見出し画像

中露モスクワ会談の意味

2023/03/23 木曜日 23:00 田中宇

中国の習近平主席のロシア訪問が終わった(3月20-22日)。
マスコミは中露敵視・中露結束軽視の歪曲報道ばかりだ。
対照的にオルトメディアは、この訪露による中露の結束強化が、
中国とロシア、それから非米側諸国にとって重要であると指摘している。
ウクライナ戦争だけでなく、米覇権の崩壊と多極化という大きな流れの全体にとって大事な転換点になりそうだ。
しかし、何がどう重要なのだろうか。
オルトメディアを読んでも、今のところまだ明確な分析に出会っていない。
自分で考えてみる。

私が最も注目したのは、習近平が訪露に際して発表した12項目の姿勢表明書(ポジションペーパー)だ。これは、ウクライナ戦争と今後の世界がどうあるべきかについての中国の考え方を書いた条文だ。
そしてその1番は、全ての国家の主権や領土を尊重すべきで、
国連憲章など国際法も遵守されるべき。
2番は、(NATOに代表される)冷戦思考を捨てよ。
自国の安全を守るために他国を犠牲にしたり、軍事ブロックを作るな。
(露敵視のNATOに替わる)バランスのとれた欧州の安保組織の構築を支援する。(NATOと中露が対立するのでなく欧州と中露が)協力してユーラシアの平和と安定を維持すべき・・・、となっている。

3番から12番はウクライナ戦争の和平策についてだが、
他の国際紛争の解決にも使える内容が多い。
中でも10番は(米国側による対露制裁など米国が発する)
国連安保理の決議に基づかない経済制裁をやめるべきだ、と言っている。
これらの内容から感じ取れるのは、
中国がこれから米覇権に代わる多極型世界の主導役になっても、
中国自身が昔から言っていた「国連が目指してきた国家主権重視・協調重視・覇権の機関化」を推進する姿勢を変えないだろうということだ。
中国は「中露が米国に取って代わるだけの覇権交代」をやろうとしていない。
そうではなくて中国は、ロックフェラーなど米資本家らが2度の大戦で
大英帝国から覇権を移譲されて作った国連中心の世界体制を70年ぶりに
蘇生しようとしている。

国連中心の世界体制は、英国が軍産複合体を作って起こした冷戦によって
分裂させられて機能不全になった。
国連を作った米上層部の勢力は「軍産のふりをした隠れ多極主義者」と
なって米中枢に存在し続け、ベトナムやイラクやウクライナの戦争を
わざと過激化して大失敗させて米覇権を浪費し、代わりに中露が台頭し
てBRICSや上海機構など多極型の覇権構造を作って米覇権の自滅後に
代替する流れを誘導した。

そして今、米欧が金融崩壊してドルの基軸性が失われていきそうな中で、
実際に中露主導の非米的・多極型の世界が立ち上がってきている。
今回の習近平の訪露は、その立ち上がりを象徴する出来事だ。
中露の政府は最近、多極化とか多極型世界といった言葉を頻繁に使うようになっている。
習近平の訪露の主眼は、中露結束による世界多極化推進・多極型世界の
構築の加速であろう。

中国は、75年前の国連の創設で最も得をした国だ。
安保理常任理事国(P5)になることが内定した1943年当時の中国は、
何十年も日本など列強に蹂躙された挙げ句、
国共内戦も起きて国家の体をなしていなかった。
P5のメンバーを決めるカイロ会談に招待された中国(中華民国)の蒋介石主席は当時、日本に追い詰められて山奥の四川省に逃げ込んでいたゲリラ勢力の頭目に過ぎなかった。
米国が、そんな中国を世界の5大国の一つに引っ張り上げた。

そのような歴史を見ると、国連主導の多極体制(覇権の機関化)を中国が切望するのは当然だ。
中国だけでなく、米国以外の多くの諸国が、国際紛争を仲裁する時に
「国連憲章の精神に沿って」と言っているが、口だけだったりする。
中国だって口だけだろうと、軍産うっかり傀儡の人々(軽信がひどくて頓珍漢な中露敵視に陥っている左翼リベラルとか)は言いそうだ。
しかし、中国と国連の歴史的な関係を見れば、米国の覇権が崩壊したら
国連主導の多極体制を作りたいと中国が考えて当然なことがわかる。

習近平は昨秋の共産党大会で国内の独裁体制を固めた後、
外交大国になる道を猛然と走り出し、非米側の金資源本位制を強化するために大産油国であるサウジとイランの和解を仲裁し、それが終わるとすぐに
ロシアを訪問してプーチンと多極型の世界運営について話した。
今回の習近平の訪露自体が、中国がロシアと共同で米覇権崩壊後の世界を
作っていこうとしていることを示しており、多極型を志向する中国の姿勢を表している。
多極体制は、中国(など非米諸国)を大きく安定・発展させる。
中国は今、ロックフェラーら国連創設者たちに75年ぶりに「恩返し」している。番頭のキッシンジャーも(表向き別なことを言いつつ実は)ご満悦だ。

中国のウクライナ和平提案に対し、
米国は「中国はロシアのプロパガンダをオウム返しにしているだけであり、信頼できる仲裁者でない」と一蹴している。
米欧は中国の和平案を無視して、追加の兵器弾薬をウクライナに送る戦争扇動策を決めている。
だが対照的にウクライナのゼレンスキーは、中国の和平提案を歓迎し、
習近平とバーチャル対談したいと言い続けている。
ゼレンスキーは米英の傀儡でなかったのか??
よく見ると、米国は中国提案に反対しているが妨害しておらず、ウクライナが中国と話し合うことを黙認している(隠れ多極主義的)。
欧米がウクライナを軍事支援できなくなったら、
ウクライナは中国の和平仲裁に頼るしかなくなる。
ゼレンスキーはそのへんを見越している。

中国はイランとサウジの和解を成功させ、ウクライナの仲裁を提案して、
短期間で外交大国にのし上がった。
12項目のウクライナ和解提案は、他の地域の紛争解決の原則として使える。ロシアも同期してシリア内戦の終結処理
(トルコとアサドの和解仲裁、アラブとアサドの和解支援など)を
進めている。中露は、共同でアフリカの安定化策も手がけ、
これまでアフリカに覇権下に入れて混乱させるだけだった米仏の影響力を
排除している。
中露は、米国側が起こした世界各地の戦争を停戦させ、
米国流の不安定化策を無効にする策を大々的にやり始めている。

非米諸国は、これまで米国に逆らったら孤立化・経済制裁・政権転覆されて潰されだけだったが、今後は中露に頼って米国からの敵対に対抗し続けるようになる。
これまで黙って不本意に対米従属してきた非米側の諸国が、
中露の側について対米自立して非米型の新世界秩序に参加していく傾向に
なる。
最近インドやブラジル、南アフリカといった大国群や、トルコやベトナムといった中規模諸国が米国側から非米側への移転を加速している。
先進諸国、とくに敗戦後に米英から徹底的に洗脳された日独は、
米諜報界による情報歪曲を軽信し続けているので、
今の中露による多極化の動きを認識できず、
米覇権とともに沈没しつつあるが、途上諸国や新興諸国は
もっと非米的な傾向が強いので多極化の流れをつかんでいる。

今回の中露首脳会談でプーチンは、
ロシアとアジア・アフリカ・中南米との貿易の決済通貨として、
ルーブルと相手国通貨のほかに人民元を加えることを習近平に伝えた。
これは、基軸通貨としてのドルの地位が失われた後を見据えて
立ち上がりつつある多極型の複数基軸通貨体制の中で、
中国の人民元が頭一つ抜き出た地位につくことをロシアが
認めたことを示している。

ウクライナの和平を提案した中国と対照的に、
G7など米国側はウクライナの戦争を続ける姿勢をとり続けている。
5月の広島でのG7サミットでは対露制裁とウクライナ戦争支援の強化を
決める予定で、その下準備として、G7議長である日本の岸田首相が米国から加圧(命令?)されて3月21日にウクライナを訪問した。
米国としては、日本を中国のライバルとして外交戦をさせるために、
習近平の訪露と重なる日程で岸田をウクライナに行かせた観がある。

習近平の訪露、岸田のウクライナ訪問と同期して、
米欧の金融や経済の崩壊傾向が続いている。
クレディスイスがUBSに買収されて劇的な危機加速が回避されたが、
最終的な金融崩壊は先送りされただけだ。
米銀行界は連銀(FRB)からの資金注入がないと破綻への流れが再燃する。米金融システムは1-2年以内に全崩壊していきそうだ
金融が破綻したら米覇権も終わり、非米的で多極型の世界が席巻する。
米国と傀儡諸国で構成するG7やNATOは無意味・機能停止する。

米覇権が崩壊していくのだから、日本が米国の傀儡として
中国と対抗したら必ず負ける。

米国の衰退と中国の台頭を予見して
中国に接近した故・安倍晋三の姿勢を踏襲している岸田文雄としては、
米国の傀儡として中国と対決させられるのは不本意だ
(威勢の良い報道と裏腹に)。
できればやりたくないが、米国の命令だから逆らえない。
日本や英独仏豪など先進諸国は、米覇権の崩壊が不可避なのに、
米国と一緒に沈没・無理心中させられる。
途上諸国や新興諸国はうまいこと非米化の流れに乗るのに、
先進諸国は米国に隠然支配されているので逃げられない。
逃げられないから、米国と一緒に中露を敵視し続け、
ウクライナ和平を拒否して戦争し続けるしかない。
ウクライナはしばらく和平にならない。
ウクライナが和平する時は、いずれ金融崩壊が加速し、
米覇権が崩壊して米国側が機能不全に陥った後だ

米国の金融崩壊はたぶん意外と近い
それと連動して、欧州のエリート支配体制が崩壊して
右派ポピュリストの政権になっていき、欧州が対米従属を離脱して
中露と和解する転換点も、意外と早く来るかもしれない。
フランスはゼネストや反政府運動が続いている。
ドイツにもゼネストが波及している。
事態がどんどん展開しているので、追いつくのがやっとで
毎回雑駁にしか書けない。似たような筋書きの話を何度も書くことになる。

英国は、戦車の弾として劣化ウラン弾をウクライナに送ることにした。
米NATOはコソボやイラクでも劣化ウラン弾を使って問題になった。
英政府は「劣化ウラン弾は危険でない」と言っているが、
少し前まで米英マスコミは「ロシア軍が劣化ウラン弾を使って
ウクライナ人を放射能汚染している」とウソを喧伝していた
(ソ連軍は劣化ウラン弾を持っていたが、ロシアは2000年までに
それらを処分し、その後は使っていない)。
米英マスコミ自身が、劣化ウラン弾は戦争犯罪の道具であることを
認めたことになる。
G7サミットは、米国に原爆を落とされたヒロシマで行う。
二度と核物質を戦争に使ってはならないと、日本人は80年近く祈ってきた。その象徴が広島だ。
それなのに、核物質で戦争犯罪の道具である劣化ウラン弾を使う
ウクライナ戦争の支援を、G7サミットが広島で高らかに宣言する。
ウクライナ(今はもうロシアに編入)のロシア系住民が
劣化ウラン弾の標的にされることをマスコミは言わない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?