 遠い記憶は数時間前の誰かで あぁきっと、いつか過去になっていく 今も明日も、また今も 物足りないよと嘆いていたのは 嘘だったかも やっぱり本当だったかも いや、なんでもない なんでもないことだった なんでもないことなんて、 ひとつもなかったよ こんな世界だもの 「いっそのこと、狂ってしまおうぜ」 君は笑って手を叩く 笑って 嗤って 嘲笑って どうか明日は晴れますように 願ってもないことを祈った 窓越しの太陽は、雲の後ろに 夜の空に

          散文XⅥ

           終電までのあと6分をどうやって生きようか。アナウンスが響いて焦燥、この世は緩やかに、緩やかに、朽ちてゆく。刹那。もどかしさがこだまする深夜。開かずの窓を叩き割って、やっと幸せになれた。  勘違いも大事だってきみが言ったんだ。きみが言ったから、わたしは不幸になりました。不幸になって幸せを知りました。幸せは、とても苦いね。  流れるソナタが切なくて、ありきたりなこの衝動でさえも現実と心とを乖離させていく。流し込んだ甘い甘いコーラは、有毒素よりも強かで、儚い。  伸びた爪はなに

          これはただの一人言です

           これはただの一人言なので、政治や世間のことではなく、私自身の気持ちです。ところどころ、文章のおかしいところがあるかもしれません。それも一人言だからです。ご容赦を。  1月末、新型コロナウイルスの感染者が増え出し、2月末にはイベント等の中止、マスクや消毒液などの品薄、3月から学校は休校、卒業式も子供だけ、もしくは中止……といった流れで、私たちはずっと「自粛」を言い渡されている。  トイレットペーパーやティッシュがなくなる、というデマのニュースから、本当にそれらが店頭か

          これはただの一人言です

          散文ⅩⅤ

           月の浮く夜。陰ったわたしの暗い道を照らすのは煩いネオンライト。赤、青、白々しいのは何色だったか。人生の隅っこで見つめた電飾に、きらきらと、いつまでも輝いているような錯覚に囚われて、靴音も潜ませて闊歩する繁華街。楽しげな他人の声、顔色、不気味に照らされた誰かの横顔。もう覚えていないから、なかったことにしようね。約束したから守ってあげるよ。  ほんとうに欲しいものは、ほんとうの平等か。それとも、より良いの建前に隠れた、より怠惰な本音か。決まらずに揺らいでいるのも飽きてしまったか

          散文ⅩⅤ

          散文ⅩⅣ

           低く這う声に慣れきって、それだけで生きた心地になっていた。繋がれた指は緩やかに、優しさに、解けていった。呆れた、飽きた、そんな言葉で片付けたすべてが床を撫ぜてゆく。半端にはまった指輪の数を数えても、幸せになんて慣れっこないし、成れもしない。そう言って、わたしは笑っていた。泣いていたのは君だった。見透かしたのは、ふたり、救われない者同士の共鳴に寄るらしい。  染めた頬の色なんて忘れてしまったの、もう一度は一度きりの儚い夢だから。ありがとう、覚めないまま堕ちたのは、ただの我儘だ

          散文ⅩⅣ

          散文XⅢ

           暗いカーテンを閉めた部屋のAM6:00は、穢されない悪魔のような繭のなか。きこえてくる音はすべてノイズで、きっと、どんな歌もわたしを癒せない。絆創膏を巻いた指先から、どくどくと溢れてくる赤が白いガーゼを染め上げていく。いっそのこと、わるい事も良い事も、流れ出てはくれないだろうか。すべて失って、ゲームのリセットと同じ優しさで、またすべてが欲しい。  許されないなら、それでもいいから。もう、すべて終わった後だから。  弱い電波に酔い痴れた、戻らない日々の延長線上。同じ道を辿っ

          散文Ⅻ

           知らないひとの声がする。午前零時を回っても、星は眠らずに光っていた。沈みきった枕に埋めた頭では、夢の名残がちらちらと燃えている。そのうち常夜灯に溶けていって、朝陽が完全に消し去ってゆく。毎日は、そうやって紡がれている。  指に馴染んだボタンの感触、いつのまにか忘れていたのは、おとなに成ったからじゃない、こどもを剥奪されただけ。ぬいぐるみの見つめる先に、かつては未来があった。あなたも、わたしも。  もういちど、夢を見るにはどうしたらいいかな。  もういちど、あの子を笑わせるに

          散文Ⅺ

           はらはらと降るのは、雪ではなくて命の欠片。手のひらに乗せる度、この温度で溶けてゆく。  刹那は、一生を詰め合わせた代物。叶えない夢の終わりが、瞬きをするように別れを促している。わたしたちの星。ぽっかりと空いた黄色の衛星に、何度救われ、何度貶められてきたのだろう。見ているはずの星々は知らんぷりして、今日も輝いている。  惨めだったね。どうにも、幸せから遠ざかってゆく仕様らしい。不幸なら、もう、どうしようもないくらい溜め込んでいる。両手に収まりきらないほどに、いろんな不幸を知っ