散文XⅥ
終電までのあと6分をどうやって生きようか。アナウンスが響いて焦燥、この世は緩やかに、緩やかに、朽ちてゆく。刹那。もどかしさがこだまする深夜。開かずの窓を叩き割って、やっと幸せになれた。
勘違いも大事だってきみが言ったんだ。きみが言ったから、わたしは不幸になりました。不幸になって幸せを知りました。幸せは、とても苦いね。
流れるソナタが切なくて、ありきたりなこの衝動でさえも現実と心とを乖離させていく。流し込んだ甘い甘いコーラは、有毒素よりも強かで、儚い。
伸びた爪はなにも手に入れられなかった。1ミリ先に触れたとして、これはわたしではないから。諦めももうついた、そんな言い訳をして見ないふり。知らないふり。嫌いなふり。ピンク色の可愛い夢に逃避する、淡いグレーの濃淡だけがここにある。滲んだのは、染みたのは、これから、おとなになっていく誰かの涙。
脈をうんと遅くして、奏でた憎しみが愛おしいよ。そう言えるくらい、世界は穏やかになった。そんな嘘を、どこで、覚えてきたんだろう。
好きや嫌いで表せないから、瞳が雄弁になる。睫毛が影を作って彩る。一緒に遊んでいたあの子は、そうやってどこかへ行ってしまった。
行方知らずのあの子。
探そうとすら、思えなかった。
あの子は確かに、探さないでと、心で言ったから。
花咲く季節と真逆に走って、もう二度と、あの景色に出逢わないようにお願いした。神様、なんていないけれど、いるならば、どうか誰も彼も、嫌いなあの人のことも救ってください。
なんて、口が裂けても言えやしないや。
このまま、永遠に咲き続ける桜になって、風に攫われた記憶の欠片に、触れて、花を落とす。
きみの言葉は、わたしを花にした。
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