バスのくず入れ

いつものようにバスに揺られていると
降車口のところに箱があった。

いつもあったか、なかったか
さてはて疑問に思うその箱には
"くず入れ"と丸みのあるフォントで
緑色で書かれている。

自分はそれを見つけてなにやら心がほぐれた気分になった。
なぜだろう、自分でもわからない、

大小のクローバーも共に描かれたその箱は
確実に車内のゴミを集めるものなのだが。

嫌悪感が湧かないどころか、
慈しみの気持ちしかわかない。
そんな不思議な気持ちに包まれて困惑した。

そんなわけがないけど、そうとしか思えない。

頭の中で"葛"入れだと認識している。
緑の文字、丸みのあるフォント、そしてクローバー達。

七草の友人ナデシコやキキョウも肩組んで
ゴミ箱の印象なんか湧きもしない。

もし名前の通り、
あそこに土が入っていて、
葛が育っていったなら……

降車の扉は蔦で開かなくなったりするのだろうか

大きな運転席のフロントガラスも葉っぱに覆われて前が見えなくなったりするかもしれない

古びた煉瓦の洋館の外壁一面に育った蔦のように、バスを丸々呑み込んだなら

公道を走るのは難しいかもしれない

空き地を買って、そこに止めて、内装変えて、
朽ちたバスのカフェを開こうか

秋に咲く葛の花を見ながらコーヒー飲んで

七草繋がりで春には七草粥を提供したりして。


どんどんゆらゆら妄想は進む

そんなカフェのオーナーにまで
心を飛ばしていたら、
約40分の乗車も終わり
目的地。

バスにいたのかカフェにいたのか。

ただの移動以上の満足感で降りた。

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