宮崎〜日本のひなた〜 vol.3
みなさん、おはようございます。こんにちは。こんばんは。食トレンド研究センター研究員の、片岡です。
前回の“食文化探訪”では宮崎の地場産業『養鶏』はどんな要因で宮崎に根付いていったのかを深堀りしていきました。弊社とかなり関わりが深い「養鶏」ですが、もう一つ関わりが深いものがあります。それが『焼酎』です。「焼酎」もまた、宮崎の大きな地場産業ですが、焼酎がどのように宮崎で発展してきたのか、どんな特徴があるのかなどをまとめていけたらと思います。
いまさら聞けない焼酎のこと
焼酎は、蒸留酒の一つです。焼酎・ウイスキー・ブランデーなどが蒸留酒、清酒・ビール・ワインなどが醸造酒にあたります。さらに焼酎は、単式蒸留焼酎(乙類)と連続式蒸留焼酎(甲類)に分けられます。単式蒸留焼酎のうち、一定の条件を満たしたものを、本格焼酎と呼びます。
店舗で扱っている焼酎で比較すると、「黒霧島」「山ねこ」などが本格焼酎、「鏡月」や「キンミヤ」が甲類焼酎に分類されます。
本格焼酎の特徴は、その原料や麹の素材がそのまま味に反映され、独特の『芋くささ』や『フルーティーさ』を持つことです。なので、本格焼酎をベースに、ロック・水割り・ソーダ割・お湯割りなど、焼酎そのものの味わいを楽しむような飲み方をされるのが一般的です。
反対に、甲類焼酎の特徴は、連続式蒸留器によって高純度のアルコールが抽出され無色透明でピュアなクセのない味わいになることです。もちろん甲類焼酎もロック・水割り・ソーダ割・お湯割りなどの飲み方をされることもありますが、そのクセのない味わいを活かし、多くはフルーツシロップや果実、香辛料などと合わせたサワーベースとして使われることが一般的です。
焼酎の里・南九州
南九州(宮崎・鹿児島)に焼酎蔵が多いのは、国税庁の統計情報を見ても明らかです。全国で854ある焼酎蔵のうち宮崎と鹿児島の焼酎蔵が166で約20%、九州に範囲を広げると381で実に約45%の焼酎蔵が九州に存在することになります。ではなぜ、九州、こと南九州に焼酎蔵が多くなったのでしょうか。
気候に合わせた醸しやすいお酒
前々回の気候パートでもお伝えした通り、宮崎は高温多湿の気候条件です。その気候条件は、日本元来からある日本酒の製造条件とは一致しませんでした。
日本酒も焼酎も製造の過程で「麹」を元に原料を発酵させ、もろみを作っていきます。日本酒に用いられる麹の大半は「黄麹」で、黄麹は温度が高いと発酵がうまく進みません。そこで九州地方では黄麹を発酵できない暖かい地方でも発酵できる「黒麹」が使われるようになりました。黄麹に比べ黒麹はクエン酸を発生することからもろみの腐敗を防ぐことができ、黄麹の発酵に苦戦しお酒を作れなかった九州地方ですが、黒麹の研究によって安定してお酒を作ることができるようになりました。現在では温度管理をしっかりすることで、「黄麹」の焼酎も多く出回るようになりました。
芋焼酎の原材料・さつまいも
焼酎の原材料として多く知られているのは芋・麦・米・そばなどがありますが、国税局の主原料別の出数量を見ると1位が芋、2位が麦、3位が米となっています。さつまいもと言っても黄金千貫、シロユタカ、ジョイホワイト、紅さつま、金時芋、紫芋、安納芋、大地の夢などなど、焼酎造りに使われるサツマイモの品種は40種類以上もあると言われています。
言うまでもなく、九州はサツマイモの生産量(収穫量)が多く、トップの鹿児島は全国の35%ものシェアを持ち、10位までに宮崎(4位)、熊本(6位)、大分(8位)と3県がランクインし、3県合わせると全国の約50%のシェアになります。
原材料が手に入りやすかったことも、焼酎造りが盛んになった一つの理由だと考えられています。
宮崎焼酎の特徴
焼酎と言っても、使う素材や醸し方でさまざまな違いが出てきます。その中でも宮崎で作られる宮崎焼酎の特徴は、『度数が20度である』『使う素材が多種多様』というところにあるのではないでしょうか。
20度焼酎の登場
現在、全国で流通している焼酎はほとんどが25度のものです。しかし宮崎で好んで飲まれる焼酎は「20度」のものが多くなっています。
20度焼酎の歴史は戦後まで遡ります。1940年に制定された旧酒税法は、25度までの酒類には一律同額の酒税がかかり、そこから一度上がるごとに、税率も上がるという仕組みでした。その影響で、酒造会社が造る焼酎は25度が主流になっています。
「お酒は飲みたい」でも「簡単に手に入らない」「高くて買えない」。そこにつけ込んだのが『ヤミ焼酎』でした。社会の隠れたニーズに刺さった「ヤミ焼酎」は一気に広まりました。沖縄や奄美大島から疎開してきた人たちが、宮崎を拠点に「ヤミ焼酎」を作り、それに伴って宮崎に「ヤミ焼酎」の拠点が多くなっていきました。
ですが「ヤミ焼酎」が社会問題になるのに、そう時間はかかりませんでした。粗悪品、内容が不明瞭なものも少なくありませんでしたが、それよりも危惧されたのは中毒性があるものや命を脅かす危険性があるものも出回っていたことでした。この事態を重く見た国は、1953年(昭和28年)に特別措置法を制定し、正規に焼酎をつくる蔵元に、低い税率で20度の焼酎をつくる許可を出したのです。これによってヤミ焼酎とも対抗できる安くて品質のいい焼酎がつくられるようになり、ヤミ焼酎は衰退していきます。
“生(き)”で飲む宮崎焼酎
「黒キリは“き”で飲むはやとよ」、「“き”が一番芋の甘みを感じるがね」。今も宮崎県内でよく聞かれる“き”とは、焼酎をストレートで飲むことです。水で割らず、氷も入れない。焼酎の味をしっかり楽しみたい人たちにとっては、お馴染みの飲み方です。20度焼酎は度数が低いため、水で薄めなくても飲みやすい上に、芋焼酎の風味をしっかりと味わえるのがこの飲み方の特性です。20度焼酎はこの“き”という飲み方とともに、宮崎でどんどん定着していったものと考えられています。
バラエティに富む宮崎焼酎の素材
令和3年度全国の焼酎生産量は、甲類焼酎が298,654kl(キロリットル)、本格焼酎は373,973klとなり、合わせて672,627klの焼酎が作られています。本格焼酎(単式蒸留焼酎)に限ると、宮崎県は、2014年度に鹿児島を抜いて以来9年間、製成数量で全国1位を走り続けています。
宮崎県内では、西都・高鍋地区と日向・延岡地区を境に焼酎の原材料が変化していきます。西都・高鍋地区以南はほとんどが芋焼酎、日向・延岡地区以北で穀類焼酎(ソバ、麦、トウモロコシなど)が製造されています。例えば県北に位置する高千穂酒造で作られる焼酎の原材料は麦60%、芋15%、そのほかトウモロコシ、米、ソバ、リキュールとなっているのに対し、宮崎市に位置する渡邊酒造場で作られる焼酎の原材料は芋80%、その他米、麦となっています。
九州で考えると、鹿児島は全域が芋を原材料の主流としており、宮崎県南部もその流れを汲みます。熊本県人吉市を主とする球磨焼酎はコメ、宮崎県北部は前述の通りそば・雑穀、そして大分に至ると麦が主流となってきます。気候条件や文化の流入経路によって、原材料に地域差があり、宮崎がその境目に当たっていることが、宮崎県内で製造される焼酎の原材料が多種多様になった要因なのかもしれません。
まとめ
今回は宮崎の地場産業「焼酎」について、焼酎が宮崎(鹿児島)でどのように発展してきたのか、どんな特徴があるのかなどをまとめました。まずは宮崎が焼酎王国になった理由として2つ、取り上げました。
そして宮崎焼酎の特徴を2つ、取り上げました。
宮崎といえば「焼酎」みたいなところがありますが、沖縄を経て鹿児島や宮崎に伝わってきたこの伝統の焼酎は、酒造や組合がさらに流通量を拡大しようとさまざまな取り組みをされています。少しでもその一端を担えればいいなぁと思います。次回は、宮崎の郷土料理に踏み込んでみたいと思います。お楽しみに!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?