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10年使ったEvernoteを解約する

フルスタックマーケティング株式会社の代表取締役CEO・清水優志です。
企業のマーケティング活動を支援しています。

僕はEvernoteヘビーユーザーを自負しています。

  • 利用開始日:2013年8月

  • 通算課金額:30,000円以上

  • ノート数:7,200

本当に本当に大好きなプロダクトで、ノートの編集がしづらくなろうが、よくわからない機能が追加されようが、プラン料金が高くなろうが、Notionを使い始めようが、ずっと年間5,200円を払って有料プランを使い続けてきました。

しかし、ついに有料プランを解約する決意をしました。

情報収集フリークだった大学時代

僕がEvernoteを使い始めたのは、2013年8月。
大学に入学して初めての夏でした。

講義のレジュメや自分のノート、試験対策用の資料などをまとめておくのにこれ以上なく便利なアプリだったので、使い始めてすぐに「これは革命だ…!」と思い、すべてのデータを突っ込んだのを覚えています。

当時は講義を受けるのが嫌いで、大学の図書館に入り浸っては、書架の端から端まですべてのビジネス書を読んでいたので、その読書録なんかもすべてEvernoteに書き溜めていました。

名著『ウェブで学ぶ』の香ばしいノート

とにかく時間を持て余していたのか、Podcastも聴き漁っていて、『内田樹 & 名越康文の辺境ラジオ』『ラジオ版 学問ノススメ』『未来授業』といった教養寄りのコンテンツをひたすら文字起こしする日々。

辺境ラジオは僕の心の故郷かもしれない

さらに、Evernoteの革新的な機能である「Webクリップ」。
Webコンテンツを画像+テキスト形式でEvernote上にそのまま保存できる機能です。

TwitterやWebメディアを日夜徘徊していた僕は、いい記事を見つけてはクリップしてEvernoteでニヤニヤしながら眺める狂人でした。

僕のEvernoteにはインターネットの歴史が詰まっている

この頃やったストレングスファインダーでも「収集心」が資質として挙がるくらいに、根っからの情報収集フリークだった僕は、Evernoteを開かない日は1日もないくらいに、Evernote漬けの生活を送っていました。

今思えば、このころの呆れるくらいのインプットが、現在の自分の基礎になっているような気もします。

仕事でEvernoteが活躍した新卒時代

大学を卒業し、会社に入ってからもEvernote愛は冷めやらず、もちろん仕事でもヘビーユーズしていました。

Web系のベンチャー企業に入社したので、業界の最新ニュースや有益なコンテンツを収集しては、会社のSlackに投稿したり、社内のメーリスで発信したり。
議事録や業務メモを残しておいて、あとでマニュアル化したり。

当時は新規事業開発者として事業計画を書いたり、役員向けのプレゼンを練ったり、LPの構成を考えたりしてたので、そういうのも全部Evernoteでドラフトを作っていました。

表も画像も一括で管理できるのが便利なのです

この新卒時代にEvernoteを使っていてよかったなと思うことは、以下の3点に集約されます。

  • 書き言葉にすることで他人に伝えやすくなる

  • 自分の思考を客観的に評価できる

  • Evernoteを整理すると頭も心も整理される

一度、思考を文章にしてみると、自分でも気づかなかった不足とか矛盾に気づいたりしますよね。
自分の思考を文章にして、客観的に評価したうえで「他人に上手く伝えるためにはどうすればいいのか」を習慣的に考えられるようになったのは、Evetnoteのおかげかなと思います。

また、当時は毎晩、その日に作成したノートを見返して、他のノートとマージしたり、いらないものは削除したり、といった「Evernote掃除」をやっていました。
これは僕にとっては瞑想のような時間で、頭と心の整理に非常に役立ちました。

使用頻度が減ったフリーランス時代

会社員からフリーランスになっても、僕の中でEvernoteという存在はずっと「なくてはならないもの」でしたが、2016年ごろには厳しい評価をよく耳にするようになりました。

その発端となったのが、2016年6月に行われた「無料プランで同期可能な端末数の制限」です。
それまで無料プランでも、無制限に複数端末で利用可能だったのが、2台までに制限されてしまいました。

僕は既に有料プランを利用していたので問題なかったのですが、無料プランのユーザーからは「2台じゃ使い物にならない」「別のサービスを探そう」といった声も。

さらにEvernoteに向かい風を吹きつけたのが、Notionの登場。
2021年ごろから日本でもNotion旋風が巻き起こり、みるみるうちにEvernoteを追い抜いていったことは記憶に新しいです…。

2021年2月ごろにNotion(青)がEvernote(赤)を逆転

ちなみに、Googleで「Notion Evernote」と検索すると、検索1位に以下のLPが表示されます。容赦ない。

日本企業にはこんなマーケティングはなかなかできない

このころには僕の仕事のスタイルも少しずつ変わり、インプットよりもアウトプットを重視する働き方になりました。
Evernoteにメモをすることはありましたが、それを見返したり整理する時間も減り、有効活用できていないな…と感じるように。

それでも、長らくお世話になってきたからと、お布施するような気持ちで毎年5,200円を納めてきました。

ついに解約を決意した理由

そしてついに最近、Evernoteの有料プランを解約することにしました。

その理由は、最近のEvernoteを使っていると、得られる「快」よりも、小さく積もっていく「不快」のほうが大きいのでは…?と気づいたことです。

Evernoteはクラウドのノートアプリケーションです。
コア機能は「ノートを書くこと」「ノートを同期すること」「ノートを検索すること」の3つだけ。それ以外には何も求めていません。

しかし、この3つのコア機能のうち、「ノートを書くこと」「ノートを同期すること」の2つの体験がどんどん悪くなっていくのです。

「ノートを書くこと」の体験悪化

Evernoteが革新的だったのは、文字も、URLも、画像も、表も、動画も、とにかくいろんなメディアを1つのノートに集約し、サクサク編集できるという点でした。

Evernoteの登場以前は、多くの人がWindowsやMac純正の「メモ」アプリを使っていましたが、これらは文字情報に特化しているので「これは画像で保存したいのに…」といったニーズに応えられません。
それを解消してくれたのがEvernoteでした。

しかし今のEvernoteは、スマホアプリの動作が遅く、ノートを開くのにけっこうな時間がかかります。文字入力しても反映までに微妙にタイムラグがあり「サクサク編集できる」とは言い難い状況です。
特に画像の読み込み・書き込みの遅さは、2023年のアプリケーションの標準的な水準を遥かに下回っているように感じます。

もちろん、僕のEvernote内のデータ容量が膨らんでるせいもあると思いますが、そういうロイヤルユーザーほど良い体験を提供できるサービスであってほしい、と思ってしまいます。

「ノートを同期すること」の体験悪化

こちらもEvernoteが起こした革命でした。
単なるノートアプリがなぜここまで支持されたのかといえば、やはりコンシューマー向けクラウド黎明期に「複数のデバイスでファイルを同期管理できる」という感動的な体験を提供できたからでしょう。

しかし、Evernoteのクラウド同期機能は時代に合わせて進化できているとは思えません。

一時期は頻繁に「競合」(同期に失敗し、同じノートの複数のバージョンが存在する現象)が発生しましたし、今でもノートの同期にはかなりのタイムラグがあります。

「ノート」という気軽で軽量なファイルを取り扱うアプリケーションだからこそ、同期の体験は最も損ねてはいけない部分だと思っています。


そういうわけで、Evernoteを使っていて得られる「快」よりも、小さく積もっていく「不快」のほうが大きい状態になってしまい、解約を決意しました。

Evernoteは料金プランもちょっと不思議で、僕はこんなにEvernoteを使っているのに、実は無料プランで十分なんです
むしろ有料プランで使いたいと思える機能が特にありません(同期端末数の2台制限は少し不便ですが、メインPCとスマホで使えば困ることは少ない)。

フリーミアムビジネスの料金プラン設計は難しいのです

それでもEvernoteを愛し続ける

でも僕はいまだに、Evernoteは唯一無二の存在だと思っていますし、これからもEvernoteを使い続けます。
そして、もしコア機能さえアップデートされれば、喜んで有料プランを契約し直します。

その理由をもうちょっとだけ語らせてください。

Evernoteは第2の脳である

Evernoteは誕生してから今までずっと、「第2の脳」というブランドコンセプトを打ち出し続けています。

今年1月の買収発表でも「第二の脳」を強調

僕が最初にこれのタグラインを知ったのは、使い始めて数年経ったころでしたが、「あ、自分がEvernoteに感じていた便益はこれだったのか…!」と、雷に打たれたような衝撃を受けました。

「第2の脳」というのは、要するに「知ったことや思ったことは全部Evernoteに放り込んでおきな!そうしたらすぐに取り出せるし、いつかそれが役に立つときが来るよ。」ってことだと理解しています。

人間の脳はあらゆる情報を処理し、蓄積しています。しかし、常に思い通りにそれを検索し、取り出すことはできません。
Evernoteはそんな人間の脳の限界を拡張し、創造性を高めてくれるツールです。決して、ただのノートアプリではありません。

実際、僕は何か新しいことに取り組むときや、気になったトピックを深掘りするときは、いつもEvernoteで検索してみるところから始めます。
「ユニットエコノミクス」「OOUI」「ニューモーフィズム」「反実仮想機械学習」などなど…。そうすると、過去の自分が何か情報を残していてくれるのです。

画像内テキストも検索対象になるのがEvernoteの強み

コンテンツマーケティングやアフィリエイトにより、Google検索はほとんど「汚染されている」と言っても過言ではない状況になりつつあります。
一方で、過去の自分がいいと思って残した情報は、たいてい信頼できます。

これまでも、これからも、Evernoteのようなアプリケーションを使って自分のために辞書を作ってきた人とそうでない人との間には、大きな情報格差が広がり続けるだろうと思っています。

Notionでは管理コストが高すぎる

「同じことはNotionでもできる」と思われるかもしれませんが、僕はそうは思いません。

EvernoteとNotionではそもそも設計思想が真逆です。
Evernoteは「フロー情報」を蓄積・管理するためのもので、Notionはあらゆる情報を「ストック情報」化してくれるものです。

もう少し噛み砕いて言えば、Evernoteは「いろんなメモを雑に放り込んで、検索して見つけること」に主眼を置いている一方で、Notionは「情報を階層化して整理し、チームで管理すること」を重視しています

したがって、Notionは情報を整理してチームで共有する分には非常に便利なのですが、個人で思いついたことを放り込むのには適していません。
正確には、そういう使い方もできるのですが管理コストが上がりすぎてしまい「Notionを使うことが目的化してしまう」状態になります

※会社としてはNotionを愛用しまくっています

日記を書くときに「悲しかったこと用」「楽しかったこと用」「勉強になったこと用」など、複数冊の日記帳を用意する人はいませんよね。
でも、Notionで思いつきを管理するというのは、この「複数冊の日記帳」状態に近いものがあります。これでは創造性は生まれません。

そういうわけで個人向けのノートアプリとしては、いまだにEvernoteを超えるものに出会えていないのです。

好きなプロダクトから離れることの寂しさ

こんなことを書くとワガママの極みですが、Evernoteを解約することに勝手に寂しさを感じています。

自分が大好きだったプロダクトがいつの間にか合わなくなって、使わなくなって、気づけば自分のためのプロダクトではないと感じるようになってしまうことって、ありますよね。

満ち足りていつつも、新しいものが生まれ続ける現代で、特にWebアプリケーションが「一番便利」であり続けるのは非常に難しいことです。
でも、大好きなものはずっと、大好きなままでいたいものです。

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